ある男のレビュー・感想・評価
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素敵な映画、そして安藤サクラ
演技に魅せられ、ずっしり心にくる映画
キャストが豪華で割と楽しみにしていた作品。
序盤から窪田さん安藤サクラさんの静の演技に引き込まれた。
さすがだった。ずーっしり重ーいあの感じが出せるのすごいなって。
でも、自分の理解力無さすぎて、妻夫木さんが調査してる途中の場面で混乱しかけた。
親のこととか家柄とか生まれた時から決まってしまっていること、どうしても変えられない過去、いろいろ抱えて抱えきれなくなってこの映画のある男のようになってしまっている人が現実世界にいてもおかしくないよなぁって思えた。
最後の最後に主演がなんで妻夫木さんなのか種明かしされるあの終わり方も好きだった。
愛する人のなにを見ているだろうか。
肩書きやカテゴライズされた要素はどれ程の意味を持つのだろう。誰かを愛するとき、その人のなにを見ているだろう。そんな問いかけを感じました。
平野啓一郎原作の脚本は期待を裏切らない密度で、平野さんが提唱する分人主義をベースに、戸籍ロンダリング、死刑制度、ヘイトスピーチなどをテーマに取り入れています。哲学的でありながら物語である意味を強く感じる主張がありました。
「戸籍を入れ替え生き直す。それぐらいのことをしなければ生きていけない人もいるんだ」特に印象に残った台詞です。
ミステリー要素も濃く、サイコホラー感もあり迫られるような音の使い方は追い詰められる、逃れられない、そんな登場人物の感情と観客をリンクさせる演出で追体験させられているようでした。映画館で映画観てるなあ。という実感を強く持ちましたし、素直な感想は「怖かった」です。
場面によって主人公が変化する構成も面白かったです。複数人の人生に焦点を当てているため登場人物も多いのですが、煩雑さもなく流れが入ってきやすかった。
極力情報入れずに観たため、次々出てくる演技派俳優に驚き、笑みが溢れてしまうほどお芝居に圧倒され続けられました。
里枝の息子役坂元愛登さんもお芝居素晴らしかったです。間の取り方空気の作り方の事実っぽさたるや。この2人のシーンは台詞演出ともに良いものばかりで見どころの一つです。
買わないと何か悪い店には入りづらい
現代版「砂の器」
映画を見る事
2022年いろんな映画を観てきた中で1番面白かった作品。
素晴らしい映画体験だった。
エンドロールで感激のあまり震えが止まらなかった作品。久しぶりにそういった作品に出会えたし、生涯のベストに入る作品。
ドラマ的な展開やミステリー要素などを期待すると地味な印象かもしれないが、俳優陣の方々の演技にスキがなくこれほど見応えがある作品は滅多に出会えないと思う。
妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝という豪華なメインキャストの方々の演技は群を抜いてよかった。安藤サクラさんの人妻の色気が漂っていた感じとか、妻夫木聡さんの演じる城戸の葛藤や自分を見つめ直す姿とか。特に窪田正孝さんの役はめちゃくちゃ複雑でやりづらそうなキャラクターだったのにも関わらず、それを上回る様な印象的なキャラクターになっていた。凄まじい迫力を感じました。これはもう助演男優賞になるでしょう。
原作者、平野啓一郎先生が唱える分人主義がテーマになっている本作。対人関係ごと、環境ごとに分化した、異なる人格があるという考え方。中心に一つだけ「本当の自分」を認めるのではなく、それら複数の人格すべてを「本当の自分」だと捉えること。今の世の中は、SNSだったり、職場だったり、学校や環境、過去や現在によってキャクターを演じなければならないシーンと、個人の個性のギャップに悩んだり、もどかしく思う事で疲れてしまうシーンに溢れている。そんなん気にするなとシンプルに考えられる人もいるのかと思うけど、実際状況に合わせて変化させることに疲れている私にとって窪田正孝さん演じる謎の男Xと謎の男を追う中で、自らのアイデンティティを見つめ直す妻夫木聡さんの演じる城戸の姿はとても印象的だったし、刺さるものが多かった。
エンターテイメントとして一級品なのは間違いない中で、映画の見せ方、ストーリーの構造の描き方が感激だった。
映画の構造的に面白いのが、謎の男Xを追う城戸という状態が正しく"映画を見る事"に近い状態になっていて、その城戸を追いかけている観客までもがシンクロする感覚になっている。そしてラストのあるシーンで観客と主人公が混ざり合う様な強烈なカタルシスを味わうことがこの映画の1番の面白さと人生の機微を体験できる描き方が本当に本当に凄まじかった。映画を見る事で自分の内面を見直す、なにかヒントがもらえる事が映画体験の醍醐味の一つ。城戸とXを見つめることで自分のあり方を考えるキッカケになる様に出来ている。
野村芳太郎監督や、松本清張作品、安部公房作品の映画が好きな私にとっては大変心打たれる作品だった
差別
