風の電話

劇場公開日:2020年1月24日

解説・あらすじ

「ライオンは今夜死ぬ」の諏訪敦彦監督が、震災で家族を失った少女の再生の旅を描いた人間ドラマ。今は亡き大切な人と思いを繋ぐ電話として、岩手県大槌町に実在する「風の電話」をモチーフに映画化した。8年前の東日本大震災で家族を失い、広島の叔母のもとで暮らす17歳の少女ハル。ある日、叔母が突然倒れ、自分の周りの人が誰もいなくなってしまう不安にかられた彼女は、震災以来一度も帰っていなかった故郷・大槌町へ向かう。豪雨被害にあった広島で年老いた母と暮らす公平や、かつての福島の景色に思いを馳せる今田ら様々な人たちとの交流を通し、ハルは次第に光を取り戻していく。道中で出会った福島の元原発作業員・森尾とともに旅を続けるハルは、「もう一度、話したい」という強い思いに導かれ、故郷にある「風の電話」にたどり着く。主人公ハルを「少女邂逅」のモトーラ世理奈、森尾を西島秀俊が演じる。第70回ベルリン国際映画祭ジェネレーション14プラス部門に出品され、スペシャル・メンション(国際審査員特別賞)を贈られた。

2020年製作/139分/G/日本
配給:ブロードメディア・スタジオ
劇場公開日:2020年1月24日

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(C)2020 映画「風の電話」製作委員会

映画レビュー

4.5 モトーラ世理奈は早くも邦画界でかけがえのない存在に

2020年1月24日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

悲しい

知的

NHKドラマ「透明のゆりかご」(現在4Kで再放送中)で初めてモトーラ世理奈を知り、その圧倒的な個性に驚かされた。そして昨年から今年にかけて「少女邂逅」「おいしい家族」そして本作と、主役や重要な役で起用され、異なる物語の中にもある種共通した空気感を醸し出している。

東日本大震災で家族を失った17歳のハルが、多くの人に助けられながら故郷を目指す旅を描く。道中で出会う人々の経験や思いや優しさに触れ、彼女は喪失を自覚し、再生のきっかけをつかんでいく。演技巧者の共演陣を相手に、モトーラ世理奈は常に自然体に見える。泰然ではなく、はかなげで、頼りなさげで、自らを持て余すかのような。そんな脆弱さを演技という鎧で隠すのではなく、そのままさらけ出す逆説的な“強さ”がある。それを引き出した諏訪敦彦監督の演出も大きい。

どうかこの魅力を失わないまま、邦画界で順調にキャリアを積み上げてほしい、と心から願う。

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高森郁哉

3.0 喪の作業(グリーフ・ワーク)の「終端」としての「風の電話」

2025年12月8日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

健康にとって「孤独はタバコよりも有害」という言い回しがありますけれども。
悲哀(グリーフ)からの立ち直りにも、孤独を避けて、人と人とのか関わりを築くことが、やはり不可欠なのだろうと、評論子は思いました。
本作を観終わって。

ちなみに、日蓮宗の法話に、こんなものがあるようです。

とある女性キサーゴータミがお釈迦さまのもとへ来て、亡くした幼い子どもを生き返らせてくれという。
お釈迦さまは、ケシの実をひと粒、一度も死人を出したことのない家からもらってくれば、その子を生き返らせるという。
早速、キサーゴータミは町へ行き、ケシの実を求めて家々を尋ね歩く。
ケシの実はどこの家にもあるのだが、一度も死人を出したことのない家は一軒もない。
そのことを知って、死者を出すこと=悲しみを経験した者は自分だけではないことに、ようやく彼女はは気づいた。
(日蓮宗尾張伝道センターのウェブページで紹介されている法話を要約)

そして、そういう他者との関わり(と、その関わりから得られる新たな気づき)が、喪失からの立ち直りの作業=喪の作業(グリーフ・ワーク)ということなのだろうとも、思います。

(上掲の法話で、キサースゴータミにとって、ケシの実を求めて町の家々を訪ねて歩いたことは、実は、お釈迦さまが彼女に与えた立ち直りのための喪の作業(グリーフ・ワーク)だったのではないかと、評論子は思います)

ちょうど、マウスピースからトランペットに吹き込まれた息は、最初は単なる共鳴音として抜差管の壁面に何度も反響しながらその中を進み、最後にはベル(開口部)から、初めて「音色」として、空間(この世の中)に放出されるように、他者との人間関係に何度も反響し、あるいは反響されたりしているうちに、最後の最後には、気づきを得た「新たな自分」として、喪の作業(グリーフ・ワーク)から開放される―。

