ある男のレビュー・感想・評価
全527件中、201~220件目を表示
人間ドラマと形容するに相応しいミステリの奥深さ
これは人間ドラマらしい。評判と共に聞こえてくる声に納得。つい踏み入った感想が流れてくるのもわかる作品。それほど人間は深いのだから。
私の愛した男は、別人でした。そんな衝撃から始まる作品。しかし、意外にも予告ほど不穏なモノではなく、たまたま空いてしまった穴に彼の人生は何が埋まっていたのか、それを静かに掘り続ける作業の作品なのだ。人間ドラマだからという意味ではなく、ある男のドラマなのだと受け入れる。そこになんとも言えない不気味な影と踏み入った表現によって、捻りの効いた味付けへと変貌している。多くは語らないが、よく使われるあの言葉が端的に表現できる。
他人の人生に踏み入ることへの危うさと好奇心が混ざり合いながら、その証明を手繰り寄せる様は時折スリリング。そして、もっていた温かさがまとわりついてくる。観た人たちは一緒に受け入れる。時に、無意識に刷り込まれた外野の言葉と共に。その見せ方が何とも上手く、恐ろしい所でもある。石川慶監督の凄い所は、ドラマの核は外さずとも、見える描写と台詞をバランス良く組み立てながら、分かりやすくも深く付いてくる所だ。光と影が何を映してくるのか、その余白を埋めていく型が何より上手い。
主演は妻夫木聡さん。『愚行録』も観たので、このタッグは何とも嬉しかった。ただ、安藤サクラさんが主演だと思っていたのも事実。どちらかと言うとテラーに近い。そして窪田正孝さん。今更ながら多彩な演技に驚かされる。今年はつくづく痺れることが多い。随所まで配置された豪華さが作品の奥行きを生む。またまた凄い演技力を見せる河合優実さんは本当に凄い女優さんである。一部キャラのディティールに濃淡が薄く勿体なく感じたが、それでも最後まで緊張を切らさない配置は見事だ。
たまたま今日、報知映画賞が発表された。作品賞を獲るのも納得である。そして、観た人でないと見えない真実を語りたくなるのもまた、ミイラ取りの様である。
静かにじっくり観たい
自分が自分である事を 果たしてちゃんと証明できるだろうか
人は産まれた瞬間から逃れられない運命を持っているもので、
それは決して己の力では書き換えれない。
それが運命
誰もがそこから自らの手で幸せを掴むべく毎日を過ごし生きていくものだが、
逃れられない運命を背負うことの苦悩やアイデンティティ(存在証明)を手放し
どこかにあるまっさらな空白のスペースに
全く別の自分の居場所を欲しているのかもしれない。
身近に考えると、SNSのなりすましや匿名投稿性もある意味同じかもな。。と。
「名前」「血族」「容姿」
目に見える確信で判断された結び付きよりも
「心」「愛」「情操」
目に見えない結び付きの方が大切なのかもしれない。
この映画でポイントになる
ルネ・マグリットの『不許複製』という絵画。
この絵画は描かれている人物の疎外感を表している。と言われているそうです。
ラストシーンの 妻夫木聡 さんの余韻は素晴らしくもゾッとした。
窪田正孝 さんと 安藤サクラ さんの空気感はさすがでした。
誰もがXになる可能性を抱えている。
大なり小なり差別や区別されて生きているから。
マグリッドの複製禁止
冒頭の印象的な絵画、調べるとジュルレアリズムの画家、マグリッドの複製禁止という絵画らしい。
顔の見えない、判別不能な男、まさしくある男からのオープニング。
好む好まざるに関わらず、持って生まれた自らの出自、それを武器に人生をのし上がっていく人もいれば、それを消し去りたい人も多くいるのだろう。
妻夫木聡さん演じる弁護士も消し去りたい1人。
自らを仕事、結婚含めた武装、そして帰化という合法的な手段で消し去る努力をしてきた人。
きっと、これまでは無意識に実行してきたのだろう。
しかし、窪田さん演じる偽大介が出自を消し去り、自分個人としては充実したわずか4年を羨ましく感じる。
