劇場公開日 2019年5月24日

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ベン・イズ・バック : 映画評論・批評

2019年5月14日更新

2019年5月24日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

ジュリア・ロバーツが熟練の演技で魅せる、盲目的で躍動的な母親の執念の物語

薬物依存の我が子をどう奪還するか? 直近の「ビューティフル・ボーイ」でも取り上げられたテーマだが、本作「ベン・イズ・バック」では少し視点が違う。薬物によって破綻しかけた親子関係を描きながら、過去に息子と関わったことで傷ついた人々の存在や、一旦関係を持てば限りなくつけ込み、泥沼の底へ引きずり込もうとする組織の恐ろしさ、執拗さが、薬物依存を取り巻く新たな情報として与えられるからだ。舞台は大都会の犯罪地帯ではない。一見平和に見える地域社会に忍び寄る、麻薬汚染の底知れぬ闇。それは決して他人事ではないだろう。

同時に、これはサスペンスドラマでもある。ある日突然、更正施設から戻ってきた息子、ベンを迎え入れる家族の戸惑い。ベンが参加するグループセラピーで出会った人々の微妙な反応。家に侵入し、飼い犬を奪い去った組織が、犬と引き換えにベンに求めて来る条件。等々が、物語の進行と共にタイミングよく提示され、バラバラだったジグソーパズルが徐々に完成へと向かう。そして出来上がるのは、誰も救えない息子を自分だけは救えると信じて、夜を徹して車のハンドルを握る盲目的で躍動的な母親の執念の物語だ。

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母親のホリーを演じるジュリア・ロバーツが、その贅肉を削ぎ落とした顔に、希望と絶望が交互に表れる様を浮かび上がらせて、観る側の目を終始釘付けにする。理屈や概念ではなく、本能として息子を救いだそうとする母親の切なる願いが、いつしか観客をも取り込み、気が付くと我々は傍観者ではいられなくなるのだ。これは、紛れもなく演技力に裏打ちされたベテラン女優の仕事だろう。

ベン・イズ・バック。果たして、ベンは母親の手元に返ってくるのか? タイトルにも使われているこのフレーズの本当の意味が分かる時、このパズルの奥深さに胸を衝かれる。

清藤秀人

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