プラド美術館 驚異のコレクション
劇場公開日 2020年7月24日
解説
2019年に開館200周年を迎えた、世界最高峰の美術館の1つと評されるスペインのプラド美術館全貌に迫るドキュメンタリー。15世紀から17世紀にかけて「太陽の沈まぬ国」とも呼ばれたスペイン王国。プラド美術館には、歴代の王族が圧倒的な経済力と「知識ではなく心で選んだ」約8700点の美術品が収蔵されている。宮廷画家ディエゴ・ベラスケス、フランシスコ・デ・ゴヤ、エル・グレコなどの傑作群にカメラが接写し、天才たちの筆遣いを紹介。ヒエロニムス・ボスの「快楽の園」、男性中心だった17世紀の美術界に名乗りを上げた女性芸術家クララ・ピーターズの静物画などをミゲル・ファロミール館長やベテラン学芸員が解説するほか、収蔵品の保存や修復、研究をするスタッフの作業風景や、新たなプロジェクトに参加する建築家ノーマン・フォスター卿の声などから、プラド美術館の新たな魅力にも迫っていく。オスカー俳優ジェレミー・アイアンズがナレーションを務めながら、ナビゲーターとして出演。
2019年製作/92分/G/イタリア・スペイン合作
原題:Il Museo del Prado - La corte delle meraviglie
配給:東京テアトル、シンカ
オフィシャルサイト スタッフ・キャスト
全てのスタッフ・キャストを見る
2020年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
ルーブルやメトロポリタンに比べ宣伝下手のせいで知名度はやや劣るという、スペインのプラド。だが同国を代表するベラスケスとゴヤ、ギリシャから移住したエル・グレコという3大巨匠の作をはじめ、歴代スペイン王室が買い集めた約8700点を収蔵し、世界3大美術館とか4大~と称される。その魅力を92分で伝えるのだから、個々のコレクションをじっくり鑑賞するのはさすがに厳しい。
昨年の開館200周年に企画されたというから、長尺のプロモビデオと割り切るのが吉。音楽PVがアーティストを敢えてたっぷり見せず、細かいカットで飢餓感を煽るのと同様、本作も絵の全体を見せたら次のカット、部分に寄ったと思ったら次のカットとせわしない。字幕版で観たが、吹替版の方が映像に集中できてベターだろう(ジェレミー・アイアンズは良い声だが)。
紹介された中ではボスの「快楽の園」の奇妙さが特に興味深かった。美術本などでじっくり観たい。
プラド美術館のコレクションはスペインの歴史そのものなのだ。
イベリア半島をイスラム教徒から奪還した後、間もなくしてスペインは日の沈まぬ国になった。
しかし、それは侵略と外国との戦乱だけではなく、異文化との交流で文化的なアイデンティティが揺さぶられる歴史でもあった。
そして、衰退と内乱。
この映画は、プラド美術館が所有する作品を事細かに紹介するというより、主要な作品を中心にスペインの歴史を織り混ぜながら、その背景を含めてフィーチャーすることで、観る人をプラド美術館に誘おうとしているのではないかと思う。
スペインは、世界にカトリックを広げる中心的役割を担った。
だから、プラド美術館では、プラドの礎になったティツィアーノから、ティントレット、フラ・アンジェリコ、エル・グレコまで宗教作品はものすごく充実している。
修復の場面が紹介されるフラ・アンジェリコの受胎告知は、是非、伊フィレンツェ、サン・マルコ美術館のフレスコ画と比べて欲しい。マリアの表情から戸惑いが感じられないだろうか。
エル・グレコは、岡山県倉敷市にある日本初の西洋美術館・大原美術館のメイン作品でもあるから、日本人にもファンは多い。
マドリッドから列車で近いトレドの教会もついでに訪れてみたら、もっとファンになるかもしれない。
スペインはフランドルをかけて、プロテスタントと戦い、後にフランドルで盛んになった肖像画や静物画表現、ヒエロニムス・ボスの抽象表現にも触れる。
肖像画表現はスペインの支配者を歴史の記憶としてとどめる一助にもなった。
ボスは、バベルの塔などで知られるブリューゲルに大きな影響を与えたし、日本の漫画家の浦沢直樹さんもボスのファンを公言しているし、僕は三浦建太郎さんの漫画「ベルセルク」のベフェリットはボスのキャラクターそのものではないかと思っている。
