女王陛下のお気に入り
劇場公開日:2019年2月15日
解説
「ロブスター」「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」で注目を集めるギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督が、18世紀イングランドの王室を舞台に、女王と彼女に仕える2人の女性の入り乱れる愛憎を描いた人間ドラマ。2018年・第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で審査員グランプリを受賞し、女王アンを演じたオリビア・コールマンも女優賞を受賞。第91回アカデミー賞でも作品賞を含む9部門10ノミネートを受け、コールマンが主演女優賞を受賞している。18世紀初頭、フランスとの戦争下にあるイングランド。女王アンの幼なじみレディ・サラは、病身で気まぐれな女王を動かし絶大な権力を握っていた。そんな中、没落した貴族の娘でサラの従妹にあたるアビゲイルが宮廷に現れ、サラの働きかけもあり、アン女王の侍女として仕えることになる。サラはアビゲイルを支配下に置くが、一方でアビゲイルは再び貴族の地位に返り咲く機会を狙っていた。戦争をめぐる政治的駆け引きが繰り広げられる中、女王のお気に入りになることでチャンスをつかもうとするアビゲイルだったが……。出演はコールマンのほか、「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーン、「ナイロビの蜂」のレイチェル・ワイズ、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のニコラス・ホルトほか。
2018年製作/120分/PG12/アイルランド・イギリス・アメリカ合作
原題:The Favourite
配給:20世紀フォックス映画
スタッフ・キャスト
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ヨルゴス・ランティモスという監督は、一貫して人間は愚かで自己愛が強く下卑た生き物たと捉えているところがある。もちろん人間は愚かなことをしでかす一方で、思わぬ英雄的な行為に身を投じることもあるのだが、ランティモスはそんなことは素知らぬ体で、本作でも身勝手な欲得三昧な女たちの姿を時代物の宮廷劇というジャンルに当てはめる。
なので後味がいい物語にはなりようがなく、なりふり構わぬ女たちの権力闘争に、呆れたり笑ったり戦慄していればいいのだろう。魚眼レンズの長回しやとにかく読みづらいテロップのデザインなど、ちょっと才気が走り過ぎてはいないかと思うところもあるが、実際才気がほとばしっているのだから、存分に好き放題にやってくれ!という気持ちにもなる。
ただしレイチェル・ワイズが演じたサラにだけは、善人ではないが誇りと信念が宿っている。このランティモスらしからぬ人物像は、次なる可能性への布石なのかどうか。このヘンテコな才人からまだまだ目が離せそうにない。
2019年2月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
アン女王は、スペイン継承戦争や国内政治に頭を悩ませ、私生活では子供たちが幼くして亡くなる不幸も経験した。このような精神状態の中、頼りになる側近との絆が深まるのは当然のことだったろう。
コールマン演じる女王はコロコロと表情が変わる。ある時は高慢なオバちゃんのようであり、またある時には甘えん坊の少女のようでもあり、かと思えば突然かんしゃくを起こしたり、不意に女王としての威厳を振るい出したりもする。これら一貫性のない表情をすべてひとつのキャラクターとして成立させ、そこにユーモアすら醸し出すコールマンの怪演たるやまさに絶品だ。
この危うげに回転するコマの軸が揺るぎないからこそレイチェル&エマの個性も際立ち、宮廷内の三角関係はスリリングかつ破天荒で、予測不能の極みとなった。3人の女性たちの誰に寄り添うかによって、万華鏡のように色彩が変わる。鑑賞するごとにフレッシュな感覚を味わえる逸品でもある。
2019年2月23日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
ヘンテコで不気味な異色作を撮り続けているヨルゴス・ランティモス。「ロブスター」と「聖なる鹿殺し」は非現実的な設定や超自然的な出来事を含む話だったので、新作が英宮廷を舞台にした歴史劇と聞いて意外だったが、蓋を開けてみればやっぱり一癖も二癖もある怪作。閉環境での力関係と愛憎は「籠の中の乙女」に共通する要素でもある。
三女優の熱演の激突は観客にまで飛び火しそうな激しさだ。英女優オリビア・コールマンも、これを機にハリウッドでの仕事が増えそう。
太陽光やろうそくの火でほぼ全編を撮影した映像は、キューブリックの「バリー・リンドン」のように大昔の宮廷にタイムスリップしてのぞき見しているような気分にさせる。
そしてあの、低い位置から仰ぐアングルでの広角レンズの映像!ウサギなどの小動物が尊大で愚かな人間を冷ややかに眺めているような、なんとも皮肉の効いたショットにほくそ笑んでしまった。
2019年2月20日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
権力はあるものの、孤独と欲求不満の極みにいる英国女王を挟んで、そんな女王を影で操る幼なじみと、没落貴族の娘が、愛情と権力を奪い合う。欲望を剥き出しにした女たちの愛憎劇を、側で見守る男たちはみんな、まるで去勢されたかのようだ。ヨルゴス・ランティモス監督はえげつなく、時に笑える宮廷内ドラマを、特にローアングルから嘗めるようにとらえて、観客を押しつぶすような圧迫感を演出している。誰も決して傍観者にはしないという意気込みが、特異なカメラワークからはひしひしと伝わってくるのだ。それは、3人の女優たちの演技にも言えること。これほどまでに人間の醜さと、それ故に漂うおかしみを体現したアンサンブルはないと思わせるほどに。特に、女王を演じるオリビア・コールマンの怒りと嘆きが交互に現れる感情演技は一見に値する。フェミニズムを極端な形でテーマに据えた意欲作。大仰なイメージとは裏腹に、けっこう笑える艶笑劇なので、気楽にシートに身を埋めて欲しい。