ブルーアワーにぶっ飛ばす 劇場公開日:2019年10月11日
解説 若手映像作家の発掘を目的とした「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2016」で審査員特別賞を受賞した企画の映画化で、夏帆とシム・ウンギョンという日韓の実力派女優が共演したオリジナルストーリー。30歳でCMディレクターをしている砂田は、東京で日々仕事に明け暮れ、理解ある優しい夫もいて、充実した人生を送っているように見える。しかし最近は、口を開けば毒づいてばかりで、すっかり心が荒んでしまっていた。そんなある日、病気の祖母を見舞うため、親友の清浦とともに大嫌いな地元の茨城に帰ることになった砂田は、いつものように清浦と他愛ない会話をしながら茨城に向かうが、実は今回の帰省に清浦がついてくるのには、ある理由があった。
2019年製作/92分/G/日本 配給:ビターズ・エンド
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2020年4月10日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
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日の出前と日の入り後、空が濃い“青”に染まるひと時を「ブルーアワー」と言うようだ。新宿辺りで呑み明かし、もやっとした酒の臭いを鼻腔に秘めて、店外に出た時に見かけたことがあったはず。体調はだるっとしているが、主人公・砂田の幼少期のように、何やらテンションがあがったのを覚えている。「こんな美しい時間帯に起きていて(自分は)偉い!」と思ったほど。そして、家に帰る、寝る、昼過ぎに起きる、後悔する、これの繰り返し(←人生における無駄な時間のひとつ)。 理解のある夫を持つCMディレクター・砂田が、病気の祖母を見舞うため、親友の清浦とともに大嫌いな地元の茨城に帰る、というのが本筋のストーリー。夏帆の毒っ気、シム・ウンギョンの茶目っ気が絡み合う“他愛のない会話”に笑む一方で、地元・茨城で待ち受ける洗礼には“ビビる”という表現が相応しいのかもしれない。実家と離れた場所で暮らしている人には、かなり刺さる表現だらけ(特に冷蔵庫の中身には、参った)。身内だからこそ「○○した方がいい(しない方がいい)」と安易に告げられない、哀切に満ちている。一度実家を出てしまえば、良い意味でも、悪い意味でも、時の流れは異なっていくのだ。 「ブルーアワー」は、どっちつかず・曖昧な時間でもある。本作のユニークな点は、それを象徴するような場面に彩られているところ。充実しているようで“半端者”砂田の寝起きが何度も何度も捉えられ、グルーチョ・マルクスもしくはウッディ・アレンかよと言いたくもなる捻くれワード、そして“立ち位置を問いかける”言葉。彼女の帰省には“目が覚める”ような出来事は存在しない。そこにあるのは、30歳の自分が直面する“今の田舎”。だからこそ、清浦は理想的な同行者だった。母の飯は「美味!」、スナックは「オモシロ!」、飼育している牛は「やべぇ!」、基本はテンション爆上げ&理論は持たず……砂田は、改めて“無敵の清浦”を見つけることができたのだ。 余談:スナック嬢役の伊藤沙莉が「モーニング娘。」のある楽曲を熱唱しているんですが、歌い終わりの表情に注目してほしいです。荷下ろしを終えたときのような、地引網を巻き取り終えたような、そんな「仕事を完遂してやった」という凛々しい“顔”は、流石としか言いようがありません。
2019年10月29日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会
今年に入って「新聞記者」そして本作と、立て続けに主役・準主役で邦画に出演したシム・ウンギョン。子役時代からの蓄積がある演技はもちろん達者だし、この2年ほどで磨いたという日本語の上達も目覚ましく、インタビューも通訳なしでこなすなど大したものだと心から思う。ただ2作とも、彼女のキャスティングが正解だったのかと疑問を感じるのも正直なところ。「新聞記者」では言葉を武器に鋭く取材対象に切り込む台詞回しが欲しかったし、今回の役についてもラストシーンの後に、「清浦はなぜ日本語ネイティブでないのか?」と首をかしげてしまう。製作陣も所属事務所も、話題性優先で必ずしも適していない役を割り当てていないか。邦画で起用するにしても、もっと合う役がきっとあるはず。 脚本も書いた箱田優子監督は粗削りだが才能を感じさせる。今回のように“仕掛け”のある話もいいが、ストレートなドラマにも期待したい。
2019年10月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
人生や家族について振り返る機会は、いつも予告なしで唐突に訪れる。それは年齢的なタイミングだったり、ふとした記憶に残る出来事や、あるいは友人からの一言がスイッチとなることもあるだろう。ともかくそこから旅が始まる。自分がいちばん人に見られたくない足元をたどる旅が。そうやっていつしか、しっかりと蓋を閉じていたはずの記憶や想いの貯蔵庫からいろんなものがムクムクと顔を出し始める。 サバサバした演技で気持ち良く序盤を突き進む夏帆に魅了されていたら、途中から唐突に乗り込んでくるシム・ウンギョンの存在感にさらにガツンとやられた。この人の飄々とした演技、たどたどしい日本語の台詞回し、ちょっとした表情。どれも尋常ではないくらいに面白い。これほど一人の俳優に魅了されたのも久々だ。彼女が回し続けるカメラ映像が意味を持つ流れも、物語としてはありがちではあるが、この組み合わせだからか、思わずホロっときてしまった。
2019年10月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
何者にもなれない自分に気がつくのは何歳のことだろうか。30代とはそろそろ自分の限界が見えてくる年頃。そんな30代を迎えた女性の感情のリアルを見事に描いている作品だ。帰郷と自分探しという題材が高畑勲監督の「おもひでぽろぽろ」を連想させるが、都会に疲れたから田舎で本当の自分が見つかるという単純な話でもない。都会にいてもどん詰まり、田舎に帰ってきてもどん詰まり、それでも人生は続く。続いてしまう。ダラダラとした帰省にうんざりし、人生こんなはずじゃなかったと感じていても、祖母の何気ない一言で少し救われる。そんな小さな一瞬。ブルーアワーとは、日の出前の空の青い時間帯のこと。彼女の人生はまだそんな日の出前にすぎない、人生はこれからだと、今を生きる人たちの背中をそっと押してくれる作品だ。夏帆のリアルな存在感が素晴らしい。シム・ウンギョンいい味を出している。これからも日本映画に出演し続けてほしい。