すばらしき世界

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劇場公開日:

すばらしき世界

解説

「ゆれる」「永い言い訳」の西川美和監督が役所広司と初タッグを組んだ人間ドラマ。これまですべてオリジナル脚本の映画を手がけたきた西川監督にとって初めて小説原案の作品となり、直木賞作家・佐木隆三が実在の人物をモデルにつづった小説「身分帳」を原案に、舞台を原作から約35年後の現代に置き換え、人生の大半を裏社会と刑務所で過ごした男の再出発の日々を描く。殺人を犯し13年の刑期を終えた三上は、目まぐるしく変化する社会からすっかり取り残され、身元引受人の弁護士・庄司らの助けを借りながら自立を目指していた。そんなある日、生き別れた母を探す三上に、若手テレビディレクターの津乃田とやり手のプロデューサーの吉澤が近づいてくる。彼らは、社会に適応しようとあがきながら、生き別れた母親を捜す三上の姿を感動ドキュメンタリーに仕立て上げようとしていたが……。

2021年製作/126分/G/日本
配給:ワーナー・ブラザース映画
劇場公開日:2021年2月11日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第45回 日本アカデミー賞(2022年)

ノミネート

最優秀作品賞  
最優秀監督賞 西川美和
最優秀脚本賞 西川美和
最優秀主演男優賞 役所広司
最優秀助演男優賞 仲野太賀
最優秀撮影賞 笠松則通
最優秀照明賞 宗賢次郎
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(C)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

映画レビュー

4.5晴れやかな空のすばらしき世界は全然よくない

2024年4月19日
PCから投稿
鑑賞方法:その他

悲しい

笑いとシリアスな部分の緩急が絶妙でした。

社会福祉的な支援は存在しているはずなのに、そこからこぼれ落ちてしまう様子が見事に描かれていてすごい。また誰しもが、自分のできる範囲でやっているにも関わらず摩擦が生じたりするのがとても悲しいが、現実なのである。みんな社会システムに組み込まれて、疎外されてしまうのである。

あと思ったのが、ちゃんと三上を映画的に殺すこと。元妻と“デート”の約束を交わすシーンで終わってもいいと思った。だが、嵐が吹いて洗濯物を急いでしまうがために持病が重症化して亡くなるまで描く、つまり三上の社会復帰を絶やすことと支援の届かなさをちゃんとみせるのは映画として素晴らしいと思った。

嵐が起こるからコスモスなどの花を気遣う人がいる。誰の責任でもない嵐の中、些細な出来事で死ぬ人がいる。そんな人々を蔑み、笑い、いなかったことにする人また気づいても支援が届かなかった人は生きる。映像として消費する人は快適に生活する。そんな晴れやかな空のすばらしき世界に私たちがいることを暗示しているように思えてならない。

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まぬままおま

4.0太賀の存在が光る!

2021年3月16日
iPhoneアプリから投稿

 映画化を知って、原作を読みながら公開を待っていた本作。なかなかの長編、かつ、携帯電話等々とは縁遠い昭和の時代に書かれたもので、これがどのように映画になるのか、期待と不安があった。蓋を開けてみれば、まさに「今、ここ」の物語。単純な原作ものとは一線を画す、のびやかな映画になっていた。
 長い刑期を終え、13年ぶりに社会に出た三上。身寄りのない彼のつてはごく僅かだが、弱者に甘んじることを嫌い、手を差し伸べる者とも衝突してしまう。生活に行き詰まり、ルーツをたどるように東京から地方に流れていくが、そこにも彼の居場所はない。とぼけた笑いも織り交ぜられているが、それ以上に息苦しく、救いのなさがひしひしと迫ってきた。
 一昔前より、今はよっぽど生きにくい。日頃ぼんやり感じていたことを、本作はくっきりと描く。社会とかみ合わない、かみ合おうとしない三上を演じる役所広司のうまさは、言うまでもない。ここで声を大にして言いたいのは、三上に接近していく駆出しのテレビマン、津乃田を演じる仲野太賀の存在感だ。様々な作品で若きバイプレーヤーぶりを発揮しながらも、振れ幅(当たり外れ)が大きい彼。今回はどちらなのか…なんていう野暮な思いは、中盤から吹き飛んだ。太賀あっての本作、まさしく彼の代表作になる!と、観るほどにわくわく、ぞくぞくした。
 津乃田は、原作には登場しない。(片鱗を感じさせる若者は登場するが、すぐに三上から逃げ出してしまう。)津乃田が他の人々と決定的に異なるのは、戸惑い迷いながらも、最後まで三上に伴走していく点だ。三上を引き受ける弁護士夫婦、福祉課の職員、スーパーの店長たちは、それぞれに彼を温かく受け入れ励ますが、それは彼の立ち直り、つまり、自分たちの場所に無害に加わることを求めているからだ。一方津乃田には、そういった欲はない。長澤まさみ演じるやり手のキレイな上司に言われるままに取材を始め、自分を曲げない三上の扱いに右往左往する。仲違いしたはずの二人が再び出会い、三上の辛い過去との訣別に津乃田が寄り添うくだりには、思いのほか心揺さぶられた。こんな世の中を生きていくには、導きよりも、分かち合いの方がよっぽど大切なのかもしれない。
 後半、映画は原作の枠を超え、再出発も束の間、息を呑むラストシーンになだれ込む。放心しながらチラシやポスターが頭をよぎり、既にそこに物語が示されていたのかと、衝撃を受けた。
 映画を観終えた今は、メインビジュアルを直視するのは少し辛い。けれども、見開きチラシ(コメント集)の、子どもたちとサッカーに興じる二人は、ひときわ輝いて見える。自分も、背伸びせず、欲張らず、大切な存在に伴走していきたいと思う。

