凪待ちのレビュー・感想・評価
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目は口ほどに物を言う、多くを語らない破壊と再生の物語
ここ最近、『彼女がその名を知らない鳥たち』『日本で一番悪い奴ら』と立て続けに観ている白石和彌監督作品。(『孤狼の血』をまだ観ていない僕が言うのもおこがましいが…)白石監督の作風がつかめないでいたが、毎回どうしようもないダメ男を通して、その内にある優しさや強さ、人間味を描く天才だと感じた。
ただ、この映画は期待しすぎていたためか少しもの足りなかった。というのも、どこか物静かでスクリーンから迫るものが感じにくかった。でもそれは自分の感受性にも問題がある。
今回試写会で上映後監督のティーチインが行われたが、そこで白石監督は「最近は、過去に何があったかで語る映画が多い。だから、いまそこに何があるかで描く作品を創りたかった。刺激的な映像やセリフではなく、芝居や表情で伝わるものを大切にしたかった」というようなことを話していた。まさに、目は口ほどに物を言う。
その多くを語らない映画から何を感じとるか、それがこの作品の楽しみ方ではないだろうか。
また堕落した男が周りの優しさに触れ再生していく姿と、津波で破壊されたまちが復興していく社会をリンクさせているが、そのナイーブな震災というテーマも厚かましくなく、さらりと溶け込ませる。
ただこれを観ると、誰もがまだ皆が思っている以上に傷跡が残り元通りになっていない被災地の現状に想いを馳せるだろう。
一番刺さった言葉は、「津波ですべてダメになったんじゃない。津波が新しい海を作ってくれた」。人間が及ばない自然の包容力、そして過ちを犯した人にもより強く変わってやり直すことができることを物語っている。
ただ本作は、香取慎吾キャスティングありきの作品で、震災は後付けで重ね合わせたということを聞いて、ちょっと業界のリアルを見たようで残念だった。
個人的には、恒松祐里の目力と、吉澤健の佇まいが好きだった。
そして白石監督は、役者の能力というより、本人がどう役を超えていくかを楽しむ演出手法のようだ。
震災で壊れたまちと、ギャンブルで壊れた男の、凪待ちのものがたり。
単純なサスペンス映画ではない
Filmarks試写会にて。
「俺はどうしようもないろくでなしです」
と香取慎吾演じる郁男は言う。確かに彼はろくでなしだ。しかし「どうしようもない」ところに主眼がある。立ち直りたい、真っ当に生きたいのにどうしてもうまくいかないギャンブル依存症の性。競輪を前に、画面は傾き、謎の風が吹き、香取慎吾の昏い目が光る。どうやっても抜け出せない沼。
彼が恋人とその娘と、震災の爪痕が未だ残る石巻に移住して話は展開していく。病気、震災、被災者へのいじめ、狭い地方都市、ヤクザ、ノミ行為。物語はひたすら救いのない方向に転がってゆくが、登場人物皆、どうしようもないながらも愛が、情がある。どれだけ主人公が自暴自棄になろうと、どうにかして救おうと手を差し伸べる人物がおり、そしてそれに、どうしようもなさを抱えながらも応えようとする主人公が居る。どれだけの救いかは分からないが、この展開には涙が止まらなかった。
監督本人も話していたけれど、サスペンス要素は濃くない。犯人探し気分の映画だと思うと肩透かしを食らうし、背景の謎解きもない。基本的に説明は少ない映画なのだ。けれど、人の業を、衝動を、救いを描き切っていると感じた。
多分日本一型にはまりやすい役ばかり与えられてきた香取慎吾だけれど(孫悟空とかハットリくんとか両津勘吉とか...)抑制の効いた「どうしようもないろくでなし」の演技は素晴らしかった。助演も皆素晴らしい。白石組と言っていいリリー・フランキーに音尾琢真、身体中で物語る吉澤健、恒松祐里の鋭さと儚さ、西田尚美の現実感。皆役が立っていた。これは良い映画。
先入観無く是非観て貰いたい映画
初の白石監督映画。ギャンブル依存 借金 暴力 色々な人生の裏側と共に、宮城県石巻を舞台に、震災が引き起こした様々な悲しみや喪失。香取慎吾演じる郁男とその周りの人々の少しずつの綻びが上手く描かれている。話が進むにつれ、郁男を演じる香取慎吾の眼や背中から醸し出すボロボロ感、悲しみ ギャンブル依存の狂いや高揚感が高まる。特に乱闘シーンでの眼が良い。脇を固める俳優陣の演技もたまらない。キャスト全員誰も悪目立ちせず、人や人生の裏と震災を綺麗事に書かれてない素晴らしい映画。是非沢山の人に観て貰いたい。
「怒り」以来 久々に良い日本映画
試写にて拝見。
ギャンブル依存症の主人公が物語を破滅に進めていくが、
競輪をただのギャンブルとしては見てない
一種のロマンと愛情が主人公から垣間見えるのがくすぐられた。
男あるあるな感覚だろう。
物語の構成がよくできていたので
とても頭のいいひとが作った映画とおもわれる。
男と東北の被災者の苦しみ様が時折リンクするが
あまり「震災・復興」のテーマにもたれかかった作品じゃなかったので抵抗なく見やすかった。
けれど、映画を見終えた観客は
誰もが被災地に思いをはせるだろう。
物語が進むほど、香取慎吾の存在感が凄みを増し
腕から背中から全身から悲哀や怒りを感じ取ることができた。
せっかくの白石監督だが、映画の規模は少々小さいようだ。
個人的には「怒り」以来のマイヒット作なので
多くの方がみることをお勧めする。
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