ある男のレビュー・感想・評価
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窪田くんが素晴らしい
愚行録と同じ監督さんだからでしょうか、 妻夫木くん、なんか、雰囲気がかぶっちゃいましたね。 というか、有名な役者さんが多すぎて、 誰が主人公? 仲野太賀さんなんて、台詞ほとんどなかったけど… 窪田正孝さん、素晴らしかったです。 眼の表情だけで違う役を演じ切るという。 ストイックな役者さんてちょっと苦手なんですが、さすがだと思いました。 妻夫木くんは、シリアスな役もコミカルな役も上手だけど、次回はマジックアワーのようなはじけたやつが観たいです。 あとは、結構小藪好き笑 内容としては、 原作平野啓一郎なので、ミステリーとして見ると期待外れ。 映像2時間では描き切れないだろうから、原作を読んでみたいですね。
重たいなあ… サスペンスを装った(?)社会派メッセージの強いタイプ...
重たいなあ… サスペンスを装った(?)社会派メッセージの強いタイプの作品でした。 ”ある男”が誰だったのか? 確かにここは大切なのですが、”なぜある男になったのか?”が重要な感じ。 何かに似てるな~~と思ったのですが「凶悪」ですね。 第三者が当事者と関わることにより、大きく影響を受けてしまうというプロット。 この作品をただの物語として見るか、考えさせられる”テーマ”としてみるかで評価も変わるし難しい… 何度も見たい作品では全くないのですが、1度でおもしろい!と理解できるような作品じゃないんですよな~ こどもにとっての”苗字が変わる”という出来事がいかに苦しいか、愛した男のことを本当に理解していたのか?自分の築いた人格は、結局出生には抗えないのか、犯罪者の人権は? 語るべきことは沢山あるのでしょうが、私にはまだ消化しきれない部分が多い。 サブスクに見放題出来たらもう一回見ようかな。
安物のワインにヴィンテージのラベル
小籔の一言にドキッとしてしまった 愚行論での演技も良かったけど、妻夫木聡の爽やかな笑顔にジトッとした内面が垣間見える目が良かった。サスペンスなのに終わってほしくない、まだ見ていたくなる、そんな映画でした。
より3者の深掘りを期待した
2022年劇場鑑賞92本目 秀作 67点 2022年日本アカデミー賞を各部門総なめにした作品 正直箔がある風に並べて固めて持ち上げてヨイショした感が凄いし、名誉に見合ってないと思う 役者陣の演技派揃いの具合は頷けるんだけど、んー数十年後にに振り返った時に名前だけ残って、これに席を奪われた他の名作が語り継がれないのをその当時にちゃんと足を運んで見てた人間からするとなんとも不甲斐ない 別にそこまで悪くはないけど、絶妙に響かない こちらの骨まで震えてこないんですよね、1年通して上映のタイミングもいい時に出来たし、演技派揃えてそれっぽいポーズした題材だから恵まれましたねって感じ 日本アカデミー賞に相応しいかは置いておいて、個人的に2022年邦画ベストは川っぺりムコリッタか猫は逃げたです
名刺も戸籍も公信力はない?
本作は別人に成りすました「ある男」の正体と過去をたどる物語。 戸籍の売買により、別人に成りすまし、己に巣食う過去やトラウマからは逃れようとする男はこう思ったはずだ。「酸味」の強すぎる自身の人生を変えたい。せめてラベルや名札だけでも。ただ、鏡に映る自分の姿がそれを許さない。 「ある男」の経歴をたどる物語をとおして 「別人の人生を生きられたなら」、「人生をリセットできたら」と思う心に共感するとともに、「真」の人生だろうが、「偽」の人生だろうが、その歩み方次第なのだと感じた。 今回の真相を追う弁護士城戸にもとあるコンプレックスを抱えており、 物語ラストにまさかの展開が待っている。 ミイラ取りはミイラになったのか?
