凪待ちのレビュー・感想・評価
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主人公の中にある嵐
物語の最初から、主人公は既に真っ当な人生のレールを外れ、ろくに仕事もせずにギャンブルに夢中になり、暴力衝動を抑えることができない、大事なものがかなりたくさん欠落した男として観客の前に登場する。 その理由として、これまでの人生や何故ギャンブル依存症になったのかなどという説明があるわけではない。初めて見た時は彼の行動が理解しきれないところもあり、なぜそんなことをしてしまうのかと半ば呆れるような気持ちで見た部分もあった。でも見終わった後ふと思った。彼だけでなく観客である我々も、いろいろな理由によって、もしくは何の理由もなく、もうすでにあらかじめさまざまなことが失われている存在なのだと。その理由を自ら説明、あるいは釈明、弁明しようと思えばできるかもしれない。しかしそうしたからといって失われたものが戻ってくることはない。そのような救いのない共通点を通して観客がこの主人公に心を寄せることができる、この物語の開始地点はそのような場所に設定されているのかもしれない。
主人公はつねに現実から逃げ続けている。本当は心が優しい面もあり、やる気になれば仕事ができないわけではないという部分もあるのだが、彼はいつもどこか上の空で、恋人や自分を気遣ってくれる人の思いと向き合うことを拒否する。自分の中にある嵐につねに翻弄され、他人に気持ちを振り向ける余裕がないようにも見える(同棲している恋人にすらも)。自分を表現することが不得手で人間関係がうまく築けず、感情のコントロールも上手くできない彼の人生は行き詰まってしまう。見ていて思わず、何故彼はこんなふうにしか生きられないのだろうと考えてしまう。これはすべて彼のせいなのだろうか。もちろん、20歳をとっくに過ぎた彼が自分の行いを誰のせいにすることもできない。でも、どうして彼がこんなふうにしか生きられないのか、どうしてこんなに歪んでしまわなければならないのか、いったい彼に何があったのだろうと思わず考えさせられる。きっといまの考え方ではすべてが「自己責任」とされるのだろう。でも、個人にすべての原因を帰してしまうことが本当に正当なのだろうか?と思わされてしまう。
自らの欠落を認識することは苦しい。でも直視せずに生きることも苦しい。失われたもの、癒えることのない傷、忘れることのできない苦しみ。自らの内にあるそれらを認めることからしか前に進むことができない地点があることをこの映画は示唆している。私はあのラストシーンから、彼=我々の苦しみが決して個人的なものではなく普遍的なものであるという救いのようなものを感じた。それと同時に、震災で大事な人やものを亡くした多くの人の苦しみも決して他人事ではなく、我々の苦しみとどこかで響きあうものなのだということも。
「誰が殺したのか?何のために殺したのか?」というサスペンス風のキャッチフレーズは物語とは一見そぐわないようにも思える。しかし考えてみれば、私たちの現実はそう問いたくなるような不条理な死に満ちている。震災での死者は膨大なため、ついつい「〇万人」という数字で処理してしまいそうになる。でも彼らは一人一人の人間であり、その死は決して数字だけで処理されるべきものではない。遺された者たちが、答えは決して返って来ないと分かっていながら「誰が?何のために?」と問わざるを得ないような、私たちの現実に起こる死と同じ死なのだ。
決して明るく楽しい映画ではない。でも見ている人間の心の暗く荒れ狂っている場所に救いの様な何かをもたらす作品だと思う。安易な救済の物語ではない。見ている方は、全編通じて主人公の激しい感情に翻弄され続ける。しかし見終わった後の心はどこか静かだ。彼の苦しみも私の苦しみもみんなの苦しみも、あの海に流れて少しでも消えればいい。そんなふうに願いたくなる。
寄り添って生きること
ギャンブル依存や、DVなど様々な問題が背景として語られるが、物語を観終わって感じたのは、人は寄り添って生き、困難を乗り越えようとするということ。
一見、再生のストーリーのようにも思えるが、自分が一人になってしまった時、或いは、友人・知人が一人になってしまった時に抱えてしまう問題が対照的に語られることも、そんな風に思わせる。
そして、口幅ったい言い方かもしれないが、それが、被災地で復興を目標に、或いは、日々をなんとか生き抜こうとしている人たちに対するオマージュなのではないかと考えさせられる。
津波は何もかも呑み込んだが、こうした人たちの気持ちまでは呑み込むことは出来なかった。
明るさを抑えた映像表現だが、なにかしっかりした足取りを感じさせるように思った。
2019-63
徹底してクズだった。
ほんとに「らいおんハート」歌ってた香取くん?
