騙し絵の牙

劇場公開日:

騙し絵の牙

解説

「罪の声」などで知られる作家の塩田武士が大泉洋をイメージして主人公を「あてがき」した小説を、大泉の主演で映画化。出版業界を舞台に、廃刊の危機に立たされた雑誌編集長が、裏切りや陰謀が渦巻く中、起死回生のために大胆な奇策に打って出る姿を描く。「紙の月」「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督がメガホンをとり、松岡茉優、佐藤浩市ら実力派キャストが共演する。出版不況の波にもまれる大手出版社「薫風社」では、創業一族の社長が急逝し、次期社長の座をめぐって権力争いが勃発。そんな中、専務の東松が進める大改革によって、売れない雑誌は次々と廃刊のピンチに陥る。カルチャー誌「トリニティ」の変わり者編集長・速水も、無理難題を押し付けられて窮地に立たされるが……。

2021年製作/113分/G/日本
配給:松竹
劇場公開日:2021年3月26日

スタッフ・キャスト

監督
原作
塩田武士
脚本
楠野一郎
吉田大八
製作
高橋敏弘
堀内大示
木下直哉
有馬一昭
藤田浩幸
荒木宏幸
五老剛
伊藤由美
安部順一
井田寛
エグゼクティブプロデューサー
吉田繁暁
栗橋三木也
企画
新垣弘隆
プロデュース
新垣弘隆
プロデューサー
池田史嗣
秋田周平
二木大介
撮影
町田博
照明
渡邊孝一
録音
鶴巻仁
整音
矢野正人
美術
富田麻友美
装飾
山川邦彦
衣装
小里幸子
石原徳子
ヘアメイク
千葉友子
編集
小池義幸
音楽
LITE
音響効果
伊藤瑞樹
VFXスーパーバイザー
白石哲也
スクリプター
工藤みずほ
助監督
甲斐聖太郎
製作主任
中谷康紀
緒方裕士
製作担当
篠宮隆浩
プロダクションマネージャー
岩田均
ラインプロデューサー
入交祥子
音楽プロデューサー
緑川徹
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受賞歴

第45回 日本アカデミー賞(2022年)

ノミネート

最優秀主演女優賞 松岡茉優
新人俳優賞 宮沢氷魚
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映画レビュー

3.0原作を読まずに観た方がいいかも

2021年4月4日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 大泉洋に当て書きした原作を映像化したとのことで、その当て書きぶりを確認したくて、先に原作を読んで臨んだ。  結果、まず物語の途中経過と結末が原作とあまりに違うので、そこに気を取られてしまった。原作というか、個人的には原案のレベルじゃないかと思うほどの変わりようだ。各キャラの顛末も大体違うし……原作での速水(大泉)の立ち回りを、映画では高野(松岡)が担っているように見えた。  その上、原作では速水の会話のちょっとした言い回しの節々に大泉洋っぽさが滲んでいたのだが、映画ではその辺は大半が削ぎ落とされ、当て書きの雰囲気がなくなっていて、余計に原作とは別物に見えた。  後で大泉・松岡へのインタビューを読むと、監督が「原作をいったんバラバラに解体して映画脚本用に再構築」したそうだ。しかも大泉は、演技中に自分の素が出ることがあると「大泉さんぽいからNG」となることも多かったらしい。  原作に思い入れはないが、当て書きの映像化ということから漠然と、ここまでの改変はしないだろうという先入観があった。  このようなつくりの作品だという情報に疎かった私も悪いのだが、せっかく当て書きの役に本人をキャスティングしてるのに何故?監督は原作のどこに惚れて映像化したんだろう?そんな素朴な疑問が拭えなかった。  そんなわけで、映画単体ではそこそこ楽しめる内容にも思えたが、原作や当て書き云々の情報に惑わされて自分の脳内の原作イメージを上塗りする作業に追われてしまい、不完全燃焼感が残った。  この作品の場合、原作は読まないで観た方がよかったかもしれない。  個人の好みの問題だが、原作のこの場面をどのような映像にしたのかな、という比較を楽しむ場面もある程度は欲しいクチなので、ここまでの解体&再構築は正直残念だ。  映画そのものの評価とは微妙にずれるかも知れないが、原作小説が世に出ている以上は読者への配慮があってほしかった。  出版社社員が頑張る映画なだけに。

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ニコ

4.0出版業界という村社会の改革者

2021年4月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

自分がどういう「村」の住人で、その「村」の外で何が起きているのかを認識できている人間は少ない。特に日本は内輪の人間関係で完結する村社会なので、その小さい村での派閥闘争や権力の奪い合いをしているうちに、外の世界の変化に気づかず沈没していくみたいな光景をよく見る。 本作は、出版業界という「村」の物語だ。斜陽化する出版業界、紙の雑誌はどんどん部数が落ち、赤字なのに文芸雑誌だけは「聖域」として誰も手を出してはいけない。そんな「村の掟」に外の作法を持ち込み、かき回して一気にレジームチェンジを仕掛ける男を、大泉洋が演じているのだが、彼の掴みどころのない飄々とした感じがすごくハマっている。この主人公は、村の論理もよく知っていてその間隙を突くというか、真っ向からぶつかるんじゃなく、人々の習性を利用して笛を吹いて踊らせるみたいな、そんな人物なのだ。真正面から戦うヒーローよりも、日本社会の場合、こういうタイプの方が変革をもたらすんだろうなとすごく実感させられた。