どんな男なの❓
夫と死別したヒロインが、夫がまったくの別人と判明、知り合いの弁護士とともに夫の過去を探り始める・・・結論としては夫が他人と戸籍を交換(?)していたという事ですが、夫は父が死刑囚だったため、交換した相手は家業の跡継ぎをめぐる兄との確執のため‼️日本アカデミー賞の作品賞を受賞した作品とのことで、期待してたのですが、窪田正孝と仲野太賀のキャラが戸籍を交換するくだりで、ドラマ的に深みというか説得力と、もう一捻り工夫が欲しかったです‼️なんか全然胸に迫ってきません‼️ただラスト、妻の裏切りを知った妻夫木聡の弁護士の顛末は戦慄を感じましたので、☆一つオマケです‼️
窪田正孝に胸を鷲掴みにされました
里枝の手を握り「りょうくん、りょうくん」とやさしく声に出す大祐。窓ガラスに映った自分の顔に反応し取り乱す彼をやさしく抱きしめ「大丈夫、大丈夫」となだめる里枝。 これからの二人の温かい人生を物語る大事なやりとりだった。 幸せとは、人生にこういう相手がそばに居てくれること。賑やかな朝食シーンが見事に語っていた。 親に似た自分の肉体とルーツに苦悩を抱えて生きてきた彼にとって、里枝と子どもたちと過ごした幸せな時間だけが、誰の複写でもない、彼自身の人生だった。 マグリットの「不許複製」。戸籍は複写可能だけど、愛は複写不可能だ。外面の幻ではなく内面の愛をもらったからこそ悠人は寂しい。 一方。立派な職業、上質な暮らし、美しい妻子を得た城戸の未来は順風満帆のはずだ。しかし、外面を整えることに懸命に生きてきた彼も、不安定な苦悩を抱えて生きている。差別主義の下衆親に抗議しない妻も、外面が大事な彼と似た者同志かもしれない。本音で繋がっていないような夫婦。 果たして今の自分の人生は本当に望んだ人生? そこでラストを想像してみる。バーで通りすがりの人物に、城戸は、田口の人生を自分の人生として語る。 城戸は長期出張とかなんとか言って失踪するんじゃなかろうか。 自分の肩書きや過去に関係なく、里枝と大祐のように、ありのままの自分が惚れ合える相手と、明るい未来を歩みたいんじゃないかな。 和製レクター博士、最高だった。
「ある男」とは誰か
冒頭、そしてエンディングに映される、シュールレアリスムの画家:ルネ・マグリットの絵「王様の美術館」が本作を見事に象徴しています。 人は日常の中で知らず知らずのうちに、一定の固定観念に縛られて物事を見聞きしてしまっていて、ほんの少し視点をずらすと、実は全く異なる世界が広がっている、その危ういほどの微妙なバランスの上を綱渡りのように歩んでいるのが人生である、ということを感じさせる作品です。 本作は、芥川賞作家・平野啓一郎のベストセラー小説の映画化ですが、原作にはマグリットの絵は引用されておらず、このカットを入れる、而もファーストシーンとラストシーンに挿入することで、本作に世の中の不条理感と不可思議で無気味な空気感を漂わせることに成功しています。特にラストは奇怪さがより増幅され、背筋が凍る思いで慄然とさせられ、観終えた後、あまり愉快な思いはしませんでした。 前半は、安藤サクラ扮する武本里枝の視点でホームドラマ風に緩く進み、窪田正孝扮する谷口の事故死から、物語は一気にサスペンス調に切り替わります。ただサスペンスドラマのような体裁を取りながら、冒頭に述べましたように、本作は謎を解くことが主たるテーマではありません。それは窪田正孝の目に終始生気がなく、まるで生きている人でない、一種の亡霊のような感覚がするのが、後々への伏線になっていることにつながります。 そして、物語の転機では常に雨が降っているのも象徴的です。