社会的とか、金銭的とかでなく。
武装解除できるのは、バーでのみ。マグリッドの複製禁止に勇気づけられて。
演者は皆さん、素晴らしかったです。
そう単純に善悪分けられるのか?問題
(完全ネタバレですので鑑賞後にお読み下さい)
この映画ではたびたび差別主義者のクソみたいな言動が登場します。
例えば、在特会がモデルだろう、在日の人達への露骨な差別を叫び続けているデモの映像などその典型で、見ている観客の私も、相変わらずこいつらはクソだな、と改めて認識されることになります。
また主人公の弁護士である城戸章良(妻夫木聡さん)は在日三世で、城戸の妻の城戸香織(真木よう子さん)の両親や、調査の先で、彼がことあるごとに差別的な言動を受ける場面が出て来ます。
そして観客の私は、本当に彼らはクソな存在だなと感じ、そんな露骨な差別言動をしない自分を正義の側に置いて安心して鑑賞する構図になっています。
しかし、よくよく考えてみると、一方で(極端な在特会をモデルにしたデモの連中はともかく)こんなに露骨に差別の表現を現実で身近な人はするのかな?との疑念もわいてきます。
多くの人々は、潜在的に例えば在日韓国人・朝鮮人の人に対して差別意識があったとしても、(SNSやネットでは別かもですが)露骨に直接当事者や身近な人にそれを伝えることはしません。
また多くの人々は、例え潜在的に差別意識があったとしても、と同時に、相手が必要であるならば手を差し伸べたり同情や共感の感情を持ってもいるのです。
つまり、1人の人間では、差別意識もそれとは逆の共感も、分けることが難しい重層的な感情として内面に持っているということになります。
すると、城戸章良の周りの差別意識を露骨に表現してくる(観客からはクソの存在に思える)人物描写はリアリティが欠けているのではと思えてきます。
そしてその表現は捨て、逆に親切心と同時に潜まれた差別意識の混ざった複雑な人物に城戸章良の周りの描写が変化したとしたら、途端に観客はそれらの登場人物をクソな存在として認識できなくなります。
つまり観客は差別を否定する正義の場所に逃げ込むことが出来なくなるのです。
この映画は本当は、このように正義と差別の悪をきっぱりとは分けずに表現する必要があったのではと思われました。
主人公の弁護士の城戸章良は、谷口里枝(安藤サクラさん)の死んだ夫の谷口大祐(窪田正孝さん)が本当の谷口大祐ではなかったことが判明し、では谷口里枝の夫(ある男X)はいったい誰だったのか?と、谷口里枝から調査を依頼されます。
弁護士の城戸章良は、調査の結果、谷口里枝の夫だった人物(ある男X)が、小林謙吉死刑囚の息子で、母親の姓を名乗っていた元ボクサーの原誠という人物であったことを突き止めます。
そして、死刑囚の息子だった原誠は、死刑囚の息子だった過去から切り離れるために2度の戸籍を変えていたことも分かるのです。
ところでこの映画『ある男』で個人的に一番印象的なシーンが、(死刑囚の息子だった原誠の戸籍変更に手を貸した)今は獄中にいる小見浦憲男(柄本明さん)と主人公の弁護士の城戸章良とが対峙する場面です。
小見浦憲男は、クソみたいな差別言動を城戸章良に浴びせながら、城戸章良もまた獄中にいる自分(小見浦憲男)を見下して差別していると指摘して城戸章良の内面をえぐります。
個人的にはこの場面に真実性があると思われました。
その理由は、在日三世の城戸章良が自身の内面に在日への差別意識が入り込んでいるから在日を隠そうとしているという焦点を小見浦憲男がえぐっているように感じたからです。
さらにそれを超えて同時に、観客の側も、正義である差別への批判をしながら、その内面の奥に差別意識も抱えている、その矛盾を小見浦憲男が言い当てているとも感じたからでした。
個人的には、差別言動をして来た小見浦憲男の、城戸章良との対峙の言葉に感銘すら感じることになりました。
