風の電話

劇場公開日:

風の電話

解説

「ライオンは今夜死ぬ」の諏訪敦彦監督が、震災で家族を失った少女の再生の旅を描いた人間ドラマ。今は亡き大切な人と思いを繋ぐ電話として、岩手県大槌町に実在する「風の電話」をモチーフに映画化した。8年前の東日本大震災で家族を失い、広島の叔母のもとで暮らす17歳の少女ハル。ある日、叔母が突然倒れ、自分の周りの人が誰もいなくなってしまう不安にかられた彼女は、震災以来一度も帰っていなかった故郷・大槌町へ向かう。豪雨被害にあった広島で年老いた母と暮らす公平や、かつての福島の景色に思いを馳せる今田ら様々な人たちとの交流を通し、ハルは次第に光を取り戻していく。道中で出会った福島の元原発作業員・森尾とともに旅を続けるハルは、「もう一度、話したい」という強い思いに導かれ、故郷にある「風の電話」にたどり着く。主人公ハルを「少女邂逅」のモトーラ世理奈、森尾を西島秀俊が演じる。第70回ベルリン国際映画祭ジェネレーション14プラス部門に出品され、スペシャル・メンション(国際審査員特別賞)を贈られた。

2020年製作/139分/G/日本
配給:ブロードメディア・スタジオ
劇場公開日:2020年1月24日

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(C)2020 映画「風の電話」製作委員会

映画レビュー

4.5モトーラ世理奈は早くも邦画界でかけがえのない存在に

2020年1月24日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

悲しい

知的

NHKドラマ「透明のゆりかご」(現在4Kで再放送中)で初めてモトーラ世理奈を知り、その圧倒的な個性に驚かされた。そして昨年から今年にかけて「少女邂逅」「おいしい家族」そして本作と、主役や重要な役で起用され、異なる物語の中にもある種共通した空気感を醸し出している。

東日本大震災で家族を失った17歳のハルが、多くの人に助けられながら故郷を目指す旅を描く。道中で出会う人々の経験や思いや優しさに触れ、彼女は喪失を自覚し、再生のきっかけをつかんでいく。演技巧者の共演陣を相手に、モトーラ世理奈は常に自然体に見える。泰然ではなく、はかなげで、頼りなさげで、自らを持て余すかのような。そんな脆弱さを演技という鎧で隠すのではなく、そのままさらけ出す逆説的な“強さ”がある。それを引き出した諏訪敦彦監督の演出も大きい。

どうかこの魅力を失わないまま、邦画界で順調にキャリアを積み上げてほしい、と心から願う。

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高森 郁哉

2.5水のような映画

2024年5月2日
PCから投稿
鑑賞方法:その他

単純

とかく此の手の映画はあまりメジャーではない俳優さんが出演しているイメージですが 「風の電話」に限っては 豪華メンバーです。
映画の題材はストレートな自己再生の旅。観る人それぞれが それなりに共感する。
しかしながら この映画の狙いは違う!そんなテイストを取り入れながら 序盤戦からかなりの力業で引き込んでいく。
ドキュメンタリーなのか巧妙な演出なのか かったるいストーリーなのか 物凄いオチがあるのか...どこにも針を振らずとも 取り合えずみせられてしまう。
何処かで見たようなシーンの中に淡々としているが故 役者は深いところでの演技に全力投球しているように感じました。
観てしまう...なんだか観てしまう。が続く映画。
残念なのは終盤戦からラスト。リアリティーの暴走。真のリアルを演者に求めてはいけない。
どんな映画でもオチだけはしっかり考えないとエンターテイメントとは言えない。

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HOSHI

5.0大槌の、風の電話。 とても悲しい映画でした。 2011/03/11...

2024年1月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

大槌の、風の電話。
とても悲しい映画でした。
2011/03/11はまだ終わっていません。

という間にも、能登半島2024/01/01のような震災も。
持ちつ持たれつ、できることを都度考えて、努めねばです。

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woodstock

4.5痛み、悲しみの普遍性

2023年9月28日
iPhoneアプリから投稿

特別なものは何もない。会話は平々凡々とした感情の交換に終始しているし、西日本から東京を目指すというロードムービー的動線に迂回路はほとんどない。どこにでもいる人々、どこにでもある映画。しかし本作はそうした「どこにでもあること」、すなわち交換可能性を突き詰めた果てに普遍性を打ち立てようとしている。

劇中ではしきりにものごとの交換可能性が強調される。たとえば冒頭、主人公のハルは土砂災害に見舞われた山奥の村落に迷い込む。滅茶苦茶に破壊された家屋と、途方に暮れる少女。その光景は3.11の惨状を強く惹起させる。あるいはクルド人家族との出会い。帰ろうにも帰る故郷がないという理由から日本での窮屈な生活に耐え続ける彼らの姿は、家族と故郷を失い遠い街で細々と暮らすハルの憂鬱と強く共鳴する。あるいはハルを見て死んだ娘のことを思い出し、泣き崩れる母親。

時空を超越して個々の体験が重なり合う。「震災」「原発」といった固有名詞が有する良くも悪くも強烈なイメージは徐々に相対化されていき、そこに通奏低音として流れている痛みや悲しみといった不可視の感情が前景化してくる。2時間20分という長尺、全編にわたる長回しの多さは、その繊細な変化の過程を捉えるための必然性であるように感じた。

津波に飲まれた両親と弟に「風の電話」から電話をかけるハル。彼女の言葉は素朴で拙い。悲しい、なんで、待ってて。しかしそこには普遍性がある。彼女の痛みや悲しみは、誰もが抱くことのできるものだ。だからこそ彼女の言葉の素朴さ、拙さがかえって沁みる。

痛みや悲しみは特権化されやすいものであるように思う。当事者が「お前にはわからない」と言い切ってしまえば、あるいは非当事者が「俺にはわかるはずがない」と諦めてしまえば、両者の間には埋めることのできない断絶が生じてしまう。しかし本当に「わからない」のだろうか?場所や時間といった外部構造を一つずつ丁寧に外していけば、そこには案外似たような痛みや苦しみが横たわっているのではないか。

東日本大震災はあまりにも強烈なできごとだった。しかし誤解を恐れずに言えば、その強烈さゆえに「当事者だけが語りうるもの」として不健全にタブー化されている節がある。本作はその凝固した「震災」観を長い時間をかけて徐々に融解させ、そこにある普遍的な人間感情を掬い上げることに成功している。説教臭い感じがまったくないのが本当にすごい。

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因果