またアクションも美しい自然描写も一切ない、人と人との会話により進行する本作のようなストーリー展開では、つい人物の顔の極端な寄せアップを交互に映し、やたらと無意味に緊張感を強調するようなカット割りにしがちなのが、本作では寄せアップは殆どなく、やや引いた落ち着いたカットでつながれます。観客は寛いで観賞できながら、それゆえにいつの間にかスパイラルに社会の不条理性・不可解性の泥濘に取り込まれていきます。 ただむやみに手持ちカメラを多用しますが、これはあまり意味がありません。画面を揺らして不安感と緊張感を高めようとしているのでしょうが、本作に限っては不要です。私は手持ちカメラのカットのたびに平常心に戻り、却って興醒めしていました。 独特の怪しい空気感が漂う、不思議な趣の本作ですが、率直に言って社会問題を余りにも多く揃え広げて見せ過ぎており、その結果焦点がぼけてしまっています。人種差別・夫婦間の不信・親による差別/虐待・仮面夫婦・戸籍交換・・・、深刻で重篤な問題ばかりで、小説なら読みこなせても、2時間の映像にまとめねばならない映画では明らかに盛り込み過ぎており、脚色に大いに難ありと思います。 さて、タイトルにある「ある男」とは一体誰のことか、脚本通りに捉えれば、その正体を追い求めた、自称・谷口大祐のことなのでしょうが、実は主人公である、妻夫木聡扮する城戸章良のことのようにも、或いは柄本明扮する謎の囚人・小見浦憲男にも思えます。 そう、きっと世の人々は遍く仮面を被った日常と他人には見せない裏の顔を持った、“ある男”なのではないでしょうか。
お箸であんな風に食事を勧める人がいるかな?悩む人にあんな風に怒る人...
お箸であんな風に食事を勧める人がいるかな?悩む人にあんな風に怒る人いるかな?突然道に寝転がって悲しむ人いるかな?刑務所での接見で、あんな対応あるかね? 演出が自己満足的で、安っぽく、折角のテーマが届かない。
妻夫木やるなあ 真木よう子とちくるてんなあ
原作未読 面白い!推理小説的にも論理がしっかりしている。 妻夫木聡、内面に押さえつける演技も絶好調。 重くなりがちな話を小藪が関西弁で和ませる。 さらにこの作品のテーマを背乗り、在日、拉致と絡め これをニホンガーに結び付ける作法だと白けてしまうが 監督曰くデリケートな部分を敢えてオープンにして 多様性を表現したと。 この監督の心意気に賛同! 80点 3 Tジョイ京都 20221118 パンフ購入
なんかありそうだけど
原作は読んでいないので映画としての印象になるが、石川慶とプロモーション用の装丁から愚行録や吉田修一や李相日のようなものを予測&期待して見た。が、登場人物が入り乱れ、追えなくなっていく。リアルなタッチだが話や人物はメルヘン。罪悪感と在日のパラメータを同線上にしようとするが乗らなかった。 いまの日本映画は悪人が起点になっている。韓国ノワールの台頭と悪人によって多くの日本の映画監督が李相日ぽいムードを真似しはじめた。 多数の日本映画のリアリティ表現に李相日の存在が見えてしまうことに加え、瀬々や三島や荻上やsabuなど“人間の深淵を見つめています”ヴァイブを発する李相日ぽい作風に軌道修正した俗物も多かった。 が、石川慶は別の経路から来た人で来歴にポーランドのウッチ映画大学で学んだ──とあり、デビュー長編からして秀作の愚行録、日本映画臭のない映画監督といえると思う。 因みに日本映画臭とは画からにじみでてくるクリエイターの自我のこと。俺様気配、昭和ポルノ、アート系な驕り、わかるひとにはわかるムード・・・。 映画そのものよりも前面に承認欲が見えてしまうことを日本映画臭と言う。(「言う」つってもひとりで言っているだけだが。) これは日本映画臭がなくお涙でもなかったから安心して見ていられたが、焦点が定まらず雑然とした印象が拭えなかった。 