透明人間 : 映画評論・批評
2020年7月7日更新
2020年7月10日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
ハイテク透明人間の影に怯えながら、ヒロインは戦いに挑む!!
ハリウッドメジャー、ユニバーサルの「ダーク・ユニバース」構想をほんのり憶えているだろうか? 吸血鬼ドラキュラやミイラ男といった自社キャラクターを現代風に加工し、フランチャイズとして連作するはずだった企画だ。惜しくも「ザ・マミー 呪われた砂漠の王女」(17)を嚆矢に頓挫となったが、この趣向を見直して始動させたのが本作である。
SF小説の祖H・G・ウェルズによって執筆され、1933年に映画化されたこのタイトルは、新薬の作用で透明化した博士の凶行を描くホラーの古典だ。今回は同作の正当なリブートで、薬物効果として設定づけられていた透明化現象を、最新の科学装置が生み出す機能へと進化させている。監督のリー・ワネルは盟友ジェームズ・ワンと共にシチュエーションスリラー「ソウ」(04)を創り、以降ホラーを主戦場にフィルモグラフィを展開。そして前作「アップグレード」(19)でAIを埋め込んだ男の復讐劇を捻りの利いたSFサスペンスへと昇華させ、今回への見事な布石としている。
そんなワネル版「透明人間」は、光学迷彩スーツを装着した天才開発者が死を偽り、かつての愛人に対して愛憎入り交じった復讐を実行していく。この狂気じみたストーカー行為を、襲撃を受けるヒロイン(エリザベス・モス)の立場から描き出すのだ。元カレの拘束から逃れてきた彼女は、トラウマを克服して正常な生活を取り戻そうとしていた。だがその矢先、身の回りで起こる不可解な現象に疑問を抱く。やがてその現象は殺人へとエスカレートしていき、彼女は姿の見えない敵と真っ向から戦うことになる。
品位の差はあれ、女性にちょっかいを出すのは透明人間モノのセオリーだが、それが連続殺人にまで発展するのはおだやかじゃない。なによりこの対立と逆襲の構図は、女性のエンパワーメントを描くハリウッドの今日的傾向で、独占欲が肥大化した主犯者のサイコパスぶりと、常軌を逸したパワハラ気質が恐怖の要素となっているのも現代的だ。
だがワネルはそこで、スリラーを全うすることを決して忘れない。姿の見えない相手が知らず知らずのうちに、自分の耳元まで迫ってくる恐怖や極限状況を徹底して演出し、観る者の油断を一瞬たりとも許さない作品にしている。そう、これこそがユニバーサルホラー映画の真髄!「ダーク・ユニバース」の成功に足りなかったものが、しっかりとそこに存在しているのだ。
(尾﨑一男)