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cma

4.5小さな悪意と小さなやさしさの混在する社会の中で

2021年2月11日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 13年ぶりに出所した元ヤクザの三上が、堅気としての地道な自立を手に入れようと精神的にもがく様が、淡々と描かれる。
 三上は私生児として産まれ、母親は施設に彼を置いて失踪したため、親の愛を知らず育った。劇的な展開のある物語ではないが、直情的な彼が感情の制御に苦しみながら一進一退で歩んで行こうとする様をつぶさに見せられているうちに、その不器用さにはらはらしながらもいつの間にか応援していた。
 今公開中の「ヤクザと家族」は視点がヤクザの世界の中にあるが、この作品の視点はあくまで巷間にあり、元ヤクザという出自はあくまで背景のひとつだ。描こうとするテーマも違う。比較されることもあるようだが、それぞれに違う味わいの佳作だ。(両方に出ている北村有起哉の豹変ぶりにはびっくりした。さすが!)

 原案となる小説を書いた佐木隆三は、この物語の実在のモデル田村明義と、創作の対象以上の関わりを持っていた。田村のアパート入居の保証人になったり、時に彼のために厳しい言葉を投げたり、とある件では関係者として警察の事情聴取を受けたりもしている。
 映画の中で三上と関わる人々には、そんな佐木のまなざしがにじんでいるようにも思えた。TVディレクター津乃田の変化が印象的だ。三上を取材する立場という点は佐木にも通じている。当初は仕事だからとプロデューサーにどやされながら主体性のない関わり方をしていた彼の心の変遷に胸が熱くなった。

 一見冷たく見えたり、立場上厳しいことを言うような人でも、一歩進んで関わってみれば実はやさしい、時にはそんなこともある。そんなやさしさはとても得難く眩しいものに見える。
 逆に、関わってみると相手の心の汚さが見えてしまうこともある。そんな汚さをひとつひとつ正そうとしていたら、清濁渾然としたこの世界で生きることは一層難しくなってしまう。

 三上の無邪気とも言える心根は間違っていないのに、その生い立ちのくびきから逃れる機会を見失ったために、彼は何かを拒否したり他者の間違いを否定するにあたり暴力しか手段を知らない。また、私たちが日頃ちょっと引っ掛かりつつも目を反らし流してゆくような些末な悪意を流すことが出来ない。だから、社会で大人しく生活してゆくには己の価値観を根っこから抑えつけるしかなかった。それが何だか切なかった。
 彼の手段は間違っているが、自分の心の弱さに向き合ったことがある人ならば、突き放して見ることは出来ないだろう。

 垣間見える人々のやさしさに言葉通りの「すばらしき世界」が見え、堅気に生きようとする三上の心を倫理的におかしな堅気の人間たちが波立たせてゆく様に、皮肉としての「すばらしき世界」が見えた。

 役者の使い方が的確かつ贅沢で、出番の少ない役柄も皆リアルな存在感が際立っている。役所広司はもう言わずもがな。安心して実力派俳優たちを堪能出来る。
 西川監督は、三上をあたたかい視線で描きつつ、贖罪と更正の美談に仕立てることもしない。静かなラストシーンにまでその姿勢が感じられて、不思議な清々しさが余韻として残った。

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ニコ

4.0元ヤクザの目をとおして描かれる、今の時代の生きづらさと微かにある希望

長い刑務所生活を終えた元ヤクザの三上(役所広司)が、浦島太郎状態になって戸惑いながらも何とか社会に適応しようともがく姿を描くことで、今の時代の生きづらさと微かにある希望を描いているように感じました。窓にはじまり窓に終わるところも気が利いていて、後半のあるポイントで三上が嘘をつなかければならない一連のシーンは役所氏の演技も相まって大変な凄みがありました。
西川美和監督はエッセイも面白くて、本作のメイキングがつづられた書籍「スクリーンが待っている」を読むと、さらに本作が楽しめます。特に、役所氏のリクエストで西川監督が書いたセリフの細かい言い回しなどを変えていくやりとりは、ユーモアもありつつ、西川監督から見た役所氏の役者としての凄さが書かれていて、とても興味深かったです。

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五所光太郎(アニメハック編集部)