また、ある男(窪田正孝)が積極的に母性本能をくすぐりにきているのが釈然としなかった。 おとなしい林業従事者。絵を描くが、絵はびみょう。「鏡に殺人鬼の親父を見いだして動揺するから」鏡を見るとうろたえる。 男目線で見れば、ある男が戦略的愚直をつかって女を釣ろうとしているのは明白だった。実際口べたな雰囲気で文具店に通い詰め寂しげな寡婦をゲットする。筋書き上仕方ないものだったにせよ、いかにも母性本能をくすぐりそうな窪田正孝が母性本能をくすぐりそうな役をやっているのがイヤだった。 つまり、ある男は犯罪者の親を背負った不幸キャラを演じている男であって、トラウマに侵犯された男ではなかった。ように見えた。 逆に清涼剤になっていたのが小薮千豊。少ない登場シーンだったが出てしゃべるだけでそこをなんばグランド花月に変えた。陽性、のっぽ、野太い声、ムダにするどい眼光。人情味にあふれ、またハッキリ5かマネーの天使でも見るか、という気分にさせた。 韓国へ行き「日本人であることを恥ずかしく思う」という“マーケティング”をしたことがニュースになっていた女優も出ていた。 この映画の在日設定も、肉親が犯罪者であることの罪悪感と、在日に対する日本人の罪悪感を交叉させるつもりがあったのかもしれない。 いずれにせよ在日が絡む話は日本では高評価へつながる。 はたして映画は多数の賞をとった。 世には正装して出来レースを発表する形骸プライズがある。日本アカデミー賞もそれ。カンヌやサンダンスのように、あるていど民意や審査基準が推察できないプライズは、庶民にとって意味がない。がんらい日本は旧弊で権威主義な映画製作システム自体に問題があり、コンペティションが成り立つような成熟した業界ではない。 石川慶は日本映画臭のない監督だが、この映画はプライズをとるほどのものではなかったと思う。だが第46回日本アカデミー賞にて作品、監督、脚本、主演男優、助演男優、助演女優、録音、編集、の8つの最優秀賞を受賞したとのこと。 編集とか録音とかって選考理由あるんだろうか。米アカデミー賞に寄せて創設したものなんだろうが、プライズを監査する第三者がいるんだろうか。内輪で決める映画プライズってほんと意味ないと思う。
2本立て2本目。死んだ夫は別人だった。ストーリーはなかなか面白かっ...
2本立て2本目。死んだ夫は別人だった。ストーリーはなかなか面白かった。死刑囚の息子が別の名前を求めるのはわかるが、それ以外の人の理由が理解不能。 有名俳優がちょこちょこちょこちょこ登場。無駄に贅沢。仲野太賀、なんだった(笑) ここでそんな行動する?って場面も多々。最初のカップル成立とか、突然ブチギレボクシング会長とか。ラストもそうだ(笑笑)
弁護士の城戸(妻夫木聡)は、 かつての依頼者・谷口里枝(安藤サクラ)から、 亡くなった夫・谷口(窪田正孝)の身元調査をして欲しいという奇妙な相談を受ける。
動画配信で映画「ある男」を見た。 2022年製作/121分/G/日本 配給:松竹 劇場公開日:2022年11月18日 妻夫木聡 安藤サクラ 窪田正孝 清野菜名 眞島秀和 小籔千豊 坂元愛登 山口美也子 きたろう カトウシンスケ 河合優実 でんでん 仲野太賀 真木よう子 柄本明 平野啓一郎原作 ずっと見たかった作品をやっと見ることができた。 弁護士の城戸(妻夫木聡)は、 かつての依頼者・谷口里枝(安藤サクラ)から、 亡くなった夫・谷口大祐(窪田正孝)の身元調査をして欲しいという奇妙な相談を受ける。 里枝は離婚を経験後に子どもを連れて故郷へ帰り、 やがて出会った谷口と再婚、 新たに生まれた子どもと4人で幸せな家庭を築いていたが、 谷口は仕事中の事故で亡くなった。 