すばらしき世界のレビュー・感想・評価
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不寛容、不公平、不平等な時代にどうあるべきか。
西川美和監督自身の作品の初鑑賞でかつ、役所広司さん、六角精児さん、橋爪功さん等俳優陣の演技も素晴らしいです。
後、北海道、九州地方でロケをするなど本当凄い物があります。
格差、高齢化、誹謗中傷、対立分断、冷笑社会、孤独死、公共交通機関の在り方、マスメディアの在り方等、日本を含む世界全体で問われている問題もこの作品に反映されていて、考えさせられます。
お勧めします。
誰も間違ったことを言っていない
本作の登場人物は、誰一人、間違ったことを言っていない。
刑務所を出所した三上(役所広司)を、テレビのネタにしようとしていたプロデューサー(長澤まさみ)。ケンカを始めた三上を撮れ、とだけ言うなら、嫌なヤツだが、カメラを持つ津乃田(仲野太賀)に「撮らないなら、カメラを捨ててケンカを止めろ」と言う。
三上の勤める介護施設の若者たちの「言い分」も、間違いとは言いがたい。
これが「すばらしき世界」だ、と本作は言う。
かつて罪を犯した三上の言うことだって間違っていない。
夜中に騒いではいけないし、困っている人を見捨ててはいけない。
だから、かつて自分を守ってくれた三上を、当時の妻(安田成美)は、いまも感謝している。
親を知らない三上は、子どものままの心を持っているようですらある。
間違ってはいないかも知れないが、「何が正しいか」については本作は断言しない。
ラスト、同僚のイジメを止めていたら、三上は体調を崩すことはなく、死ぬことはなかったろう。
だが、あそこで手を出していたら三上は破滅していたはずである。
この「すばらしき世界」では、いろんなことに折り合いをつけながら生きることが「正しい」のか?
それで死んでしまっては元も子もないのではないか?
そんな問いが観るものに投げかけられる。
かつて、三上と義兄弟の契りを交わしたヤクザの妻(キムラ緑子)は、三上に「シャバは我慢の連続。でも、空は広い」と言った。
三上が亡くなった翌日は、台風一過の晴れ渡った空が広がっていた。
薄べったいが、高校生には観やすい映画
題名に「哉(かな)」はつかず、そして題名に「人生」より「世界」を選んだ。
あえて言うなら「世界」を「社会」に替えれば、高校生にはもっと解りやすかっただろう。
本作の脚本家が描いた事と違い
原作者は「身分帳」という題名で
「積み上げると1メートル?超すものがあった」と言う事から、
原作は何故そうなったのかを書き記したものだと推測できる。
原作の35年前の景気のいい時代では、こんな社会風潮ではなかった。
出所祝いに、いろいろしてくれた親分さんは居たとは思うが、
当時は女性プロデューサーもまず居ないし、フリーの番組ディレクターもフリーのライターと比べてそんなに居ない時代。
映画の肝になる冪ところなので、こういった味付けは逆効果。
当時は「反社」という言葉もなく、社会の在り方も違う。
現代では出所後を配慮して、出所前から受刑者の髪を伸ばさせてくれるのかもしれないが、
35年前の受刑者はもっと解りやすい風体なので、社会復帰の第1歩はそうとう難しかった訳で、
「一般社会よりも刑務所の方が、規則正しく純で、暮らしやすい」「前科者は繰り返す」等と言われていた時代だ。
主人公の出生地から、その辺の背景も想像できるが、
映画の中で、ソレを描かなかった事は好感が持てる。
原作は読んでいないが、今回の映画は無意味に
だいぶ逸脱した味付けをしてしまったと思われる。
不良を扱った映画に「実在した人物をモデル」「事実をもとにした、映画」という
保証書をつけたかったのだろう。
そんな小作な事はせず、もっとちゃんとしたオリジナル脚本をどうどうと書く冪だったと思う。
原作の本髄を伝えやすくする為に、
35年前の出来事を、むりむり現代に置き換えたのなら理解はできるが
題名と固有名詞こそ代えているが
本作は残念ながら原作が言いたかった事をちゃんと伝えていない映画なのではないだろうか?
斜め方向から、ついついみてしまう映画だ。
長澤なつみさんと、安田成美さんの劣化には驚いた。
また成美さん出演の全シーンはすべてなくても、作品は成立するので、サービス出演なのか?
