ある男のレビュー・感想・評価
全385件中、121~140件目を表示
誰にでも成り得るし、確かなものは無い
目の前の人間が、確かなものは何も無く名前も素性も血も何もかもが虚構の中にあるように思えてくる。ボクサーのリングネームだったり、離婚や家庭環境で変わる名字に為す術なく苦しめられる子どもだったり。秀逸な表現で、自分が何者か分からなくなり、何者にでも成り得ることをみせつけられた。
原作と違うラストシーンに新鮮味を感じました。
原作は既読です。
映画は原作と異なり、城戸が旅先のバーで客と話すシーンで終わっています。
まるで谷口大佑に成り済ましたような城戸。
このシーンに変えた脚本のアイデア、技アリと思った。
違和感を感じる人もいるかも知れないけれど、真面目でやや堅苦しい城戸。
城戸が「自分にも別の人生を・・・」
自分もそんな型に捉われない視点で生きられたら?
そんな柔らかな生き方もあるとしたら少し城戸を楽にしたように感じた。
この真面目な原作に、奥行きと引き出しが増えた感じです。
人間は真面目な城戸弁護士でさえ、別の人生を夢見たり、
別の生き方を選ぶ選択肢が残っている。
もしかしたら、新しい人生を生き直すことも不可能ではないかも知れない。
この考え方は必ずしもこの映画の趣旨とは違うけれど、生い立ちや出自から
自由になることも可能かも知れない。
宮崎県の小さな町で文房具屋を営なむ離婚したシングルマザーの
里枝(安藤サクラ)。
再婚した夫の谷口大佑(窪田正孝)の名前が偽名で、本人ではなかったという
驚きの事実が判明するところから物語りが動き出す。
いったい里枝の夫の大佑は誰だったのか?
里枝は弁護士の城戸に大介の身元探しを依頼する。
そうして紆余曲折を経て、ひとりの男の悲しい過去が明らかになる。
谷口大佑を名乗っていた「ある男」
その過去は非常に厳しい過去で、多分その境遇だったら
多くの人は戸籍を買い取ってでも別人に生まれ変わりたいと願うだろう。
でも後2〜3年したら、戸籍を買い取るなんて無理になると思う。
マイナンバーが普及して別人に成りすますなんて不可能だと思う。
戸籍ブローカーの柄本明。
大火災で殺した人物と入れ替わった「飢餓海峡」
また、別人に成り済ました「砂の器」にもよく似ている。
その2つより「ある男」はそんなに推理小説的な展開はしない。
不幸な男が、戸籍を買って生い立ちを変えてごく平凡な人生に
ルート変更した。
そして事故で死んだ。
「ある男」を探す弁護士の城戸。
城戸もまた在日3世から帰化して、アイデンティティに悩みをを抱えている。
平野啓一郎の言うテーマ。
「分人主義」
人は対峙する相手によって様々な自分が現れる。
自分(私)に何人の自分がいて、何人を演じ分けられるか疑問だが、
人は案外無意識に、その場その場で違う自分を演じ分けながら、
生きているのかも知れない。
特異な物語りが、ラストシーンを変えたことにより、
少し身近に感じられた。
過去と今と未来
窪田正孝という俳優は恐ろしい。
日本アカデミー賞受賞後の凱旋上映にて。
窪田正孝が父親と息子の二役を演じている。
基本的には内向的な役柄が得意な役者なのだと思うが、テレビドラマで彼を初めて見たとき、少年サイコキラーの役に戦慄したのを覚えている。柔和と狂気の両極端を演じきれる役者だ。本作では、そのカメレオンぶりが発揮されている。
鏡に写る自分を見て癇癪を起こすときの“顔の演技”には、本当に驚く。
主人公は、戸籍を偽っていた男の正体を調査する弁護士。
彼は、調査を進めるうちに迷宮へと入り込んでいくのだ。
田舎町に流れてきた男と再婚して女児をもうけたシングルマザーだった女。
父親になった男を慕っている、女の連れ子の少年。
戸籍を上塗り上塗りして、出自を完全に消し去ろうとした男。
男が別人であることに気づいた、アナクロな偏見の持ち主である温泉旅館の長男。
投獄されている戸籍ブローカー。
男と戸籍を交換した行方不明の温泉旅館の次男。
行方不明の男を想っている元恋人。
夫に隠し事がある弁護士の妻。
他にもユニークなキャラクターが主人公弁護士に心理的影響を及ぼしていく。
そして、人の存在において過去とは何か、愛した人の存在証明とは何か、自分と他人を別けるものは何か、様々な問いを投げつける珠玉のミステリー映画だ。
「私はいったい誰を愛したんでしょう…」
「仮に、Xさんと呼ぶことにします」
安藤サクラが、映画の冒頭で見せる涙のシーンで、いきなり物語の穴に引きずり込まれる。
間もなくして、窪田正孝が実に訳ありげに登場するのだ。
おずおずと、文具店店主=安藤サクラに交際を申し込む正体不明の男=窪田正孝。
弁護士=妻夫木聡の登場順は遅い。
キーマンとなるのは、獄中の男=柄本明。また、この映画も柄本明が支える。
刑務所の洞窟のような長い廊下はいったい何だろう。まるで、秘密基地に続く地下通路だ。面会室のデザインも奇抜だ。
この非現実的な刑務所の美術が、柄本明の怪演と、それに対峙して圧迫されていく妻夫木聡の心理を際立たせる。
調査を請け負ったイケメン弁護士に、レクター博士よろしく関西弁の柄本明がヒントを与えながら揺さぶる。
