劇場公開日 2022年11月18日

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「映画を見る事」ある男 Shouhei Okuyamaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0映画を見る事

2023年2月9日
iPhoneアプリから投稿

2022年いろんな映画を観てきた中で1番面白かった作品。

素晴らしい映画体験だった。
エンドロールで感激のあまり震えが止まらなかった作品。久しぶりにそういった作品に出会えたし、生涯のベストに入る作品。

ドラマ的な展開やミステリー要素などを期待すると地味な印象かもしれないが、俳優陣の方々の演技にスキがなくこれほど見応えがある作品は滅多に出会えないと思う。

妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝という豪華なメインキャストの方々の演技は群を抜いてよかった。安藤サクラさんの人妻の色気が漂っていた感じとか、妻夫木聡さんの演じる城戸の葛藤や自分を見つめ直す姿とか。特に窪田正孝さんの役はめちゃくちゃ複雑でやりづらそうなキャラクターだったのにも関わらず、それを上回る様な印象的なキャラクターになっていた。凄まじい迫力を感じました。これはもう助演男優賞になるでしょう。

原作者、平野啓一郎先生が唱える分人主義がテーマになっている本作。対人関係ごと、環境ごとに分化した、異なる人格があるという考え方。中心に一つだけ「本当の自分」を認めるのではなく、それら複数の人格すべてを「本当の自分」だと捉えること。今の世の中は、SNSだったり、職場だったり、学校や環境、過去や現在によってキャクターを演じなければならないシーンと、個人の個性のギャップに悩んだり、もどかしく思う事で疲れてしまうシーンに溢れている。そんなん気にするなとシンプルに考えられる人もいるのかと思うけど、実際状況に合わせて変化させることに疲れている私にとって窪田正孝さん演じる謎の男Xと謎の男を追う中で、自らのアイデンティティを見つめ直す妻夫木聡さんの演じる城戸の姿はとても印象的だったし、刺さるものが多かった。
エンターテイメントとして一級品なのは間違いない中で、映画の見せ方、ストーリーの構造の描き方が感激だった。

映画の構造的に面白いのが、謎の男Xを追う城戸という状態が正しく"映画を見る事"に近い状態になっていて、その城戸を追いかけている観客までもがシンクロする感覚になっている。そしてラストのあるシーンで観客と主人公が混ざり合う様な強烈なカタルシスを味わうことがこの映画の1番の面白さと人生の機微を体験できる描き方が本当に本当に凄まじかった。映画を見る事で自分の内面を見直す、なにかヒントがもらえる事が映画体験の醍醐味の一つ。城戸とXを見つめることで自分のあり方を考えるキッカケになる様に出来ている。

野村芳太郎監督や、松本清張作品、安部公房作品の映画が好きな私にとっては大変心打たれる作品だった

しょうへい