長年疎遠になっていた谷口の兄(眞島秀和)が、 遺影に写っているのは弟ではないと話したことから、 愛したはずの夫が全くの別人だったことが判明した。 夫はいったい誰なのか? 城戸は谷口の正体を追う中で様々な人物と出会い、 驚くべき真実に近づいていく。 城戸は服役中の戸籍交換屋の小見浦(柄本明)と面会する。 そこで自分の出自を在日朝鮮人と看破され、いらだちを見せる。 あることから谷口の正体に近づいた城戸。 ラストシーンは驚きの展開となる。 これはよくできたミステリーサスペンス。 満足度は5点満点で5点☆☆☆☆☆です。
誰にでも成り得るし、確かなものは無い
目の前の人間が、確かなものは何も無く名前も素性も血も何もかもが虚構の中にあるように思えてくる。ボクサーのリングネームだったり、離婚や家庭環境で変わる名字に為す術なく苦しめられる子どもだったり。秀逸な表現で、自分が何者か分からなくなり、何者にでも成り得ることをみせつけられた。
原作と違うラストシーンに新鮮味を感じました。
原作は既読です。 映画は原作と異なり、城戸が旅先のバーで客と話すシーンで終わっています。 まるで谷口大佑に成り済ましたような城戸。 このシーンに変えた脚本のアイデア、技アリと思った。 違和感を感じる人もいるかも知れないけれど、真面目でやや堅苦しい城戸。 城戸が「自分にも別の人生を・・・」 自分もそんな型に捉われない視点で生きられたら? そんな柔らかな生き方もあるとしたら少し城戸を楽にしたように感じた。 この真面目な原作に、奥行きと引き出しが増えた感じです。 人間は真面目な城戸弁護士でさえ、別の人生を夢見たり、 別の生き方を選ぶ選択肢が残っている。 もしかしたら、新しい人生を生き直すことも不可能ではないかも知れない。 この考え方は必ずしもこの映画の趣旨とは違うけれど、生い立ちや出自から 自由になることも可能かも知れない。 宮崎県の小さな町で文房具屋を営なむ離婚したシングルマザーの 里枝(安藤サクラ)。 再婚した夫の谷口大佑(窪田正孝)の名前が偽名で、本人ではなかったという 驚きの事実が判明するところから物語りが動き出す。 いったい里枝の夫の大佑は誰だったのか? 里枝は弁護士の城戸に大介の身元探しを依頼する。 そうして紆余曲折を経て、ひとりの男の悲しい過去が明らかになる。 谷口大佑を名乗っていた「ある男」 その過去は非常に厳しい過去で、多分その境遇だったら 多くの人は戸籍を買い取ってでも別人に生まれ変わりたいと願うだろう。 でも後2〜3年したら、戸籍を買い取るなんて無理になると思う。 マイナンバーが普及して別人に成りすますなんて不可能だと思う。 戸籍ブローカーの柄本明。 大火災で殺した人物と入れ替わった「飢餓海峡」 また、別人に成り済ました「砂の器」にもよく似ている。 その2つより「ある男」はそんなに推理小説的な展開はしない。 不幸な男が、戸籍を買って生い立ちを変えてごく平凡な人生に ルート変更した。 そして事故で死んだ。 「ある男」を探す弁護士の城戸。 城戸もまた在日3世から帰化して、アイデンティティに悩みをを抱えている。 平野啓一郎の言うテーマ。 「分人主義」 人は対峙する相手によって様々な自分が現れる。 自分(私)に何人の自分がいて、何人を演じ分けられるか疑問だが、 人は案外無意識に、その場その場で違う自分を演じ分けながら、 生きているのかも知れない。 特異な物語りが、ラストシーンを変えたことにより、 少し身近に感じられた。
過去と今と未来
日本アカデミー賞受賞記念のティーチイン舞台挨拶付きで鑑賞。 人は相手の過去や背景などを知りたがるが、今と未来が幸せであればそんなものは知らなくてもいいのかもしれない。 良くも悪くも、人は誰にでも何にでもなれる。
