白い牛のバラッド

劇場公開日:

白い牛のバラッド

解説

イランの厳罰的な法制度を背景に、冤罪による死刑で夫を失ったシングルマザーの姿を通し、社会の不条理と人間の闇をあぶり出したサスペンスドラマ。テヘランの牛乳工場に勤めるシングルマザーのミナ。夫ババクは殺人罪で逮捕され、1年ほど前に死刑に処された。深い喪失感を抱え続ける彼女は、聴覚障害で口のきけない愛娘ビタを心の拠りどころにしている。ある日、裁判所に呼び出されたミナは、夫の事件の真犯人が他にいたことを知らされる。理不尽な現実を受け入れられず、謝罪を求めて繰り返し裁判所に足を運ぶミナだったが、夫に死刑を宣告した担当判事に会うことさえかなわない。そんな折、ミナのもとに夫の友人だったという中年男性レザが訪ねてくる。親切な彼に心を開き、家族のように親密な関係を築いていくミナだったが……。マリヤム・モガッダムとベタシュ・サナイハが監督を務め、モガッダムが脚本・主演も兼任した。2021年・第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。

2020年製作/105分/G/イラン・フランス合作
原題または英題:Ghasideyeh gave sefid
配給:ロングライド
劇場公開日:2022年2月18日

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映画レビュー

4.0イラン女性を象徴するメタファー

2022年3月14日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

本作は音(サウンドデザイン)が重要な要素となっているように思う。刑務所のドアの開閉音、画面外の風の音や鳥の鳴き声、主人公のミナが働く牛乳工場のベルトコンベアーの音など、単なる自然音や生活音ではなく、そのシーンや登場人物の心情などを表現する音へのこだわりを意識して欲しい。ミナの映画好きな愛娘がろう者の設定なのは、声を発することができない、意見を言っても聞いてもらえないイラン女性を象徴するメタファーだという。

また画面構成も特徴的である。画面内の登場人物たちが窓(四角い枠)を背景にしていたり、鉄格子やドア越しのシーンが多い。これはフレーム(画面)内にもう一つのフレームを作りだし、その枠が二人を隔てたり、閉じ込められたような効果を生んでおり、音とあわせた演出の統一性、相乗効果を感じることができる。

ちなみに、牛は世界では神の使いとして神聖視する地域もある。“白い牛”はヒンドゥー教のシヴァ神の乗り物とされているが、イスラム教の祭礼で牛はいけにえとして捧げられるという。真実を知ったミナが最後に下した決断を、あなたはどう捉えるだろうか。

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和田隆

4.5冤罪、死刑、男女格差。世の理不尽に声を上げる監督・脚本・主演のマリヤム・モガッダムに敬服

2022年2月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

イランでは表現の自由が保障されておらず検閲があり、特に体制を批判するような作品は公開が禁止されたり、作り手が逮捕されたりする(ジャファール・パナヒ監督の境遇がよく知られる)。

そんなイランで女優として30年近いキャリアを築いてきたマリヤム・モガッダムが、冤罪や死刑といった国の法制度の問題点や、男尊女卑が今も根強いイスラム社会を題材にしたこの劇映画で、主演だけでなく脚本・監督(ベタシュ・サナイハと共同)も兼ねている。この映画を企画し、完成させて世に送り出したこと自体が、並外れて勇気ある行動であり、とてつもない快挙として敬服に値する。

死刑執行を続けている日本にとっても、無関係な話ではまったくない。先進国38カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)で死刑制度があるのは、米国、日本、韓国(ただし20年以上執行されていない)だけだとか。米国では昨年、バイデン政権が執行の一時停止を発表した。いや、人権に関しては日本は後進国なのだと認めるべきかもしれない…。

それにしても、胸が痛むストーリーだ。夫が殺人の罪で死刑執行されたのち、冤罪だったと明らかになる。残されたシングルマザーのミナには、聴覚障害で口のきけない幼い娘がいる。判決を誤った裁判官に謝罪してほしいと訴えるミナだが、会ってすらもらえない。引っ越しを余儀なくされるが、未亡人は家も借りられない…。

表現が不自由で厳しい環境だからこそ、並々ならぬ意志と情熱が込められた作品が世に出てくるのかもしれない。イスラム社会における女性像という点では、先述のパナヒ監督の「ある女優の不在」や、モロッコの女性監督マリヤム・トゥザニのデビュー作「モロッコ、彼女たちの朝」に通じる。罪のない夫を“殺された”妻、理不尽な裁判など、トルコ系ドイツ人監督ファティ・アキンの「女は二度決断する」に共通する要素もある。これらの映画を高評価した観客なら、きっと「白い牛のバラッド」も気に入るだろう。

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高森 郁哉

3.5不可逆について考えさせられる

2022年2月19日
PCから投稿

不可逆という言葉がある。死刑制度においては、人が人の命を奪うことの倫理的な是非や、人の下した判決に絶対というものはないという論点もよく取り上げられるが、いずれにしても死刑執行してしまうと、失われた命を再生することは不可能だ。この映画に登場する男女はいずれも不可逆の闇に囚われた者たちと言えるのかもしれず、まったく異なる人生を歩みながら、神の名のもとにある法制度を真っ向から疑わざるを得ないような事態に直面する。彼らは「神の思し召し」という言葉で自らの苦痛を和らげようとは決してしない。その上で、期せずして巡り合った目の前の相手を唯一のよすがに、日々の暮らしに微かな灯りを見出していく。白い牛についてもう少しわかりやすく触れてほしかったし、ドラマティックな展開を期待してしまった自分もいる。だが二人の静かなる関係性には見応えがあり、ラストシーンには、映画ならではのささやかな不可逆へのあらがいを感じた。

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牛津厚信

4.5映像が凄い

2022年10月16日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

アスガー・ファルハディ作品ぽさから見たけどここ数ヶ月で見た映画の中で一番面白かったかもしれない。この監督はめちゃくちゃ有名になると思う。カメラワーク、削ぎ落とされた台詞、道具の使い方と凄い作品。

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ルル

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