そういえば香取くんの演技を、今さらながらしっかり見たことがなかったのですが、
そこにいたのは間違いなく役者・香取慎吾でした。
クズ中のクズというレビューを読んでいたので、序盤は正直そこまででは?と思っていたら...。
中盤から、怒涛にクズだった。
さすがにそれは😟と思うことを、悉くやっていく。
自分でも止められないギャンブル依存症、心に広がる闇、その苦しさを全身で表現していた。
観てるこっちも、しかめっ面と困り顔を繰り返すので、眉間とおでこが疲れました(笑)
おじいちゃんがいたたまれんもん。
リリーさん、吉澤さんもさることながら、音尾さんのJenniferですら訛る演技はさすがと思いました。
キャッチコピーがサスペンスを匂わせていますが、実際はクズ男のドラマです。
そこを期待して観るとちょっと消化不良。
明かされない部分もあります。
真実はいつも一つ!で育ってきたので、気になっちゃう性分ですが、
役者陣の演技合戦が濃厚だったので、『三番目の殺人』のように、答えが出ない映画だったけど受けるものはたくさんありました。
新しい海
予想以上でした
これから香取慎吾という個性に期待する。
中途半端に重苦しく切ない・・・
週末レイトは、韓流映画のポスターって感じの地上波での番宣のない元国民的アイドルの一員主演の『凪待ち』
しかしヤフーのレビュー異様に高いし・・・
あの白石監督が、ドン底に切ない超バイオレス作品撮ったの!?と思って、主演俳優は好きじゃないけど鑑賞して来ましたが、一番小さいシアターで鑑賞者10人^^;;;
ギャンブル依存のどうしようもないクズの話ですが、主人公はどこか愛されるクズ、誰からも愛されない孤独なクズは悲惨(ーー;)
で、愛されるクズの奥さんが殺される。。。
ただこの出演メンバーなら、すぐ犯人の推測は出来る。。。(^◇^;)
物語の要点は、その犯人探しではないので、このポスターのキャッチコピーに、惑わされないようにご鑑賞下さい。
途中から娘役の恒松祐里ちゃんの今後のブレークを確信する存在感のみ見てた気がする・・・まれに出てた頃が懐かしい。
いい作品ですが、観るつもりの方は、早めに行かないと公開縮小されるかもですよ〜☆3
香取慎吾がいい!
何と言っても香取慎吾がいい。
実にいい。
郁男役は彼以外考えられないくらいのハマり役だ。
(キム◯◯にはこの役は絶対無理だな)。
脇を固める役者さん達の演技も良かった。
ただ、脚本はどうだろう。
最後の大博打も予想通りだし、その後の展開も予想通り。
犯人も早々にこの人だろって思ったら案の定そうだし、サスペンス要素は極めて低い。
殺人の動機について一切触れないまま、エンディングを迎えるのは、あまりにも不親切ではないか。
ほっとする終わり方で、家族や絆、人の繋がりなど、悪い話ではないが、周りの人達があまりにも優しすぎて、少々気になるところだ。
それでも、上半期の邦画の中で、強く心に残る一本であることに間違いはない。
エンドロールの映像が心に滲みる。
どん底から這い上がる
どうしようもないクソ野朗ですが、
香取慎吾の演技が素晴らしく、ダメなんだけど憎めなくて面倒を見てやりたくなる。
主人公を取り巻く環境は日本の都心部以外の場所ではよくある環境だと思いました。
だからこそ再び立ち上がる希望が持てる。
降りかかる事件は普通では無いですが。
大丈夫。まだやれる
差し出されたその手を絶対に離しちゃいけないよって
いうのをことごとく裏切る主人公。
でも居るんですよ、こういうダメな人。
自分の身近に居たからこそ余計に感情移入しちゃいました。
震災も重なり、涙腺が緩む場面も何度かありました。
撮影も演技も全てが良かった。
音楽のセンスが良くない気はしましたが。
印刷工場でカッとなる場面とか。
本当に素晴らしい映画でした。
白石和彌作品としては非凡
あっという間にエンディングまで
白石和彌=暴力という先入観を持って観たが心に沁みる良い映画だった。
まず主演の香取慎吾の泣き顔が圧巻!
お茶の間のアイドルという前振りが効いていて「これがあの慎吾ちゃん!?」というギャップにやられてどんどん引き込まれていく。
周りの芸達者な俳優さんの中にいても浮くことなく「ああ本当に泣いているな」と説得力があった。
終盤、大きな体を丸めて泣きじゃくる主人公の演出が良かった。
無力感が伝わって逆に小さく見える。
大袈裟に泣き叫ぶわけでなくシラけない。
恋人の父親役の吉澤健は土地の人では?と思えるほど溶け込んでいて助演男優賞にノミネートされて欲しいと思った。
エンドロールが始まっても席を立ってはいけない。
凪に見えても傷を内包しているんだというメッセージを受け取った。
関東のテレビでスルーは惜しい
ろくでなしの主人公でも感情移入出来てしまうのは
絆、裏切り、嫉妬、再生、生死、小さなコミュニティーでありながら人間の様々な業が何層にも折り重なり描かれる。
静かな映画かと思っていたが、テンポよく物語が展開され、飽きさせない。
宣伝でも使われている通り、ある意味主人公はどうしようもないろくでなしである。しかし、仕事は出来、言葉遣いは丁寧であり、そこまで悪い人間ではなさそうだと見ていれば早々に感じる。
ただギャンブルへの依存と、「キレる」という大きな問題が主人公(郁男)を転落させていく。
カメラの傾きや揺れが特徴的だが、これは郁男の心情に重なり、観客が郁男に共感するのに一役買っている。特に病院のシーンでの「揺れ」に切なさを感じた。
そして主人公を見守る(内縁だが)義理の父の人生と主人公が重なる。
あらゆる場面でこの義理の父が主人公を見る目が優しいのはそのためであろう。
とにかくキレた時の香取慎吾の演技はあの体格が持つ迫力が存分に生かされ、釘づけにされる。香取以外の役者も皆芸達者なため、どっぷりと作品の世界に浸れる。
作品、役者共に何らかの映画賞に絡んでくる作品ではないか。
さりげなく石巻の現状が織り交ぜられ、郁男が駅に向かう場面では震災後に作られたあの巨大な防波堤沿いを歩き続けるシーンがある。
また、エンドロールには被災地に対するの監督の思いが込められていると思う。
白石監督と香取慎吾のリンクが
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