ソー ラブ&サンダー : 映画評論・批評
2022年7月5日更新
2022年7月8日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
ソーの熱き“愛と雷”は、笑劇を衝撃に変えて脳天を射抜く!!
ああ、思えば遠くへ来たものよ。ケネス・ブラナーによるシェイクスピア調の玉座争い(「マイティ・ソー」)から、近年のアホアホな笑劇ポップ路線へと、雷神ソー(クリス・ヘムズワース)のソロ映画は11年間ですっかり方途が変わってしまった。
しかし最新作は、ここにきての原点回帰。ゴッドブッチャーの悪名どおり神々を殺していく復讐者ゴア(クリスチャン・ベール)との対決や、元カノだった天文物理学者ジェーン(ナタリー・ポートマン)への接触を経て、彼のスーパーヒーローとしてのアイデンティティを再確認していく。そりゃ「アベンジャーズ エンドゲーム」(19)で醜く肥大化したソーを、MCUの次期フェーズに適合させるには必要な矯正だろう。とはいえ、かつて自分を正義に導いた重要人物と今いちど向き合い、加えて神を全否定するようなヤツが今回のスーパーヴィランとなるところ、難しく話が展開するのではと気を揉んでしまう。
いやいや、そこは案じることなかれ。前述のラブでサンダーな情動が、深謀なく脳天を突き抜ける。タイカ・ワイティティが掌理する演出は前回の「マイティ・ソー バトルロイヤル」(17)同様、笑いを点火剤にし、しれっと観る者を胸アツ展開へと押しやる、人を食ったようなテイスト全開だ。それはマッチョにソー化したジェーンや、へっぴり腰な神の総帥ゼウス(ラッセル・クロウ)などに顕著で(前者は無神経に笑えない事情が絡むが)、唯一ダークなコントラストを放つゴアの存在も、扮するベールのストイックな演技姿勢を反映しておりシニカルだ。
そういう点で、映画は「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズ(14・17)のジェームズ・ガンと似た感性を共有している。いっぽうで、あてどなく彼らとつるんでいたソーの、本作における切り離しのタイミングは「ガンとは違うのだよ、ガンとは!」と主張しているかのよう。とまれ、こんな調子で“愛と雷“なる突発的なサブタイトルに、ガンズ・アンド・ローゼズの引用以上の説得力を持たせていくのだ。笑劇を衝撃に変えて観客の胸を射抜く、創造のジャングルへようこそ♪
なので本作を観た後、タイカに新「スター・ウォーズ」を任せるのも悪くないかも? と、ソー(そう)感じさせてくれたのも大きな収穫だった。いささか我田引水な主張だが、あの天衣無縫な柔軟さを作風とする彼なら、SWを本来のフットワークに戻してくれそうな気がする。
(尾﨑一男)