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杉本穂高

5.0塩田原作のエッセンスを抽出して再構築、既読者をも驚喜させる映画流の“騙し絵”

2021年3月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

笑える

楽しい

興奮

どんでん返しの仕掛けがあるベストセラー小説を映画化する際、読者にはすでに割れているネタをどう扱うかが難題だ。筋を忠実に再現するのも一つの手だが、その場合は既読者を驚かせるという点で妥協することになる。ほかにも、膨大な要素を詰め込み過ぎてせわしないダイジェストになってしまったり、登場人物のイメージに合わないキャスティングで失望させたりといった、原作物にありがちな落とし穴を避けつつ娯楽映画として成立させるにはどうするか。 主人公に大泉洋を“あてがき”するというアイデアを編集者から持ち込まれ、塩田武士が斜陽化する出版業界を舞台に書いた同名小説(本の内容に似て、その成立にも仕掛け人がいた点が面白い)。吉田大八監督は楠野一郎との共同脚本で、雑誌編集長の速水(大泉)、部下の編集者・高野恵(松岡茉優)、大物作家の二階堂大作(國村隼)などごく一部のキャラクターを残したほかは映画独自のサブキャラを適所に配し、小説の編集という仕事に対する速水と高野の愛着、雑誌廃刊の危機に奮闘する編集長と部員たち、出版社内の派閥抗争に翻弄される速水といった原作のエッセンスを抽出して再構築。いくつもの仕掛けが2時間の中できれいに決まるオリジナルな娯楽劇を作り上げた。映画単体でももちろん楽しめるし、既読者も原作のエッセンスを再び味わいながら、まったく新しい騙しの仕掛けに驚き満足するはずだ。 大泉の飄々とした“陽”の持ち味を活かしつつ“陰”(=牙)の面も引き出す緻密な演出も冴えわたり、吉田監督の新たな代表作となった。どんでん返し系の原作をオリジナルな筋で映画化した稀有な成功例でもあり、今後似たようなことをやろうとする映像作家にとってはハードルが一気に上がったはずだ。

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共感した! 42件)
高森 郁哉

4.5大泉洋を筆頭に役者全員が上手い。音楽の使い方も絶妙で、テンポ良く楽しめる吉田大八監督の新たな代表作。

2021年3月26日
PCから投稿

本作は、あえて一言で言うと「出版業界を舞台に繰り広げられる様々な生き残りバトル」でしょうか。 出版業界と一言で言っても、出版社、書店、(出版社と書店をつなぐ)取次店、そして、著者など本当に多くの役割があります。 本作の大泉洋が演じる主人公は、多くの出版社を渡り歩いてきた編集者です。 そのため、持ち球の多さや発想も面白く、それが見どころの一つとなっています。 また、タイトルに「騙し絵」とあるように、「表の顔」と「裏の顔」など、何が本当で何が嘘か、も興味深い内容となっていました。 とは言え、本作の最大の魅力は、人間模様の面白さだと思います。 大泉洋を筆頭に、松岡茉優など文字通り全員の演技が光っていて、それぞれのシーンがどれも興味深く面白いものとなっているのです。 これは、シーンに合わせた音楽の使い方もかなり上手く、さすが吉田大八監督といったところでした。 最後に、出版業界に長くいる立場からの感想です。 松岡茉優演じる編集者の実家は小さな書店ですが、こういう地域に大切な小規模な書店が全国で無くなってきています。「ネットで買えばいいのでは?」となりますが、高齢化社会ではなかなか厳しい面も大きいのです。どうにかして今の流れを止めないと、という社会問題は意外と大きいのです。 その一方で、世の中は出版業界にはそんなに興味がないのも現実だと思います。例えば、大手出版社の名前は知っていても、その会社の社長まで知っている人は(業界人でないと)いないですよね。 その意味で、本作の「テレビニュースの場面」については、少し違和感を持ちました。なぜなら、出版社の社長の人事や、新人作家のデビューなどはテレビで取り上げられるようなものではないからです。 本作を見た際には、この点が気になりましたが、映画はエンターテインメントでもあります。この見せ方が一番分かりやすく観客に情報を伝えられるベストな手法なのかもしれません。 そう考えると、これはそういう設定だと割り切りながら見るのが正解だと思います。 もし出版業界の人が見て気になったら、こういう「変換」をしてみることをお勧めします。

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細野真宏