劇場公開日 2019年12月13日

2人のローマ教皇 : 映画評論・批評

2019年12月17日更新

2019年12月13日よりロードショー

忖度ゼロで黒歴史にも言及。“変化は希望”との啓示が輝く刺激的な対話劇

高齢の宗教者同士の対話なんて退屈なのでは――。そんな先入観を鮮やかに覆す、知的興奮と批評性とユーモアに満ちた滅法面白い会話劇であり人間ドラマだ。12億人の信徒を抱えるキリスト教最大会派、カトリック教会の頂点に立つローマ教皇の重圧や暮らしぶりをうかがい知ることができるし、現教皇の伝記パートでは人となりに触れ親近感を覚える。監督を務めたのが「シティ・オブ・ゴッド」や「ナイロビの蜂」のフェルナンド・メイレレスだから、凡庸な宗教映画になるはずがないし、むしろ教会や教皇に忖度しない姿勢こそが妙味にもなっている。

本来は終身職である教皇を自らの意思で辞任したベネディクト16世(700年ぶりの出来事だとか)。史上初めて南北アメリカから新教皇に選出されたフランシスコ(本名はホルヘ・マリオ・ベルゴリオ)。異例づくしだった2013年の教皇交代の1年前、2人は会談の場を持ったが、内容は公開されてない。この知られざる対話を脚本化すべく起用されたのが、「博士と彼女のセオリー」と「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」で、理論物理学や政治の世界の話をわかりやすくドラマタイズしたアンソニー・マッカーテン。彼は今回、ベネディクトとフランシスコが各自の著書やインタビューで語った言葉を抜き出して再構築し、教義や信仰や組織運営についての論議を“創造”して、「人はどう生きるべきか」「自らの罪とどう向き合い、またいかに赦されるのか」といった普遍的なテーマを浮かび上がらせる。

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フランシスコ=ホルヘ役には、顔の激似ぶりがかねてから話題になっていたジョナサン・プライス。ベネディクト役のアンソニー・ホプキンスとともに、苦悩や悔恨、葛藤や決意といったさまざまな感情を円熟の演技で醸し出す。ホルヘの回想では、アルゼンチンのイエズス会管区長時代に軍事独裁政権に加担し、結果的に仲間の神父や信者たちを裏切ることになった過去に言及。またベネディクトは、神父による児童への性的虐待などの問題に善処しなかったことを告白する。

タブー視される過去に切り込むスタンスの一方で、随所にちりばめられたユーモラスなやり取りと、ポップスからジャズまで多彩なBGMの効果もあり、重いテーマに相反して鑑賞体験は軽やかで爽やか。権力の座についても庶民感覚を失わず、旧弊の改革を志向するフランシスコは指導者の理想像であり、未来への希望でもある。信教がどうあれ、こんな風に生きる人が増えたらこの世界もずいぶん良くなるのでは……と思わせてくれる、ポジティブな力にあふれた快作だ。

高森郁哉

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