タリーと私の秘密の時間 : 映画評論・批評
2018年7月31日更新
2018年8月17日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
疲弊しきったママに寄り添う、シャーリーズ×ライトマンの癒しムービー
一足先に公開されたピクサー・アニメ「インクレディブル・ファミリー」で我らのヒーローが思い知ったように、ほとんどの家庭で妻が担っている“子育て”という仕事は、ヒーロー活動よりよっぽど難しく、尊く、しんどくて骨が折れるものだ。だが、誰もがMr.インクレディブルのようにハッキリと、この事実に気づくわけではない。「タリーと私の秘密の時間」のヒロイン、マーロの場合もそう。夫はもちろんマーロ自身でさえ、自分の仕事の過酷さに気づいていないのだ。
マーロはまだ幼く手がかかる姉弟の世話でバタバタな日々の中、さらに娘を出産。明らかに疲れ果てている。ストレスで激太りし、赤ちゃんの夜泣きに疲弊しながら、自分を見失うマーロ。そんな彼女の救いとなるのが最強のナイトナニー(夜間専門の子守)、タリーだった。タリーとの間に絆を感じるマーロだったが、謎めいた現代のメリー・ポピンズ=タリーには、アッと驚く秘密があった。
そうとは知らずに産後うつと戦うスーパーヒロイン、マーロの姿に、子育てを経験した人ならとてつもない共鳴を感じるだろう。脚本とプロデュースは、ジェイソン・ライトマン監督と「JUNO ジュノ」、「ヤング≒アダルト」に続いて3度目のコラボとなるディアブロ・コーディ。彼女自身が3度目の出産後にうつ状態とナイトナニーを経験しただけに、細かい描写まで超リアル!
10代で妊娠して大人に幻滅する「JUNO ジュノ」のジュノ、大人になることを拒み続ける「ヤング≒アダルト」のメイビスと違い、マーロはものすごく大人だ。しかし、誰にも頼らずにがんばりすぎて、心が悲鳴をあげている。そんなマーロの痛々しさを体現するシャーリーズ・セロンの女優魂、これがまさにインクレディブル(驚異的)! 美貌とスタイルをかなぐり捨てて「モンスター」のときより4キロ重い18キロもの増量をし、でっぷりとした体を揺らす姿は、実に切ない。その一方で、タリー(マッケンジー・デイビス)との間に生まれる化学反応の輝きも見ものなのだ。
終盤のサプライズでパズルのピースがバチッと埋まったとき、きっと最初から見直したくなるだろう。見直せば、監督がどんなふうにマーロの心に寄り添っているかがくっきりと見えて、また違った楽しみ方ができるはずだ。ライトマン監督の人間を見つめる視線の温かさは、本作でも健在。マーロにとってどうしても必要だったタリーのように、疲れたがんばり屋の癒しとなり得る映画だ。
(若林ゆり)