これを本作になぞらえて言えば、そのトランペットのベル(開口部=放出口)に当たるものが、言ってみれば、本作の「風の電話」なのだろうと思います。
(風の電話のようなものだけを作ってみても、その前段に当たる抜差管の中での反響のプロセスが欠落していれば、グリーフ・ワーク(喪の作業)としては、体(てい)をなさないのだろうとも思います)

不幸な震災で、父を母を、そしてたった二人の兄弟だった弟まで失ってしまった春香でしたけれども。

やはり、同じような痛手(悲哀、喪失)を経験している公平や森尾との出会いを通じて、その痛手から立ち直っていく姿が、心には何とも温かい一本でもありました。

そして、じっくりとそういうプロセスを経た最後の最後に、思いの丈(心情)を素直に吐露(とろ)することで、人は悲哀や喪失から立ち直ることができるのでしょう。

その意味で、本作の「風の電話」は、そういう喪の作業(グリーフ・ワーク)の終端としての意味づけがあったのだろうとも思います。

評論子には、充分な佳作だったと評したいとも思う一本でした。

(追記)
上記のとおり、本作は、春香といろいろな境遇の人々との出会いがエッセンスになっている訳ですけれども。

しかし、最初の妊婦さんとの出会いは、春香にとっては、小さくはなかったのではないかと、評論子は思います。

(被災して)何らかの傷を心に受けている人々との出会いが、春香にとっては喪の作業(グリーフ・ワーク)」としては太宗を占めることは疑いがないのですけれども。

しかし、いちばん最初の出会いでもあり、(被災して)何らかの傷を心に受けている人々とは全く異質の立場であって…。

促されて彼女のお腹に触れた春香は、「命の胎動」をリアルに感じ取っだろうことは、疑いのないことでしょう。

そのことは、後の春香にとっても、決して小さな体験ではなかったことと思いました。

否、最初に妊婦さんとの出会いを配置した本作は、構成的には優れていたとも、評論子は思いました。

(追記)
それにしても、本作の登場人物は、食べること、食べること―本当によく食べていました。

考えてみれば、食べることは、とりも直さす、そのままイコールで「生存に必要な栄養素を経口摂取すること」。
これ、すなわち「生きること」「生き延びること」を具象する所為と、評論子は受け取りました。

やはり亡くなった者を思い出し、偲ぶことができるのは、生き残った者にしかできないこと。
(誰のものであったかは失念しましたけれども。本作中にも、そんなようなセリフがあったことと記憶します)

そして。生きている以上は、ちゃんと食べなければならないとも、改めて思い直しました。

その点でも、評論子には、印象に残る一本でした。

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talkie

3.0 それぞれで感じてみて

2025年4月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

とにかく、モトーラ世理奈が良かった。微妙に大槌アクセントっぽいのも良かった。周りをイラつかせる演技も良かった。実際、大槌辺りだとそういう子はちょいちょいいる。仲良しとはべったりで快活なんだけど知らん人が来るととたんにおとなしくなっちゃう遠慮と人見知りが極度に合体したやつ。
大槌の風景がそんなになくて残念。
とにかく、役者陣が素晴らしいので面白かったが、方言がほぼない状態にはちょっと不思議さを感じた。西田敏行が方言を使っているのが唯一的な感じだけど、中通りと浜通りでは違うんだよなあ。。。

なお、ストーリーが至るところ強引かつ突然の連続で観るものを置き去りにするのはひっかかる。

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zem_movie_review

2.5 水のような映画

2024年5月2日
PCから投稿
鑑賞方法:その他

単純

とかく此の手の映画はあまりメジャーではない俳優さんが出演しているイメージですが 「風の電話」に限っては 豪華メンバーです。
映画の題材はストレートな自己再生の旅。観る人それぞれが それなりに共感する。
しかしながら この映画の狙いは違う!そんなテイストを取り入れながら 序盤戦からかなりの力業で引き込んでいく。
ドキュメンタリーなのか巧妙な演出なのか かったるいストーリーなのか 物凄いオチがあるのか...どこにも針を振らずとも 取り合えずみせられてしまう。
何処かで見たようなシーンの中に淡々としているが故 役者は深いところでの演技に全力投球しているように感じました。
観てしまう...なんだか観てしまう。が続く映画。
残念なのは終盤戦からラスト。リアリティーの暴走。真のリアルを演者に求めてはいけない。
どんな映画でもオチだけはしっかり考えないとエンターテイメントとは言えない。

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HOSHI