私は、この映画は親切心や差別批判と共に、潜在的に差別意識を持ってしまっている多くの観客を、正義の側に逃がさない表現をする必要があったと思われます。
なので、露骨に正義と悪を分けるてしまう、小見浦憲男以外の登場人物の分かり易い差別表現はさせない方が良かったと思われました。
その点が惜しまれる作品になってしまったとは個人的には思われました。
考えさせる
実際、生きていて犯罪者の子供や、家族だからといって騒がれてる人を見たことが無いし、2世だからといって、差別視する世界観にいたことがないので、いまいち共感出来ないけど、自分ではどうすることも出来ない境遇に生まれ、いろんな差別や、葛藤の中どう生きて行くのか、どう向き合って行くのかは、とても興味深い作品でした。役者さんがみんな凄いので、思わず泣いてしまうシーンもたくさんありました
戸籍一枚で人間の存在を決める世の中
今が幸せなら大切にする、嫌だなと思ったら新しい場所へ
本筋だけ
窪田君が安藤サクラに
友達になって下さい、と告げるシーンは
キュンキュンしちゃいました
おばさんの気持ち刺激しすぎ笑
メインの話はわかりました
でも、色んなところで
ちょいちょいわからない話が出てくる
思わず、電子書籍をポチってしまった
どこかのレビューに原作本の宣伝とありましたが、見事にハマりました
自分で回収できないし、気になるし、時代はポチってすむことが増えたもんだ
仲野太賀もチョイ役で、うーんもっと見たかった
柄本明、怪演ですな
見てる自分も詐欺られそうだわ
赤の他人になりすまして
生まれ変わった気持ちになって
全く別の人生を歩めて
最後の何年かは幸せだったのだと思いたい
ちょいちょい蘇る父親の血は
少しは感じていたのだろうけど
知らなくてよかった
展開も想定内で淡々と最後までといった感じ。抗えないものもの重さからすれば突拍子もない展開も難しいのかなと。希望は里枝(安藤)や美涼(清野)の変化であり想いだけど、X(窪田)や谷口(仲野)は変えられる過去。城戸(妻夫木)だけは絶対的に変えられない過去であり、知ったことで「知らなくてよかった」と言えた里枝とは正反対になった城戸だけは、何も解決しなくてやるせない。過去にも今にも未来にも背いていかなければならない「ある人」って城戸のことかしら?
設定は面白いのに
いささか消化不良
…な一本と思われました、評論子には。
戸籍は、もちろんその人のアイデンティティを表象するものの一つですし、戸籍による身分関係の公証があらゆる法律関係の基礎をなしていることも、否定はできません。
しかし、人のアイデンティティのすべてでもないと、評論子は思います。
芸能人はいうに及ばず、講演活動などを行っている人達などには、戸籍上の本名よりも、活動に使用している名前で、その人が認識されている例もあることには、枚挙にいとまがないと思います。
言ってしまえば戸籍によるアイデンティティの証明はその程度のもので、単なる「紙」に過ぎないのに、「戸籍を交換すれば、一切の過去を切り捨てて他人になりきれる」などというのは荒唐無稽な考え方であることは、そのことに徴しても明らかではないでしょうか。
「戸籍交換」などという目新しい言葉で、それがいかにも人の過去を消し去ることができるかのようなミステリアスな行為のようにモチーフとしているかのような本作には、正直なところ、鼻白む思いがしてしまいました。そういうモチーフを良くかみ砕いで消化できていないとも思われました。
観終わって、残念な一本になってしまいました。評論子には。
ラストが素晴らしい
名前という呪縛
名前を捨てることの意味とはなんだろう。
男の死により炙り出される人間の暗部、そして人の目の恐ろしさと逃避行が徐々に紐解かれる。
その男が生きてきた人生の中、自分の意思で選択して生きることが出来た数年が彼にとって満たされたものであった事を残された家族が彼を想い訪れた公園でのやり取りが心に静かに沁みわたる。
全527件中、201~220件目を表示