いきなり"切れる"のはいかにも、そっち系の人みたいだが、通常時の目が優しすぎる。優しい眼の中に、身分帳1メートルぶんの鋭くも怖い眼を数カット、監督裁量で映画に入れ込む冪だった。
役所広司さんの今回は演技ダメです。35点
九州での女将さんから「気持ちいい薬をあげようか。。。」といったセリフが出るが
僕は迷わず、バイアグラ系だと思ったが、シャブなんですねぇ~
そんな会話から、僕とは別世界の話である事が実感できた。
原作に近い映画は「佐々木、イン、マイマイン」なのではないだろうか?
そして、@クザ映画は「冬の華」「昭和残侠伝 死んで貰います」等の健さんがいい。
この”素晴らしくない”『すばらしき世界』
13年の刑期を終え出所した、還暦も近い元ヤクザの殺人犯の社会復帰ドラマを描いた本作は、主人公・三上正夫が堅気として一般社会で生きていく過程を、津乃田という一人のルポライターの目を通して描いた作品です。
奇しくも、藤井道人監督の『ヤクザと家族 The Family』に相通じるテーマですが、本作では家族も係累も友人もいない、それゆえに西川美和監督は、徹底して“一般社会の人間”側から捉えたといえます。
本作の映像が一貫して置かれる小説家志望の津乃田の視点、それは小心で臆病で、揉め事から目を逸らし避け通す、世の中のマジョリティーを占める典型的小市民であり、これが世間的価値観の標準的尺度です。
一方で、役所広司扮する主人公のような、正義感が強く猪突猛進の行動力がある熱血漢は、本作では、その暴力性が滑稽で面白可笑しく捉えられこそすれ、決して称賛や憧憬の対象にはしていません。寧ろ引きのショットで冷淡に客観的に撮っています。
劇中で、嘗ての弟分の妻から呟かれる「娑婆は我慢の連続だ。」が象徴的で、彼なりに懸命に奮闘するその生き様には、嘗てのヒーロー物の残像が漂いつつも、只管辛抱と忍耐を強いられる映像には、主人公の葛藤と苦悩と諦観が見てとれ、徐々に小市民化していく姿には虚しく枯れた寂寥感が残ります。
世の中に起きる森羅万象には、大小様々な不満と憤怒と憎悪が蟠り、誰しも鬱々たる思いが滾ることがあります。けれど殆どの人は、それを心中に押し殺し穏便な言動に終始することによって平穏な社会が保たれています。
偉大なる小市民社会にエールを送ると共に、“素晴らしくない”『すばらしき世界』の高質な価値を称えたいと思うしだいです。
自分、医療福祉系の仕事をしているゆえの響きがあった
予告編は2,3回見ていたので、観る前にこういう映画だろうとイメージしていたことがある。
「刑務所から出たばかりの男が社会に適応しようともがくが、男が時代遅れなのと現代社会が冷たすぎて悲劇に終わる」
観たら、ある程度はその通りだった。けれどやはり違う。 過去作品にあったような「前科者に冷たい世間」を描いたというわけではなく、ここで描かれる世間は相当に優しい。主人公三上の生活保護受給を担当した職員(『ヤクザと家族』ではヤクザの方演じてた)は職域ギリギリいっぱい三上に親身であったし、後見人の弁護士夫婦は家族同様にあたたかいし、近所の店主の底抜けなまでの三上への寄り添いぶりは、もう、映画館中に鼻すする音がズルズル響いていたほど。(不肖当方もすすった)
それでも三上という人間は、「前科者」を再生させんとする現代社会のシステムの中におさまりきれない内的エネルギーとクセと屈折と過去をたくさん抱えていた。三上の、ところどころネジが外れたような(ここらの演技がもの凄くて)思考や感情の波がスクリーン上に現れるたび、「おさまっていればいいんだよ」「おとなしくしていればいいんだよ」と思っている自分がいたことを白状せねばならない。
そして、実際、三上はそうなった、というかそうなるべきと理解し、そうなった、ようだった。
そして、もともと持病があったとはいえ、最後に三上は・・・・
わたしは最初、そのきちんと悲劇という形におさまってしまったようなラストに疑問を感じた。釈然としない後味を感じた。 けれど、このおさまりが、彼を殺したのだと思った。
