ある男のレビュー・感想・評価
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過去に向かうベクトルとそれを打ち消そうとするベクトルの、衝突ではなく昇華を描いた一作
事故で亡くなった夫は別人だった、というミステリアスな事態から展開していく物語ですが、「彼の正体は!?」という謎解きよりもその背景(動機)を少しずつ解きほぐしていく繊細な描写に注目したい内容となっています。あるいは冒頭に登場するルネ・マグリットの絵画と本作がどう同調しているのかを探る物語、ともいえるでしょう。
主人公谷口里枝を演じる安藤サクラをはじめ多くの登場人物の見せる、何かを押さえ込むような表情と立ち振る舞いは、本作の核心部分にも関わる重要な要素となっており、注目に値します。そんな制約から自由である(かのように見える)柄本明演じる服役囚の言葉と表情の強さも。
映像的な主張もまた物語の語り口同様抑制的で、かなりの年月が堆積しているものの雑然とはしていない文房具店や、洗練されているけどどこか空虚な城戸弁護士の自宅など、その場所の雰囲気をごく自然に体感できる美術に集中している印象があります。一方、繰り返される子供の背中越しの映像は、その先に何があるのか、という期待と不安を表現していて、本作においてとても印象的な「引っかかり」として機能しています。
本作は明らかに、「排除」にさらされる人々、あるいは排除に対する「畏れ」について言及していますが、それに対する作品としての応答の仕方は、例えば『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)を想起させるもの(というかむしろ『マンチェスター』のその先を描いている)で、結末における悠人(坂元愛登)の言葉とそれを受けた里枝の反応が、本作全体を貫くテーマを凝縮している化のようでした。最後の最後に仕掛けられたエピソードは、単なる感動作にしないぞ、という原作者と映画製作者のメッセージのようで面白かったんですが、評価はやや分かれそうです。この部分について、肯定的評価と否定的評価のどちらが多いのか、ちょっと気になります。
パンフレットは最近の水準からすれば平均的な価格ですが、丁寧な解説やインタビュー記事が豊富に盛り込まれていて、とても満足感の高い内容でした!
地味なタイトルですが名作だと思いました
結婚して自分と生活を共にしてきた旦那が亡くなった後で、その経歴が別人のものだったというミステリー映画です。
未亡人になった妻から依頼を受けた弁護士事務所が、亡くなった旦那の隠された過去の経歴の調査を開始するのですが、驚きの結末を迎えます。
この映画の始まりと最後に映し出される絵画が伏線となっていて、作品全体に重いトーンを与えています。
第46回日本アカデミー賞で、最多8部門で最優秀賞受賞したのも、納得です。
地味なタイトルですが、私は名作だと思いました。
余韻が残る作品
物語は淡々と進むが、キャストが自分達の役割をしっかり演じていた印象です。映像で全てを解決せずに、観る側へ感じ方を投げかけている。原作もさることながら、監督が良い作品に作り上げたんだと感じました。
小説よりもわかりやすくて面白かった。 難しい法律問題をきちんと説明...
小説よりもわかりやすくて面白かった。
難しい法律問題をきちんと説明し、登場人物も際立っていた。
視聴者を考えさせる終わり方も秀逸
逃れられない闇
付き纏う自身のルーツに翻弄されるミステリー作品。
非常にゆっくりと、ページをめくるように進む物語が秀逸でした。
そんな作りだからでしょうか、安藤サクラを始めキャストの演技をじっくりと堪能できます。
それと窪田正孝ですね。気がつくと良い雰囲気を出すようになってました。
妻夫木聡も表情がうまく、段々と重く沈んでゆく感じが良かったです。
作品はそれぞれが抱える“逃れられない闇”、それらが実に巧妙に絡み合っていました。
社会的な差別や偏見がずっと横たわり、絵画で始まり絵画で終わる。
この皮肉めいた強烈な仕掛けが効いてました。
きっとどこにでもいるであろう「ある男」の物語でした。
日本アカデミー最多受賞作品なので
観る機会を逃していましたが日本アカデミー賞を最多部門受賞した作品なので少し遠くまで観に行きました。冒頭の安藤サクラと窪田正孝の出会いの場面だけで延々と見ていられます。やはり良い役者さんはただ見てるだけで良いですね。妻夫木さん含めてメインの役者さんも脇を固める役者さん達もとても素晴らしかったし脚本も素晴らしいかったです。ただ個人的な日本アカデミー賞は僅差で流浪の月の広瀬すずと松坂桃李、横浜流星さんでした。
モヤモヤ感がたまらない
出だしから引き込まれてしまうような作品ではなく睡魔が襲いますが少しずつ引き込まれます。
皆さんご存知のとおりアカデミー賞ということで観ました!
