劇場公開日 2019年6月28日

「ろくでなしの主人公でも感情移入出来てしまうのは」凪待ち xnonxさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ろくでなしの主人公でも感情移入出来てしまうのは

2019年7月1日
スマートフォンから投稿

絆、裏切り、嫉妬、再生、生死、小さなコミュニティーでありながら人間の様々な業が何層にも折り重なり描かれる。
静かな映画かと思っていたが、テンポよく物語が展開され、飽きさせない。

宣伝でも使われている通り、ある意味主人公はどうしようもないろくでなしである。しかし、仕事は出来、言葉遣いは丁寧であり、そこまで悪い人間ではなさそうだと見ていれば早々に感じる。
ただギャンブルへの依存と、「キレる」という大きな問題が主人公(郁男)を転落させていく。
カメラの傾きや揺れが特徴的だが、これは郁男の心情に重なり、観客が郁男に共感するのに一役買っている。特に病院のシーンでの「揺れ」に切なさを感じた。

そして主人公を見守る(内縁だが)義理の父の人生と主人公が重なる。
あらゆる場面でこの義理の父が主人公を見る目が優しいのはそのためであろう。

とにかくキレた時の香取慎吾の演技はあの体格が持つ迫力が存分に生かされ、釘づけにされる。香取以外の役者も皆芸達者なため、どっぷりと作品の世界に浸れる。
作品、役者共に何らかの映画賞に絡んでくる作品ではないか。

さりげなく石巻の現状が織り交ぜられ、郁男が駅に向かう場面では震災後に作られたあの巨大な防波堤沿いを歩き続けるシーンがある。
また、エンドロールには被災地に対するの監督の思いが込められていると思う。

xnonx