※私のレビューでは、ドキュメンタリー映画の採点をしていません。ご了承ください。
自分はイチ競馬ファンである。馬を見て馬券を買い楽しむことは勿論、名馬登場の期待、海外での日本馬挑戦という夢、そして名馬の仔が新たな時代を築く姿など、競馬は多くの面から楽しめる要素を持っている。しかし、登録抹消(引退)した馬の行先には、始めた当時の自分は全く考えていなかった。
競馬ゲームをしていたころ、育てた競走馬で種馬になれなかった馬は「乗馬」として引き取られていたから、みな引退後は乗馬になるものと小さい自分は信じて疑わなかった。しかし、少し大人になり、少し計算してみると違和感に気づく。みなが乗馬になると国内で飽和する、乗馬の需要と供給のバランスが明らかに合わないと。そこから競走馬の余生について興味を持った。イチ競馬ファンとして競走馬のその後は知っておくべきことと思い、それに触れる記事や番組があると見るようになった。本作も、そんな気持ちから手に取った。
ここで登場する人たちは、生産者、調教師だけではない。屠畜、競馬記者、引退先の牧場経営者、馬主、競馬ファン・・・。生産者はもちろん、ファンでも薄々気づいていた。競走馬の多くが天寿を全うできないことに。その多くが肉に変わることに。しかし屠畜を語ること自体が“競馬のタブー”とされてきた。それでも、人間のエゴで命を与えられた生き物が、人間のエゴにて左右されていいのか?新たな活躍の場を作って天寿を全うできないか?その悩みに苦しみながらも馬のために向き合い続けている人たちがそこには映されていた。
そこで個人的に驚くことは、
生産者ほど、かなり悩んでいる。
昨今、動物愛護の観点が日本でも強くなり、「競馬は馬を虐待している」「人間の勝手で馬が左右されることがかわいそう」などと意見があるのは知っている。「競馬を廃止せよ」という極論まで見かける。しかし、サラブレッドは歴史を見てみると“競馬に勝つために品種改良をされ続けた種族”である。つまり、競馬が活躍の場なのだ。それが断たれる=その種の絶滅を意味する。また3兆円近い売り上げを誇る(馬券以外で動くカネも含めればもっと)の産業で働く人たちの生活をもなくなることになる。だからこそ、競走馬に対し少しでも長くこの世で生を受けれるように奮闘している。また引退後のセカンドキャリアを考える人たちは、命あるモノを大切にしたいがために、身を削って世話する姿が描かれていた。時には自分が思いもしなかった方法で馬を助けようと工夫し経営が火の車でも支える姿があった。それだけに、
「どこかで割り切らなければいけない」という言葉が重かった。
非常に印象的な言葉です。彼らは真剣に向き合い、悩み、これが自分の力で出来る最善だと思える方法を見つけ出し、割り切っている。そんな人たちに、競走馬の行く末を論じるにはこちらもしっかり知らなければいけない。軽率なことは言えない、そのような重さを「割り切る」という言葉から思いました。
タブーとされてきた競走馬の行く末。しかし、実は競馬に携わる人たちの多くが悩み気にしていたこの問題。これには競馬ファンは知っておくべきであると思う。そして時にはファン同士で議論を盛り上げるべきだとも思う。自分としては、JRA(日本中央競馬会)や国がもっと動いてほしいと思う。しかし彼らの腰は重い。だが彼らはファンの声が大きくなると無視できない。過去にあった「ハマノパレード事件」や「ハードバージの最期」ではファンの声が上がり社会的に問題提議され、彼らの腰を上げさせた。競走馬の今後を救う可能性はイチ競馬ファンにもかかっている。だからこそ、この映画は競馬ファンにこそ観てほしいドキュメンタリー映画です。