ラストに近くなると色々見えてきます!
やっぱりか…って思ったりします!
気になる方は観てください!
何と言ってもアカデミー賞ですから…
私の個人の評価はまあ普通より良いってだけですが心には残ります。
濃厚骨太な‘鑑賞’すべき邦画
浮遊した【個】なんて存在しない、つまり何かしらのルーツや社会などの集団、評論家の西部邁さんが仰っていた【真空パック】状態の個など存在し得ない。
その十字架とでもよべる運命を背負った人たちの、もがきながら懸命に生きる物語だ。
全編を通して出てくる自分とは違う境遇の人への無理解・無神経・差別意...
全編を通して出てくる自分とは違う境遇の人への無理解・無神経・差別意識・排他意識・・・
そんなものにあてられつづけて、しんどいしんどい、、
でも、人と人 としても関われる。捨てたもんじゃない!と!!
おもしろかった。そして、役者さんたちがすてき!
素敵な映画、そして安藤サクラ
安藤サクラの演技を見るだけでも価値がある
冒頭のシーンの表情から凄い。
もちろん映画としてのできも素敵
「人とは何か」を練られた構成で、しかし静かに落ち着いたテンポで考えさせる。
ひとつひとつのシーンに込められた意味が迫る。
ラストシーン。そう、他人の人生を語ることが自分の来し方行く末を考える事になる。
演技に魅せられ、ずっしり心にくる映画
キャストが豪華で割と楽しみにしていた作品。
序盤から窪田さん安藤サクラさんの静の演技に引き込まれた。
さすがだった。ずーっしり重ーいあの感じが出せるのすごいなって。
でも、自分の理解力無さすぎて、妻夫木さんが調査してる途中の場面で混乱しかけた。
親のこととか家柄とか生まれた時から決まってしまっていること、どうしても変えられない過去、いろいろ抱えて抱えきれなくなってこの映画のある男のようになってしまっている人が現実世界にいてもおかしくないよなぁって思えた。
最後の最後に主演がなんで妻夫木さんなのか種明かしされるあの終わり方も好きだった。
愛する人のなにを見ているだろうか。
肩書きやカテゴライズされた要素はどれ程の意味を持つのだろう。誰かを愛するとき、その人のなにを見ているだろう。そんな問いかけを感じました。
平野啓一郎原作の脚本は期待を裏切らない密度で、平野さんが提唱する分人主義をベースに、戸籍ロンダリング、死刑制度、ヘイトスピーチなどをテーマに取り入れています。哲学的でありながら物語である意味を強く感じる主張がありました。
「戸籍を入れ替え生き直す。それぐらいのことをしなければ生きていけない人もいるんだ」特に印象に残った台詞です。
ミステリー要素も濃く、サイコホラー感もあり迫られるような音の使い方は追い詰められる、逃れられない、そんな登場人物の感情と観客をリンクさせる演出で追体験させられているようでした。映画館で映画観てるなあ。という実感を強く持ちましたし、素直な感想は「怖かった」です。
場面によって主人公が変化する構成も面白かったです。複数人の人生に焦点を当てているため登場人物も多いのですが、煩雑さもなく流れが入ってきやすかった。
極力情報入れずに観たため、次々出てくる演技派俳優に驚き、笑みが溢れてしまうほどお芝居に圧倒され続けられました。
里枝の息子役坂元愛登さんもお芝居素晴らしかったです。間の取り方空気の作り方の事実っぽさたるや。この2人のシーンは台詞演出ともに良いものばかりで見どころの一つです。
買わないと何か悪い店には入りづらい
結婚相手の男が実は誰なのかが分からない。
その理由をひもといていくミステリー。中々面白い作品である。
物語の流れで主人公が変遷する。
良い点
