メアリーの総て

劇場公開日:

メアリーの総て

解説

ゴシック小説の古典的名作「フランケンシュタイン」を生み出したイギリスの女性作家メアリー・シェリーの波乱に満ちた半生を、エル・ファニング主演で映画化。19世紀のイギリスで小説家を夢見る少女メアリーは妻子ある詩人パーシー・シェリーと出会う。2人は互いの才能に惹かれあい、情熱に身を任せて駆け落ちするが、メアリーは数々の悲劇に見舞われてしまう。失意の中にあったメアリーは詩人バイロン卿の別荘で「みんなで1つずつ怪奇談を書いて披露しよう」と持ちかけられ……。監督は長編デビュー作「少女は自転車にのって」が第86回アカデミー外国語映画賞にノミネートされたハイファ・アル=マンスール。

2017年製作/121分/PG12/イギリス・ルクセンブルク・アメリカ合作
原題または英題:Mary Shelley
配給:ギャガ
劇場公開日:2018年12月15日

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(C)Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017

映画レビュー

3.5作家はフィクションでこそ嘘をつけない

2019年1月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

フィクションは架空の物語だが、だからこそ作家の本性が刻印されるものだとよく言われる。コラムやエッセイよりも、作家の奥深くの本性がより強くでるのはフィクションを書かせた時なのだ。ならば『フランケンシュタイン』を10代の頃に書いたメアリー・シェリーのいかなる本音がその物語には刻印されているのだろうか。本作の一番の関心はそこにある。
映画は、メアリーの家庭環境、自由本坊な詩人パーシー・シェリーと出会い、振り回され、その才能を抑圧された半生が描かれる。直接のアイデアの着想のシーンも描かれてはいるが、そこに本題はない。怪物を産み落とした彼女の心の内側があくまで主題だ。

フランケンシュタインの怪物は、自分を生んだ科学者に対して花嫁となる怪物をもう一体作ることを求める。恐ろしい怪奇小説だが、同時に愛を求める悲痛なロマン小説でもあるこの物語は、最終的には生みの親の死を嘆く怪物の姿が描かれる。父と夫に振り回された彼女の半生の苦しみと小説は、確かにリンクしている。

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杉本穂高

4.0エル・ファニングの内面渦巻く感情に、ただただ圧倒される

2018年12月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

「フランケンシュタイン」の物語は、怪奇ホラーという言葉では片付けられないほど悲しく、哲学的で、「人間とは?生命とは?」といった領域にまで思索の幅を広げてくれる。これがとあるお屋敷で行われた暇つぶしの執筆ゲームとして誕生したこと、その執筆者が女性であったことで「真の書き手は誰だ?」と好奇の目で晒された逸話は有名だ。

本作は、一人のうら若き女性が世にも恐ろしい幻想譚を書き上げるまでの心の叫びを丹念に描き出した秀作である。女性ならではの苦難を等身大の感度で演じるエル・ファニングの熱演もさることながら、他にも男女問わず、あらゆる登場人物たちが為す悩みや悲しみに押し潰されそうになりながら生きる姿が胸を締め付けてやまない。手掛けたのがサウジアラビア初の女性監督という点も特筆すべきところだ。本作から発せられた光は、過去の一点のみならず、現代や未来さえも貫き、普遍的なテーマをありありと照らし出している。

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牛津厚信

4.0エル・ファニングを起用できた幸運

2018年12月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

メアリーが第一子を出産し結婚したのが18歳、本作の撮影開始時(2016年2月)にエル・ファニングが17歳。役との実年齢の近さを含め、無垢な美しさをまとった少女から意志と覚悟を感じさせる凛とした気品を伴う大人の女性へと日々成長するタイミングで、彼女をキャスティングできたことは製作陣にとっても観客にとっても幸運だった。第三子まですべて幼いうちに失うというメアリーの悲劇性を、エルの透明感ある儚げな美貌が際立たせる。

メアリーを襲った数々の不運と困難、そして「ディオダディ荘の怪奇談義」として知られる別荘滞在時の出来事など、彼女が「フランケンシュタイン」を着想し執筆した背景と経緯がドラマチックに描かれる点も大いに興味をそそられた。サウジアラビア出身の女性映画監督、ハイファ・アル=マンスールによるフェミニズムの視点も作品に奥行きを与えている。

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高森 郁哉

3.5作者の心理的地獄がモンスターに乗り移った!?

2018年12月20日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

名作「フランケンシュタイン」の頭に必ず表記される"メアリー・シェリーによる"というフレーズの真相に、恐らく初めて踏み込んだ本作。なぜ、女性がこのような怪奇小説を執筆したか?という謎が、ある種の時代的必然に代わっていくプロセスは、即行で今に通じるもの。父の再婚相手である義母によって虐げられ、さらに、生来恵まれた執筆の才能も封印されたメアリーが、妻子ある詩人、パーシー・シェリーとの出口のない恋愛関係から来るストレスの発露として誕生させたモンスターは、彼女の心の地獄を体現している分、おぞましさと怒りに充ち満ちているのだった。そんなヒロインの切実で行き詰まった心情を、相変わらず愛らしく、一点を見据えるような表情で演じるエル・ファニングにとって、これは代表作と言えるもの。彼女の存在はテーマとしてのフェミニズムを和らげる役目を果たしていて、疑う余地なく適材だと思う。

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清藤秀人

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