私は確信する

劇場公開日:2021年2月12日

解説・あらすじ

2000年にフランスで実際に起こった未解決事件の「ヴィギエ事件」を題材にした裁判サスペンス。スザンヌ・ヴィギエが3人の子どもたちを残して姿を消した。数々の証言や疑惑により、大学教授の夫ジャックが妻殺害の容疑者となる。ジャックの無実を確信するシングルマザーのノラは、彼の無実を勝ち取るため、敏腕弁護士のデュポン=モレッティに事件の弁護を懇願する。自らアシスタントとなったノラは、事件の調査を進めていく。食い違いを見せる、刑事、ベビーシッター、スザンヌの愛人らの証言。次第にこの事件の新たな真実や疑惑が浮かび上がっていく。実在する弁護士デュポン=モレッティ役は「息子のまなざし」などで知られる名優オリビエ・グルメ、ノラ役はフランスではコメディエンヌとしても人気の高いマリナ・フォイス。

2018年製作/110分/フランス・ベルギー合作
原題または英題:Une intime conviction
配給:セテラ・インターナショナル
劇場公開日:2021年2月12日

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(C)Delante Productions - Photo Severine BRIGEOT

映画レビュー

4.0一人の名もなき女性の意志、行動力、瞳の力強さに引き込まれる

2021年2月28日
PCから投稿

外見からの印象だとかなりお堅い法廷劇のように思える。この種の映画はいざ好みと合致しないと退屈な台詞劇となりかねない。だが結論から言って、私は本作にグイグイ引き込まれた。冒頭、誰かがこの事件を二つのヒッチコック作品に例える。ひとつ目の『バルカン超特急』が示すのは完全密室犯罪という可能性であり、もう一方の『間違えられた男』が示唆するのは、タイトル通りの”冤罪”の可能性。そして被告がいざ後者の道を歩もうとする時、意を決して立ち上がるのが、一人の名もなき女性だ。膨大な通話記録を選り分け、分析し、文字に起こすことで、彼女の中で高まっていく確信は弁護側の原動力となっていく。面白いのは事件以上にこの女性の「黙って傍観などしていられなかった」という姿勢に焦点をあてていること。そうした強靭な意志、瞳の力強さに感化されるように、観る側も自ずと身体が熱くなっていくのを覚えるはず。硬派な興奮が味わえる秀作である。

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牛津厚信

4.0“確信”の危うさは現代の偏向SNSにも通じる

2021年2月13日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

怖い

知的

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高森 郁哉

4.0「仮説」と「検証」。裁判の本質が見えてくるフランスの法廷サスペンス映画の傑作。

2021年2月8日
PCから投稿

本作は2000年にフランスで実際に起こった未解決事件の「ヴィギエ事件」を描いた法廷サスペンス映画です。
冒頭に「ヴィギエ事件」とは、という説明が文字で出てきますが、少し早いので、こちらで要点をまとめておきます。
2000年2月にフランスで「スザンヌ・ヴィギエ」という女性が、夫と3人の子どもを残して失踪。
遺体が見つからない中、妻殺害の容疑で、大学教授の夫ジャックが勾留。
ジャックは証拠不十分で釈放される。
ところが、7年後に再び妻殺害容疑で出頭命令が出て、2009年に裁判が始まる。
第1審で無罪となるも、検察が控訴し、第2審に入るあたりから物語が始まります。

本作では、第1審を傍聴したシングルマザーで料理店で働く「ノラ」が、ジャックの無実を確信していて、ノラを主人公として描かれています。
そして、ジャックの娘(20歳)は、ノラの息子の家庭教師をしています。
また、ジャックは「うつ状態」になっていて、ほとんど役に立たない状態になっています。

まず本作で驚いたのは、裁判所に証拠申請をして、250時間にも及ぶ通話記録データが提供された点です。一体、どこからその通話録音データが出てくるものなのかは分かりませんでしたが、その膨大な通話におけるやり取りの中から「事件の真相」を探ろうとします。
ただ、様々な「仮説」を覆せるほどの証拠が出てくるのか?
この辺りが本作の大きな見どころになっています。
特に、敏腕弁護士のデュポン=モレッティによる最終弁論は、非常に深いものとなっています!
なお、本作は実話ですが、物語の一部やノラの人物像などフィクションの部分もあります。