弁護士は、妻の父親、妻、自身のルーツなど、幾つもの葛藤を背負っているのだった。
徐々に明かされるX氏の生い立ちは熾烈なものだった。
弁護士はいつしか彼と同化していた様だ。そのことを我々は衝撃のラストシーンで知らされる。
映画のオープニングで写し出された一枚の絵がラストシーンの演出に用いられている。絵を見つめる妻夫木聡の後ろ姿が、絵と重なりあう見事な演出。
亡くなった継父の素性を聞かされた安藤サクラの息子(坂元愛登)が、父の実子である幼い妹に、自分がいつか話すと言う。
この兄が引き受けた役割は重く、いつか彼から事実を聞かされる妹のことを思うと、いたたまれない思いだ。
戸籍にまつわるサスペンスと言えば『砂の器』を思い出す。
空襲によって焼失した戸籍の再生制度を利用したカラクリを松本清張が発表してから60年弱、本作(原作は未読だが)では戸籍を売買する仲介人が登場する。
別人として生きたいと考える人は少なくないのかもしれない。
戸籍交換とまではいかなくても、誰も知らない土地でやり直せたら、とは思ったりする。
このレビューサイトでも、メッセージを何度か交換したレビュアーさんとは、お互いリアルには知らないのに友人気分になったりする。
全く素性を知らないから、互いの評価に邪推がないのが心地よい。
そんな、自分をゼロから評価してくれる人たちの中で人生をやり直せたら…どうだろう。
奥底にあるモノ
過去に向かうベクトルとそれを打ち消そうとするベクトルの、衝突ではなく昇華を描いた一作
事故で亡くなった夫は別人だった、というミステリアスな事態から展開していく物語ですが、「彼の正体は!?」という謎解きよりもその背景(動機)を少しずつ解きほぐしていく繊細な描写に注目したい内容となっています。あるいは冒頭に登場するルネ・マグリットの絵画と本作がどう同調しているのかを探る物語、ともいえるでしょう。
主人公谷口里枝を演じる安藤サクラをはじめ多くの登場人物の見せる、何かを押さえ込むような表情と立ち振る舞いは、本作の核心部分にも関わる重要な要素となっており、注目に値します。そんな制約から自由である(かのように見える)柄本明演じる服役囚の言葉と表情の強さも。
映像的な主張もまた物語の語り口同様抑制的で、かなりの年月が堆積しているものの雑然とはしていない文房具店や、洗練されているけどどこか空虚な城戸弁護士の自宅など、その場所の雰囲気をごく自然に体感できる美術に集中している印象があります。一方、繰り返される子供の背中越しの映像は、その先に何があるのか、という期待と不安を表現していて、本作においてとても印象的な「引っかかり」として機能しています。
本作は明らかに、「排除」にさらされる人々、あるいは排除に対する「畏れ」について言及していますが、それに対する作品としての応答の仕方は、例えば『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)を想起させるもの(というかむしろ『マンチェスター』のその先を描いている)で、結末における悠人(坂元愛登)の言葉とそれを受けた里枝の反応が、本作全体を貫くテーマを凝縮している化のようでした。最後の最後に仕掛けられたエピソードは、単なる感動作にしないぞ、という原作者と映画製作者のメッセージのようで面白かったんですが、評価はやや分かれそうです。この部分について、肯定的評価と否定的評価のどちらが多いのか、ちょっと気になります。
パンフレットは最近の水準からすれば平均的な価格ですが、丁寧な解説やインタビュー記事が豊富に盛り込まれていて、とても満足感の高い内容でした!
地味なタイトルですが名作だと思いました
結婚して自分と生活を共にしてきた旦那が亡くなった後で、その経歴が別人のものだったというミステリー映画です。
未亡人になった妻から依頼を受けた弁護士事務所が、亡くなった旦那の隠された過去の経歴の調査を開始するのですが、驚きの結末を迎えます。
この映画の始まりと最後に映し出される絵画が伏線となっていて、作品全体に重いトーンを与えています。
第46回日本アカデミー賞で、最多8部門で最優秀賞受賞したのも、納得です。
地味なタイトルですが、私は名作だと思いました。
逃れられない闇
日本アカデミー最多受賞作品なので
モヤモヤ感がたまらない
濃厚骨太な‘鑑賞’すべき邦画
全編を通して出てくる自分とは違う境遇の人への無理解・無神経・差別意...
素敵な映画、そして安藤サクラ
演技に魅せられ、ずっしり心にくる映画
キャストが豪華で割と楽しみにしていた作品。
序盤から窪田さん安藤サクラさんの静の演技に引き込まれた。
さすがだった。ずーっしり重ーいあの感じが出せるのすごいなって。
でも、自分の理解力無さすぎて、妻夫木さんが調査してる途中の場面で混乱しかけた。
親のこととか家柄とか生まれた時から決まってしまっていること、どうしても変えられない過去、いろいろ抱えて抱えきれなくなってこの映画のある男のようになってしまっている人が現実世界にいてもおかしくないよなぁって思えた。
最後の最後に主演がなんで妻夫木さんなのか種明かしされるあの終わり方も好きだった。
全385件中、121~140件目を表示