差別を受けた者にしかわからない痛みがある。差別といっても人種、地域、学歴など様々なものがあるが、殺人犯の息子という烙印を押されたこの映画の「ある男」が受けた差別というのは想像するに余りある。戸籍を変えるという決断をするまでの心の葛藤はいかばかりか。帰化しているものの、在日3世であり、その出自にわだかまりを持っている弁護士の城戸は自分も差別を受ける側にいた人間のために「ある男」の身元調査に没頭してしまう。
あからさまな差別の対象になる事実は隠して生きることもできる。「ある男」はもちろんのこと、城戸も帰化して日本名を名乗るというのは、この世から差別がなくなることはないということがわかっているからである。知らせる必要のないことは知らせなくてもいい、よく男女間ではお互い知らないことが多い方がうまくいくといわれるが、そんなことを知らなければ何の問題もなかったのになぜ知ってしまったのだろうと後悔することはよく起きる。
ラストシーンで城戸が「ある男」の元妻里枝に「ここで過ごした3年数ヶ月が彼にとっての人生のすべて。はじめて幸せだったと思います」と伝えると、里枝は「真実を知る必要はなかった。この町で出会い、愛し合い、いっしょに暮らし、子どもが生まれた。それは事実だから」と答えた。
差別とはその人の本質とは何の関係もない偏見からはじまる。自分を誰かに決めつけられたり、自分自身で決めつけてしまうことで苦しんでいる人にとって、この映画がそのタガを外す役割をすることを願う。
妻夫木をキャスティングした意図
人間ドラマと形容するに相応しいミステリの奥深さ
これは人間ドラマらしい。評判と共に聞こえてくる声に納得。つい踏み入った感想が流れてくるのもわかる作品。それほど人間は深いのだから。
私の愛した男は、別人でした。そんな衝撃から始まる作品。しかし、意外にも予告ほど不穏なモノではなく、たまたま空いてしまった穴に彼の人生は何が埋まっていたのか、それを静かに掘り続ける作業の作品なのだ。人間ドラマだからという意味ではなく、ある男のドラマなのだと受け入れる。そこになんとも言えない不気味な影と踏み入った表現によって、捻りの効いた味付けへと変貌している。多くは語らないが、よく使われるあの言葉が端的に表現できる。
他人の人生に踏み入ることへの危うさと好奇心が混ざり合いながら、その証明を手繰り寄せる様は時折スリリング。そして、もっていた温かさがまとわりついてくる。観た人たちは一緒に受け入れる。時に、無意識に刷り込まれた外野の言葉と共に。その見せ方が何とも上手く、恐ろしい所でもある。石川慶監督の凄い所は、ドラマの核は外さずとも、見える描写と台詞をバランス良く組み立てながら、分かりやすくも深く付いてくる所だ。光と影が何を映してくるのか、その余白を埋めていく型が何より上手い。
主演は妻夫木聡さん。『愚行録』も観たので、このタッグは何とも嬉しかった。ただ、安藤サクラさんが主演だと思っていたのも事実。どちらかと言うとテラーに近い。そして窪田正孝さん。今更ながら多彩な演技に驚かされる。今年はつくづく痺れることが多い。随所まで配置された豪華さが作品の奥行きを生む。またまた凄い演技力を見せる河合優実さんは本当に凄い女優さんである。一部キャラのディティールに濃淡が薄く勿体なく感じたが、それでも最後まで緊張を切らさない配置は見事だ。
たまたま今日、報知映画賞が発表された。作品賞を獲るのも納得である。そして、観た人でないと見えない真実を語りたくなるのもまた、ミイラ取りの様である。
静かにじっくり観たい
自分が自分である事を 果たしてちゃんと証明できるだろうか
人は産まれた瞬間から逃れられない運命を持っているもので、
それは決して己の力では書き換えれない。
それが運命
誰もがそこから自らの手で幸せを掴むべく毎日を過ごし生きていくものだが、
逃れられない運命を背負うことの苦悩やアイデンティティ(存在証明)を手放し
どこかにあるまっさらな空白のスペースに
全く別の自分の居場所を欲しているのかもしれない。
身近に考えると、SNSのなりすましや匿名投稿性もある意味同じかもな。。と。
「名前」「血族」「容姿」
目に見える確信で判断された結び付きよりも
「心」「愛」「情操」
目に見えない結び付きの方が大切なのかもしれない。
この映画でポイントになる
ルネ・マグリットの『不許複製』という絵画。
この絵画は描かれている人物の疎外感を表している。と言われているそうです。
ラストシーンの 妻夫木聡 さんの余韻は素晴らしくもゾッとした。
窪田正孝 さんと 安藤サクラ さんの空気感はさすがでした。
誰もがXになる可能性を抱えている。
大なり小なり差別や区別されて生きているから。
マグリッドの複製禁止
冒頭の印象的な絵画、調べるとジュルレアリズムの画家、マグリッドの複製禁止という絵画らしい。
顔の見えない、判別不能な男、まさしくある男からのオープニング。
好む好まざるに関わらず、持って生まれた自らの出自、それを武器に人生をのし上がっていく人もいれば、それを消し去りたい人も多くいるのだろう。
妻夫木聡さん演じる弁護士も消し去りたい1人。
自らを仕事、結婚含めた武装、そして帰化という合法的な手段で消し去る努力をしてきた人。