そして、ハプスブルク家の不穏さを感じざるを得ないベラスケスの「女官たち」。
プラドのメインだ。
多くの幾何学的配置が謎とされ、そこをメインに語られることが多いが、僕は、中心の少女の肌の色の白さが、近親相関が多かったスペイン・ハプスブルク家の暗い行く末を、逆説的に暗示しているように感じる。
ベラスケスは、陰影表現をイタリアのカラヴァッジョから学んだとされる。
カラヴァッジョの生涯も波乱に満ちたものだった。
ベラスケスが描いたハプスブルク家と少し重なる。
ゴヤのナポレオン軍との戦いの場面は歴史の教科書でよく見かけるし、巨人や、着衣と裸のマハは、お馴染みの作品だ。
それまで、女性の裸身は神の物語として描かれることがほとんどで、陰毛が描かれることはなかったが、ゴヤは裸のマハで陰毛を描いた。これによって、ゴヤは絵画をエロに貶めたと非難されたのを、皆さんはご存知だろうか。
とは言っても、カトリック絵画に慣れ親しんだ白人は、宗教絵画の陰毛のない裸婦に慣れ親しんでるために、女性は他の民族と違って、剃毛に抵抗がないということを聞いたことがある。
人はいつのまにか、神と自分を重ねてしまうのだろうか。
でも、なぜ、こんなゴヤの話をしたかと云うと、絵画鑑賞は、肩の力を抜いても良いと思うからだ。
いざ、プラド美術館に行くと、その作品群に圧倒される。
ルーブルやニューヨークのメットと同様に、時間がいくらあっても足りないし、作品をいちいち事細かに鑑賞しようとしたら、脳の疲労感も尋常ではない。
だから、この映画は、将来プラドを訪れた時のガイダンスとして観たらどうかと思うのだ。
印象に残ったアーティストを中心に鑑賞するのも良いと思う。
映画で紹介される作品たちが、時系列もあちこち行ったり来たりするので、そこは難点だけど、僕は、プラドに、もう一度行きたくなった。
2020年9月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
スペインマドリードにあるプラド美術館のドキュメンタリーは大変勉強させられた。スペイン美術はもちろん、スペイン史の勉強にもなる好ドキュメント。印象に残ったのはスペインのプラド美術館の関係者による絵の解説、徹底的な美術品の修繕までしての管理、スペインの著名人のインタビューによるプラド美術館への想い、絵のこだわりが印象に残った。スペイン人はプラド美術館で絵を鑑賞する事で絵への想い、当時のスペイン、今のスペインへの想いを馳せながら鑑賞する。それだけ芸術を大事にする情熱を感じた。最後の当時館長だったピカソの言葉も◎。日本でも美術展があり、たまに観るが混んでいるなとただ興味ある展示品しか見ない私に美術、芸術のあり方を教えてくれたドキュメント。今のご時世でスペインはなかなか行けないが、いつかプラド美術館へ行ってみたいそんな思いがしたドキュメントだった。
2020年9月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
ここ数年、年1,2回海外旅行して、ウィーン美術史美術館、エルミタージュ、ウフィツィやらと美術館巡りもしてきましたが、コロナのせいで今年は果たせず。 プラドは長年行きたいと思っていた所。 他のかたのご指摘の通り、こりゃPVですね。 収蔵品だけを、もっとじっくりと淡々と見せてほしかった。 カメラの動きが早すぎる。 音楽、ナレーション、キュレーター等のコメントも邪魔に感じました。 フラメンコは余計。 背景音楽も紹介作品にマッチしているのか?
当地では吹き替えしかみられなかった。 海外旅行の予習として、オリジナルの言葉(+できれば英語字幕)で見たかった。 日本語でしか知らないと現地に行ったときに困るんですよ。 日本語訳も怪しいなあ。 「めせん」って何よ? 「まなざし」でしょ。 「贋作が身分証明書」は「~がアイデンティティ」でしょ。 他にも怪しいところがあったし、ナレーターの声質が低くこもって嫌い。 標準アクセントと違う言葉が気になったし。
プラドに行きたくなったということで、観光用PVとしては成功か? 参観に二日は要るなということがわかったのも収穫。 ということで星は二つにしておきます。
すべての映画レビューを見る(全20件)