・お経のリズムに敏感な妹
・刑務所の人
悪い点
・難解な交換
・そっくり
・むしろややマザコン
その他点
・在日
・調査費用
現代版「砂の器」
人間の宿命を描いた不朽の名作「砂の器」を思い出した。
ところどころ分かりにくかった部分は原作を読んでフォローしたいと思う。
いずれにせよ今年の映画賞レースのトップを走る作品であることには納得できた。
演技陣も素晴らしかった。
映画を見る事
2022年いろんな映画を観てきた中で1番面白かった作品。
素晴らしい映画体験だった。
エンドロールで感激のあまり震えが止まらなかった作品。久しぶりにそういった作品に出会えたし、生涯のベストに入る作品。
ドラマ的な展開やミステリー要素などを期待すると地味な印象かもしれないが、俳優陣の方々の演技にスキがなくこれほど見応えがある作品は滅多に出会えないと思う。
妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝という豪華なメインキャストの方々の演技は群を抜いてよかった。安藤サクラさんの人妻の色気が漂っていた感じとか、妻夫木聡さんの演じる城戸の葛藤や自分を見つめ直す姿とか。特に窪田正孝さんの役はめちゃくちゃ複雑でやりづらそうなキャラクターだったのにも関わらず、それを上回る様な印象的なキャラクターになっていた。凄まじい迫力を感じました。これはもう助演男優賞になるでしょう。
原作者、平野啓一郎先生が唱える分人主義がテーマになっている本作。対人関係ごと、環境ごとに分化した、異なる人格があるという考え方。中心に一つだけ「本当の自分」を認めるのではなく、それら複数の人格すべてを「本当の自分」だと捉えること。今の世の中は、SNSだったり、職場だったり、学校や環境、過去や現在によってキャクターを演じなければならないシーンと、個人の個性のギャップに悩んだり、もどかしく思う事で疲れてしまうシーンに溢れている。そんなん気にするなとシンプルに考えられる人もいるのかと思うけど、実際状況に合わせて変化させることに疲れている私にとって窪田正孝さん演じる謎の男Xと謎の男を追う中で、自らのアイデンティティを見つめ直す妻夫木聡さんの演じる城戸の姿はとても印象的だったし、刺さるものが多かった。
エンターテイメントとして一級品なのは間違いない中で、映画の見せ方、ストーリーの構造の描き方が感激だった。
映画の構造的に面白いのが、謎の男Xを追う城戸という状態が正しく"映画を見る事"に近い状態になっていて、その城戸を追いかけている観客までもがシンクロする感覚になっている。そしてラストのあるシーンで観客と主人公が混ざり合う様な強烈なカタルシスを味わうことがこの映画の1番の面白さと人生の機微を体験できる描き方が本当に本当に凄まじかった。映画を見る事で自分の内面を見直す、なにかヒントがもらえる事が映画体験の醍醐味の一つ。城戸とXを見つめることで自分のあり方を考えるキッカケになる様に出来ている。
野村芳太郎監督や、松本清張作品、安部公房作品の映画が好きな私にとっては大変心打たれる作品だった
妻夫木をキャスティングした意図
作品はしっかりしたストーリーで終始楽しめました。
この作品から感じた事は、どんなに努力して手に入れた立派なステータスやどうしようもないコンプレックスがあろうとも人生の幸福度や満足度はその個人にゆだねられているという事だと思います。
変わりゆく多様性の時代へ
いかに自身を強く持てるか
自分の幸せは自分で決めましょう
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