作品は、三上のふるう暴力やヤクザの世界を肯定しているわけではない。 どんなに小市民でもカタギとして生きる方を肯定するからこそ、最後は広い空を描いているし、三上とてそう思っていたと思う。 それでも、おさまっていればいい、という姿勢は、いろんなものを殺す。 何より、映画作品はじめ表現物全般がそうだ。
三上のような生い立ちの者が生じないようにしよう、そういう社会にしようという営みも絶体に必要だ。 でも、そういう人はいつの時代もやはり生まれる。この社会を構成するものが人である限り。
こんな世界をすばらしいと思うか思わないかは人による。
せめて空の広さに感激するのは忘れないようにしたい。
(文の都合上書けなかったが、安田成美さんの凄みも一見の価値あり。てか、女優たちに迫力ありあり)
あの電話
改めて、すごいタイトル。
タイトルは最後に出るのだけど、すべて見届けてから改めてタイトルを眺めると、なんでこのタイトルにしたんだろうと…。三上の人生は、外から見ると、とても「すばらしい」と言い切れるようなものではない。刑期を終えて出てきた彼にとって社会は生きづらいし、我慢して順応して生きていこうとする姿は痛々しかった。
それでも、「空が広い」娑婆の世界は生きる価値がある、という宣言なのだろうか…。
役所広司さんはどんな役でもすばらしいけど、本作は特に魅力が詰め込まれている気がした。コミカルさも、真面目さも、何をしでかすかわからないような怖さも。
面白い映画だ!役者の演技がすごい
「いい話」では誤魔化せない映画としての限界
いわゆる「いい話」だ。
人間同士の心の通わせ合いなんて、昔はなんとも思わなかっただろうが、歳のせいもあるんだろう、確かに心に響くところもある。
普遍的で人を選ばないメッセージだ。
社会において大切なものを描いていると思う。
しかし劇として、映画として、面白くない。
どうしてこうも脚本がだらっとするのか。邦画によくある感触。展開のメリハリがとにかく弱い。
映画の中心は必ずしもメッセージである必要はないが、もちろんメッセージを中心に置いてもいい。だが中心のメッセージがしっかりしているからといって、いい映画ではあり得ない。映画として面白いからこそ、より強く、深くメッセージが刺さるはずなんだが。
そしてディテールの欠落。
キャラクターがどれも既視感のある、わかりやすくディフォルメされた人物ばかり。アクションやコメディならまだしも、人間を描く映画で、これはあんまりどうなんだろう。
分かりやすいいい話で、ストーリーも簡易。きっと客も入り、評価もされるだろう。今回の作品の第一目的がそこにあったんだろうことも窺える。
しかし、考えもなしにヤクザの親分に白竜をキャスティングし、風呂場で背中を流し合い、差別者を適当にリアリティなく描き、何の意味もない長澤まさみの役のような存在を放置するといった判断の数々は、決してその影に隠されていいものではない。
邦画界が描く人間ドラマの到達点であり、これが限界点なのだろう。
すばらしき世界のひとつの有り様
役所広司はさすがの演技力でぐいぐい引き込まれた。中野太賀も不器用で実直な青年を演じていてとてもよかった。長澤まさみは、実はこの映画を見ようと思ったひと押しだったけれど出演時間はあまりなかった(目立つから主役でない限りはこのくらいがいいのかな)。
刑務所から出所した人間が堅気の世界に戻って四苦八苦する様子。周囲にとても恵まれて、現実はあのような恵まれた環境にいることができるのかなと思ってしまう。顧問弁護士、役所の担当員、TVディレクター。彼らがいなかったら、ほぼ間違いなく、ヤクザの世界に戻っていったように思う。
感情を押し殺し、いっときの怒りもやり過ごし、平穏に生きようとする堅気の世界の窮屈さ。それをすばらしき世界と呼んでいるような、そんな風に受け止められる。それをヤクザの世界のような暴力に訴えるのでもなく、平穏なやり方で見過ごしていかないようなそんな努力も必要なのかなと思った。それにしても、周りの暖かい人たちには感動させられる。あんな仲間をもちたいと思える。
本当に現代は「すばらしき世界」なのか?
