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○作品全体
ノンフィクションのドキュメンタリー作品は、「実際に起ったこと」に編集を加えたものであるということを理解しなければいけない…というのはいろんなところで目にするけれど、この作品も同様だ。ただ、その編集のストーリーテーリングの巧みさが光る作品だった。
タイトルでは「vs」という言葉が付いていて、作中でも「右翼vs左翼」、「保守vs革新」といった言葉が出てくるし、序盤は対立構造に注視している。しかし最終的に「あいまいで卑猥な日本国(作中の芥談)」を批判する「三島由紀夫と東大全共闘」という構図が浮き彫りになり、実は考えている部分は近いものであった…というような落とし所にしているのが、巧い。全共闘側からの共闘の誘いに「甘美的だけれども拒否します」という三島由紀夫のユーモアある回答でオチを付ける、というのもドラマ的でとてもおもしろかった。
本作タイトルは同じ題材を取り扱った書籍等を参考にしているのだろうけど、「vs」とタイトルにつけて実際はそんなに「vs」してないみたいなことは映画の文脈だと「あるあるネタ」の一つになりかけてる(それが良いとは思わないけど)。この作品もそれに近いけれども、だからこそフィクションっぽいドラマティックさがあるのが面白い。それでいて映される映像は当時の、ノンフィクションの映像。この二面性が、また良い。
映像の大半は壇上を映すのみだけれど、絵的な面白さが随所に入ってくるのも印象的。当然のように壇上で聴講する芥が急に話に割って入るのも相当な意外性があったし、野次を飛ばして壇上に上がってくる学生のシーンでは急に色収差が乱れた画面になるのも、間違いなく偶然なんだろうけど、妙に演出チックだ。
シーンごとで全共闘側の論客が変わるのも三島由紀夫が切った張ったで戦っているように見えてくる。
そんなさなかで平野啓一郎らの解説が緊張の緩和を作ってくれていたり、映像演出的な緩急に富んだ「映画」だったと思う。
映画通からしてみれば当然なのだろうけど、ノンフィクションドキュメンタリーは必ずしも演出が加わっていないわけではない…ということをすごく肯定的な意味で体感させてくれる作品だった。
○その他
・三島由紀夫の役者っぷりに痺れた。カメラを意識したポージングだったり、タバコを吸うときの表情、言葉を交わすときの余裕綽々な雰囲気と、その雰囲気を「作ってる」と言ってしまう親しみやすさ。三島由紀夫から感じる寛容さがなければ、ラストシーンの全共闘側からのラブコールも説得力がなくなってしまうわけだから、やはり役者っぷり、と言わざるを得ない。
・芥正彦のめんどくさい感じが素晴らしくて、助演男優賞をあげたい。当時、三島由紀夫にタバコを分けたけれど芥側が一本多くなってしまったことに対して、70歳を過ぎた芥が「タバコ返せてないな」と言うくだりとか、めちゃくちゃかっこいい台詞回し(と、あえて書く)だった。三島由紀夫に「敬意を払う」とか言いかけてしまうところも、敵対しているけれどリスペクトはある敵役っぽくて最高。芥正彦と三島由紀夫だけフォーカスすると、とてもノンフィクションとは思えない。両者ともにまさしく「千両役者」って感じだった。