劇場公開日 2022年11月18日

  • 予告編を見る

「人間ドラマと形容するに相応しいミステリの奥深さ」ある男 たいよーさん。さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0人間ドラマと形容するに相応しいミステリの奥深さ

2023年1月24日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

怖い

知的

これは人間ドラマらしい。評判と共に聞こえてくる声に納得。つい踏み入った感想が流れてくるのもわかる作品。それほど人間は深いのだから。

私の愛した男は、別人でした。そんな衝撃から始まる作品。しかし、意外にも予告ほど不穏なモノではなく、たまたま空いてしまった穴に彼の人生は何が埋まっていたのか、それを静かに掘り続ける作業の作品なのだ。人間ドラマだからという意味ではなく、ある男のドラマなのだと受け入れる。そこになんとも言えない不気味な影と踏み入った表現によって、捻りの効いた味付けへと変貌している。多くは語らないが、よく使われるあの言葉が端的に表現できる。

他人の人生に踏み入ることへの危うさと好奇心が混ざり合いながら、その証明を手繰り寄せる様は時折スリリング。そして、もっていた温かさがまとわりついてくる。観た人たちは一緒に受け入れる。時に、無意識に刷り込まれた外野の言葉と共に。その見せ方が何とも上手く、恐ろしい所でもある。石川慶監督の凄い所は、ドラマの核は外さずとも、見える描写と台詞をバランス良く組み立てながら、分かりやすくも深く付いてくる所だ。光と影が何を映してくるのか、その余白を埋めていく型が何より上手い。

主演は妻夫木聡さん。『愚行録』も観たので、このタッグは何とも嬉しかった。ただ、安藤サクラさんが主演だと思っていたのも事実。どちらかと言うとテラーに近い。そして窪田正孝さん。今更ながら多彩な演技に驚かされる。今年はつくづく痺れることが多い。随所まで配置された豪華さが作品の奥行きを生む。またまた凄い演技力を見せる河合優実さんは本当に凄い女優さんである。一部キャラのディティールに濃淡が薄く勿体なく感じたが、それでも最後まで緊張を切らさない配置は見事だ。

たまたま今日、報知映画賞が発表された。作品賞を獲るのも納得である。そして、観た人でないと見えない真実を語りたくなるのもまた、ミイラ取りの様である。

たいよーさん。