素晴らしき脚本、素晴らしき監督。
西川美和×役所広司という素晴らしきタッグで、待ちに待った本作品。私個人としては、期待を裏切らない素晴らしさで、今年度私アカデミーでは第一位に躍り出ています。
西川美和監督は、光の陰影で物語のキャラクターの心情や環境を表現するのがとても上手いと思います。台詞で無く、光に語らせるような「間」があり、それが例え心の闇を描いているシーンだとしても、見ていてとても心地良いのです。
役所広司さんは変わらず狂気と優しさの狭間を演じさせたら、何時間でもずっと観てられます。ある時は善人に、そして次の瞬間はとてつもない狂人に、画面を見ていて恐怖さえ感じさせてくれる役者さんなどそういないでしょう。
このような映画を観る度に、映画は本当に素晴らしい。
また今度いつこんな作品に出会えるかな、とワクワクします。
全ての映画ファンともしかしたら初めて映画を観る人にも、自信を持っておススメする、素晴らしき、映画です。
最後にタイトルがずっしり響く
この世は「すばらしき世界」だ。
原作の題名「身分帳」をこのタイトルにしたことがすべてを表している気がする。
人はどこで誰から生まれるかは選べない。人生とは時に残酷なものである。でも、毎日は止まることなく訪れるし過ぎていく。生きていかなくてはならない。
格差をはじめ生きづらさが蔓延する現代、嘆くことは簡単だが、世の中捨てたもんじゃない。
努力はきっと誰かが見てくれているし、人の優しさだって溢れている。それに気づけるかが、ささやかな幸せを感じられる秘訣だ。
主人公の三上は善人なのか悪人なのか…どちらもだと思う。それがリアルだし、生々しい人間とは単純に分けられないものだ。
その両面を持ち合わせ、自分の本心を押し殺し、悩みながら必死に生きていく男を見事に生ききった役所広司の芝居に脱帽。それを観るだけでも価値のある作品だ。
すばらしい、の意味。
誰かを助けようとしたのだとしても
大声で怒鳴って威圧したり
暴力で解決しようとしたら
結局は自らが悪者になってしまう。
声を荒げず冷静に対処したり、
関わらないようにするのが
正解なのかもしれないけど
それが上手くできるかできないか。
自分の気持ちを押し殺してまで我慢するのは
正義感がある人ほど辛いことだと思う。
施設のシーンで、殴ってやりたい気持ちを堪えて
主人公が一緒になって笑っている姿を見て、
社会でうまくやるにはこれが正解なんだろうけど
こんな胸糞悪いやつらと一緒になって笑ってるのって
虚しさとか生きづらさを感じるだろうな。
暴力は悪いけど、暴力はふるってないけど
クソみたいなやつなんて世の中には沢山いる。
さいごのカットで、空に降り上げて
すばらしき世界と文字。
うーん、私にはこの世の中を
素晴らしい。という目で見れない。
なんとも報われない世界。
追記
すばらしいの語源は、小さくなる、狭くなるという意味の動詞「すばる(窄)」からだという説がある。
「すばる」には「すぼる」という語形もあり、その形容詞形「すぼし」は古くから、みすぼらしい、肩身が狭いという意味で使われていた。この意味の例は鎌倉時代の初頭までさかのぼれるので、マイナスの意味のほうが先だった可能性が高い。
肩身の狭い世界か。
ああ、なるほど。納得。
不寛容で排他的な現代を生き抜くには
熱演が圧巻。現代社会でもがく男の、切なすぎる物語。
【賛否両論チェック】
賛:演者さんの怪演・熱演が見事で、思わず圧倒されてしまう。現代社会での社会復帰の難しさや、そんな中でも必死に生きようとする男の姿が、切なく描かれていく。
否:物語自体はかなり淡々と進むので、興味を惹かれないと退屈してしまいそう。暴力シーンやラブシーンもあり。
物語全体を通して、役所広司さんの熱演が見事で、観ていてとても切ない気持ちになってしまいます。綾野剛さん主演の「ヤクザと家族」でもそうでしたが、一度道を外れてしまった者が社会復帰する難しさや厳しさを、非常に身近な物語として感じさせてくれるようです。
ただ、やはり小説の映画化なせいもあってか、ストーリーそのものはとても淡々と進んでいくので、人によっては観ていて退屈してしまうかもしれません。
暴力シーンやラブシーンもあるので、気軽に観られる映画ではありませんが、現代社会で必死にもがこうとする主人公を等身大で描いた作品ですので、是非ご覧になってみて下さい。
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