窪田正孝という俳優は恐ろしい。
日本アカデミー賞受賞後の凱旋上映にて。 窪田正孝が父親と息子の二役を演じている。 基本的には内向的な役柄が得意な役者なのだと思うが、テレビドラマで彼を初めて見たとき、少年サイコキラーの役に戦慄したのを覚えている。柔和と狂気の両極端を演じきれる役者だ。本作では、そのカメレオンぶりが発揮されている。 鏡に写る自分を見て癇癪を起こすときの“顔の演技”には、本当に驚く。 主人公は、戸籍を偽っていた男の正体を調査する弁護士。 彼は、調査を進めるうちに迷宮へと入り込んでいくのだ。 田舎町に流れてきた男と再婚して女児をもうけたシングルマザーだった女。 父親になった男を慕っている、女の連れ子の少年。 戸籍を上塗り上塗りして、出自を完全に消し去ろうとした男。 男が別人であることに気づいた、アナクロな偏見の持ち主である温泉旅館の長男。 投獄されている戸籍ブローカー。 男と戸籍を交換した行方不明の温泉旅館の次男。 行方不明の男を想っている元恋人。 夫に隠し事がある弁護士の妻。 他にもユニークなキャラクターが主人公弁護士に心理的影響を及ぼしていく。 そして、人の存在において過去とは何か、愛した人の存在証明とは何か、自分と他人を別けるものは何か、様々な問いを投げつける珠玉のミステリー映画だ。 「私はいったい誰を愛したんでしょう…」 「仮に、Xさんと呼ぶことにします」 安藤サクラが、映画の冒頭で見せる涙のシーンで、いきなり物語の穴に引きずり込まれる。 間もなくして、窪田正孝が実に訳ありげに登場するのだ。 おずおずと、文具店店主=安藤サクラに交際を申し込む正体不明の男=窪田正孝。 弁護士=妻夫木聡の登場順は遅い。 キーマンとなるのは、獄中の男=柄本明。また、この映画も柄本明が支える。 刑務所の洞窟のような長い廊下はいったい何だろう。まるで、秘密基地に続く地下通路だ。面会室のデザインも奇抜だ。 この非現実的な刑務所の美術が、柄本明の怪演と、それに対峙して圧迫されていく妻夫木聡の心理を際立たせる。 調査を請け負ったイケメン弁護士に、レクター博士よろしく関西弁の柄本明がヒントを与えながら揺さぶる。 弁護士は、妻の父親、妻、自身のルーツなど、幾つもの葛藤を背負っているのだった。 徐々に明かされるX氏の生い立ちは熾烈なものだった。 弁護士はいつしか彼と同化していた様だ。そのことを我々は衝撃のラストシーンで知らされる。 映画のオープニングで写し出された一枚の絵がラストシーンの演出に用いられている。絵を見つめる妻夫木聡の後ろ姿が、絵と重なりあう見事な演出。 亡くなった継父の素性を聞かされた安藤サクラの息子(坂元愛登)が、父の実子である幼い妹に、自分がいつか話すと言う。 この兄が引き受けた役割は重く、いつか彼から事実を聞かされる妹のことを思うと、いたたまれない思いだ。 戸籍にまつわるサスペンスと言えば『砂の器』を思い出す。 空襲によって焼失した戸籍の再生制度を利用したカラクリを松本清張が発表してから60年弱、本作(原作は未読だが)では戸籍を売買する仲介人が登場する。 別人として生きたいと考える人は少なくないのかもしれない。 戸籍交換とまではいかなくても、誰も知らない土地でやり直せたら、とは思ったりする。 このレビューサイトでも、メッセージを何度か交換したレビュアーさんとは、お互いリアルには知らないのに友人気分になったりする。 全く素性を知らないから、互いの評価に邪推がないのが心地よい。 そんな、自分をゼロから評価してくれる人たちの中で人生をやり直せたら…どうだろう。
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