劇場公開日 2021年2月11日

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「「この世界は、生きづらく、あたたかい」」すばらしき世界 なりさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5「この世界は、生きづらく、あたたかい」

2021年4月20日
iPhoneアプリから投稿

◎現代人に突き刺さるメッセージ
この映画では度々印象的なセリフが登場する。

主人公の三上が刑務所を出て、バスの中で言った決意表明のような言葉。
「今度ばっかりは堅気ぞ」

ホルモン焼屋での長澤まさみ演じる吉澤の言葉。
「社会のレールから外れた人が今ほど生きづらい世の中はない。一度間違ったら死ねと言わんばかりの不寛容がはびこって。だけどレールの上を歩いてる私たちも、ちっとも幸福なんて感じてないから、はみ出た人を許せない」

旧友宅でのキムラ緑子演じるマス子の言葉。
「娑婆は我慢の連続ですよ。我慢のわりにたいして面白うもなか。そやけど、空が広いち言いますよ」

三上のアパートでの橋爪功演じる庄司の言葉。
「本当に必要なもの以外は切り捨てていかないと自分の身は守れない。全てに関わっていけるほど人間は強くないんだ。逃げることは敗北じゃないよ」

今を生きる我々にとっては、痛いほど突き刺さるその言葉一つ一つが、今でも脳裏にこびりついて離れない。いや、離したくない。
今を生きる我々には、心に響いてしょうがない言葉で溢れていた。

◎すばらしき世界にするもしないも、自分次第なんだ
この優しさ100点、この優しさ100点、この優しさもひゃ、、、120点!!
ミスタードーナツ!!!
ってな感じでこの映画には、人への優しさというテーマが一つあると思った。

同じタイミングで公開された同じヤクザ映画の「ヤクザと家族 The Family」とはある意味で真逆の作品だった。
何が真逆なのか、、、それは
主人公に”優しさ”を向けた人が、どこにいるのか。
「ヤクザと家族 The Family」では、同じ組の人たちや昔からの付き合いがある人たち、つまりは元々自分が生きていた世界の住人たち。
一方で「すばらしき世界」は、身元引受人の弁護士夫妻、スーパーの店長、ケースワーカーや若手テレビディレクターなど、主人公が刑務所から出てきて、再び人生を取り戻すために一生懸命に生きていこうとする世界で出会った人たち。

人はひとりじゃない、ひとりじゃ生きられない。
人との出会いは大切で、人への優しさも大切で、
そんな、当たり前だけど、どこか忘れがちな事に気付かされた作品だった。

◎とにかく可愛すぎる役所広司
なんと言ってもこの映画の最大の見どころは、乃木坂46なんかに負けない程に、キュートでキュートなキュートすぎる役所広司だろう。
歩き方ひとつとっても、まぁー笑っちゃうぐらい愛らしい。
強面の見た目と、ひとたびキレたら手をつけられない凶暴さを持った怪物の本性は、
誰よりも正義感が強く、お茶目で、真っ直ぐにしか生きられない、まるで時代遅れのヒーローのような人だった。
そんなバカ正直な三上という男が、刑務所から出たら、まるで知らない世界。
浦島太郎状態の境遇は、現代社会の生きづらさと通づるものがあり、それでもひたむきに生きようとする三上の姿に、ドンっと背中を押された気がした。

ザ・ノンフィクションを見てる時って、
どこか世界の痛い部分を見ている気がして、
ホラー映画と一緒で見たくないけど、
それでも怖いもの見たさでついつい最後まで見てしまう。
そんなザ・ノンフィクションの映画化と言えば分かりやすいか。
色んな人にオススメできる作品で、すごく観て感じて欲しい一本。

なり