あのこと

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あのこと

解説

2022年度のノーベル文学賞を受賞した作家アニー・エルノーが若き日の実体験をもとにつづった短編小説「事件」を映画化。「ナチス第三の男」などの脚本を手がけたオドレイ・ディワンが監督を務め、2021年・第78回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した。法律で中絶が禁止されていた1960年代フランスを舞台に、望まぬ妊娠をした大学生の12週間にわたる戦いを、主人公アンヌの目線から臨場感たっぷりに描く。

労働者階級に生まれたアンヌは、貧しいながらも持ち前の知性と努力で大学に進学。未来を掴むための学位にも手が届こうとしていたが、大切な試験を前に自分が妊娠していることに気づく。中絶が違法とされる中、解決策を見いだすべく奔走するアンヌだったが……。

「ヴィオレッタ」のアナマリア・バルトロメイが主演を務め、「仕立て屋の恋」のサンドリーヌ・ボネール、「燃ゆる女の肖像」のルアナ・バイラミが共演。

2021年製作/100分/R15+/フランス
原題または英題:L'evenement
配給:ギャガ
劇場公開日:2022年12月2日

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(C)2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINEMA - WILD BUNCH - SRAB FILM

映画レビュー

3.5逃げられない女性、消される命

2022年12月3日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館
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ニコ

4.5本作を衝撃作と呼ぶことをやめるところから始めたい。

2022年12月31日
PCから投稿

主人公の硬質な佇まいも、寄る辺のない世間の冷たさも、主人公がぶつかる壁の理不尽な高さも、すべてを飾ることなく提示しているのがいい。目を覆いたくなるようなシーンもあれば、当惑するような裸のシーンもあるが、どれも映画ならではの虚飾とは程遠く、2022年の日本での公開作では『セイント・フランシス』と並んで、何を見せるか、何を見せないかという映画のリテラシーを更新する作品になるのではないか。 手法的には『サウルの息子』、内容的には『4ヶ月と3週と2日』に通じるのだが、堕胎にまつわる先達には『ヴェラ・ドレイク』やソダーバーグの『ザ・ニック』、前述の『セイント・フランシス』などがあって、手法が変われど脈々と受け継がれ、叫ばれるべき女性たちの主張とテーマがある。時代設定は 60年代のフランスとしても、現代に連なる物語として、特に若い人たちがこれをフラットな気持ちで受け止められる世の中になって欲しいと乞い願う。

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村山章

4.0かつてない忘れえぬ映画体験となった

2022年12月27日
PCから投稿

映画芸術の最も素晴らしいところは、自分にとって未知なる世界を垣間見せてくれる点だと思う。その意味で本作は衝撃的だった。男性の僕がいま、スクリーンに映し出された可憐なヒロインと秘密を共有し、徐々に増していくお腹の膨らみを感じている。そして彼女の「出産しない」という決断を叶えるにあたっての長く過酷な道のりに寄り添っている。かつて映画を通じてこんな視覚的な経験を生きたことがあっただろうか。印象に刻まれるのは、人にはなかなか打ち明けられない悩みを抱えた彼女の押し黙った表情。それにもかかわらず常に眩く射し込んでくる陽光。両者のギャップは一見すると残酷なようにも思えるが、ふと僕にはこの陽光が原作者アニー・エルノーが若き日の自分に向けて注ぐ一つの励ましの眼差しのようにも感じられた。と共に、本作は決断の重さを描いた物語でもあり、エルノーの忘れえぬ記憶や痛みがここには強烈なまでに焼き付けられているのである。

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共感した! 6件)
牛津厚信

4.5違法の堕胎を望む女学生の苦闘を疑似体験させる衝撃作

2022年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

予備知識なしでぼんやり観始めて、大学生の主人公アンヌが1940年生まれという台詞があり、「ジョン・レノンが生まれた年だ」などと反応し、そこでようやく1960年代の話だと思い至った。 スタンダードサイズの画角は、古い時代のルックに貢献しているだけでなく、プレス資料に「(オードレイ・)ディヴァン監督が本作のアスペクト比を1.37:1にしたのは、カメラとアンヌを完全に同期させるため」とあるように、4対3(1.33:1)よりわずかに広いだけの画角により、両脇の視野が限られるぶん観客は被写体の姿に集中し、やがて彼女の視点に、さらには内面に同化していくような感覚になっていく。そしてもちろん、望まない妊娠をするが、中絶が非合法の時代において堕胎の試みが何度も失敗するなか、週が経過するにつれて焦りが募り、そのことで頭が一杯になり視野狭窄に陥る感覚や閉塞感も、このアスペクト比によって強調されている。 ディヴァン監督はこれが長編2作目で、ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞受賞という快挙。2週間早く日本公開された「ファイブ・デビルズ」もレア・ミシウス監督の第2作だし、フランスでは女性監督の躍進が続いている印象で、これも歓迎すべき傾向だ。 【12/13更新】初回投稿時にレイティングに関して誤った記述があったことをお詫びします。当該部分を削除しました。

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高森 郁哉