ちなみに、この弁護士デュポン=モレッティは、2020年7月にフランスのマクロン政権下で「法務大臣」に抜擢されて世界中で大きなニュースとなるなど、今のニュースにもつながる面もあるのです。

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細野真宏

3.5大陸法系のフランスならではの悲劇。

2025年7月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

一度、刑事事件で訴追を受けた被告は同一事件では訴追されないという一事不再理の原則は大陸法と英米法ではその解釈が異なる。
アメリカなどの英米法系の国ではこの原則を人権の一つに位置付け、一度訴追された被告として多大な負担を裁判で強いられた者の権利を保障すべきとして、再度の事実審での訴追はたとえ確定判決を経ていなくても許されないとする。
しかし大陸法系のフランスではこのような解釈には立っておらず、検察側の上訴も認められる。
本作を見る限り、被告の有罪を立証する新事実が出てきてないにもかかわらずである。当然、英米法では新事実が出てきたところで再度の訴追は許されない。十分な準備を経て一審に臨んだのだから、主張すべき事実はそこで出し切るべきだということである。
ちなみに日本も大陸法を主に踏襲しており、このような検察官上訴は認められている。

本作でジャック・ヴィギエは失踪した妻の殺害嫌疑により被告人となり、苦しい裁判を乗り越え無罪を勝ち取ったものの、検察側のいわばメンツのためだけで上訴され、再度の事実審を余儀なくされている。
そもそも本件は物的証拠、動機はおろか妻の死体さえ発見されていないにもかかわらず被疑者とされ起訴されたことに驚かされる。大学教授である彼がヒッチコックになぞらえて完全犯罪を講義で言及したことにマスコミが飛びつき話題になったことも影響してるようだ。

彼が無実であるなら、妻を失った上にその嫌疑までかけられ、社会的なバッシングを受け続けたために精神を病んでしまったのも致し方ないであろう。
そして控訴審で繰り返されるのは一審ですべきであったことの繰り返しでしかなく、これは彼にとって拷問でしかない。これではもはや手続き的保障はなきに等しい。

本作の主人公は弁護士の依頼で妻の愛人を含む膨大な音声データの解析に挑むのだが、その内容から明らかに真犯人は愛人ではないかと確信する。
確かにその内容からは愛人が夫に罪を着せようとした意図は感じられるものの、彼による殺害の物的証拠はない。この点はヴィギエと同じである。
愛人が犯人だと訴える主人公に弁護士は君も検察と同じだと切り捨てる。邦題にも使われているが、「確信」ほど裁判において危険なものはないのかもしれない。訴追した検察側も何の客観的証拠もないにもかかわらず「確信」したからヴィギエを訴追したんだろうし。

そもそも裁判とは客観的事実を積み上げていって、最終的にある事実を認定するものである。それが推測や憶測だけで積み上げていけば砂上の楼閣のごとく容易く崩れ去ってしまうだろう。

本作のクライマックスでは負けを覚悟した弁護士が大演説をぶちまける。その内容は確かに心に響くものであり正当な訴えだったと思う。しかし結果的に一審と同じく無罪判決が下ったのはやはり有罪を立証する新たな証拠がなかったからであろう。
いくら陪審制度が問題ある制度だとしても、弁の立つ人間の弁論次第で有罪無罪がコロコロひっくり返るようでは制度を維持してゆくのは困難なはず。
判決は一審と同じく、あくまでも推定無罪の原則に従ったものであった。むしろこの推定無罪の原則に反したのは起訴した検察側であり、本来本件は起訴すべきものではなかった。

結局、事件の真相はやぶの中で妻の行方は不明なまま。殺害したのは夫か愛人か、はたまた自殺かそれとも人身売買組織による誘拐か。フランスだけでも年間失踪者の数は数万人とのこと。
周りの人が心当たりのない失踪ということもありうる。人の心の闇は他人にはなかなか推し量れない。その心の闇と社会の闇がどこかで繋がっているのかもしれない。

本作は登場人物の中で唯一の創作である主人公が裁判にそこまでのめりこむ動機付けとか、弁護依頼を拒否していた弁護士が一転依頼をなぜ請け負ったのか、そして判決に重大な影響を及ぼすであろう音声データの分析をシングルマザーのボランティアに頼るなどなど、法定ものとしては少々粗も目立つが大陸法系の刑事司法の問題に鋭く切り込んだ点において評価される作品だと思う。

公開時劇場にて鑑賞。再投稿。

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