きっと、これまでは無意識に実行してきたのだろう。
しかし、窪田さん演じる偽大介が出自を消し去り、自分個人としては充実したわずか4年を羨ましく感じる。
社会的とか、金銭的とかでなく。
武装解除できるのは、バーでのみ。マグリッドの複製禁止に勇気づけられて。
演者は皆さん、素晴らしかったです。
そう単純に善悪分けられるのか?問題
(完全ネタバレですので鑑賞後にお読み下さい)
この映画ではたびたび差別主義者のクソみたいな言動が登場します。
例えば、在特会がモデルだろう、在日の人達への露骨な差別を叫び続けているデモの映像などその典型で、見ている観客の私も、相変わらずこいつらはクソだな、と改めて認識されることになります。
また主人公の弁護士である城戸章良(妻夫木聡さん)は在日三世で、城戸の妻の城戸香織(真木よう子さん)の両親や、調査の先で、彼がことあるごとに差別的な言動を受ける場面が出て来ます。
そして観客の私は、本当に彼らはクソな存在だなと感じ、そんな露骨な差別言動をしない自分を正義の側に置いて安心して鑑賞する構図になっています。
しかし、よくよく考えてみると、一方で(極端な在特会をモデルにしたデモの連中はともかく)こんなに露骨に差別の表現を現実で身近な人はするのかな?との疑念もわいてきます。
多くの人々は、潜在的に例えば在日韓国人・朝鮮人の人に対して差別意識があったとしても、(SNSやネットでは別かもですが)露骨に直接当事者や身近な人にそれを伝えることはしません。
また多くの人々は、例え潜在的に差別意識があったとしても、と同時に、相手が必要であるならば手を差し伸べたり同情や共感の感情を持ってもいるのです。
つまり、1人の人間では、差別意識もそれとは逆の共感も、分けることが難しい重層的な感情として内面に持っているということになります。
すると、城戸章良の周りの差別意識を露骨に表現してくる(観客からはクソの存在に思える)人物描写はリアリティが欠けているのではと思えてきます。
そしてその表現は捨て、逆に親切心と同時に潜まれた差別意識の混ざった複雑な人物に城戸章良の周りの描写が変化したとしたら、途端に観客はそれらの登場人物をクソな存在として認識できなくなります。
つまり観客は差別を否定する正義の場所に逃げ込むことが出来なくなるのです。
この映画は本当は、このように正義と差別の悪をきっぱりとは分けずに表現する必要があったのではと思われました。
主人公の弁護士の城戸章良は、谷口里枝(安藤サクラさん)の死んだ夫の谷口大祐(窪田正孝さん)が本当の谷口大祐ではなかったことが判明し、では谷口里枝の夫(ある男X)はいったい誰だったのか?と、谷口里枝から調査を依頼されます。
弁護士の城戸章良は、調査の結果、谷口里枝の夫だった人物(ある男X)が、小林謙吉死刑囚の息子で、母親の姓を名乗っていた元ボクサーの原誠という人物であったことを突き止めます。
そして、死刑囚の息子だった原誠は、死刑囚の息子だった過去から切り離れるために2度の戸籍を変えていたことも分かるのです。
ところでこの映画『ある男』で個人的に一番印象的なシーンが、(死刑囚の息子だった原誠の戸籍変更に手を貸した)今は獄中にいる小見浦憲男(柄本明さん)と主人公の弁護士の城戸章良とが対峙する場面です。
小見浦憲男は、クソみたいな差別言動を城戸章良に浴びせながら、城戸章良もまた獄中にいる自分(小見浦憲男)を見下して差別していると指摘して城戸章良の内面をえぐります。
個人的にはこの場面に真実性があると思われました。
その理由は、在日三世の城戸章良が自身の内面に在日への差別意識が入り込んでいるから在日を隠そうとしているという焦点を小見浦憲男がえぐっているように感じたからです。
さらにそれを超えて同時に、観客の側も、正義である差別への批判をしながら、その内面の奥に差別意識も抱えている、その矛盾を小見浦憲男が言い当てているとも感じたからでした。
個人的には、差別言動をして来た小見浦憲男の、城戸章良との対峙の言葉に感銘すら感じることになりました。
私は、この映画は親切心や差別批判と共に、潜在的に差別意識を持ってしまっている多くの観客を、正義の側に逃がさない表現をする必要があったと思われます。
なので、露骨に正義と悪を分けるてしまう、小見浦憲男以外の登場人物の分かり易い差別表現はさせない方が良かったと思われました。
その点が惜しまれる作品になってしまったとは個人的には思われました。
考えさせる
実際、生きていて犯罪者の子供や、家族だからといって騒がれてる人を見たことが無いし、2世だからといって、差別視する世界観にいたことがないので、いまいち共感出来ないけど、自分ではどうすることも出来ない境遇に生まれ、いろんな差別や、葛藤の中どう生きて行くのか、どう向き合って行くのかは、とても興味深い作品でした。役者さんがみんな凄いので、思わず泣いてしまうシーンもたくさんありました
戸籍一枚で人間の存在を決める世の中
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