ファントム・スレッド

劇場公開日:2018年5月26日

ファントム・スレッド

解説・あらすじ

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のポール・トーマス・アンダーソン監督とダニエル・デイ=ルイスが2度目のタッグを組み、1950年代のロンドンを舞台に、有名デザイナーと若いウェイトレスとの究極の愛が描かれる。「マイ・レフトフット」「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」「リンカーン」で3度のアカデミー主演男優賞を受賞している名優デイ=ルイスが主人公レイノルズ・ウッドコックを演じ、今作をもって俳優業から引退することを表明している。1950年代のロンドンで活躍するオートクチュールの仕立て屋レイノルズ・ウッドコックは、英国ファッション界の中心的存在として社交界から脚光を浴びていた。ウェイトレスのアルマとの運命的な出会いを果たしたレイノルズは、アルマをミューズとしてファッションの世界へと迎え入れる。しかし、アルマの存在がレイノルズの整然とした完璧な日常が変化をもたらしていく。第90回アカデミー賞で作品賞ほか6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した。

2017年製作/130分/G/アメリカ
原題または英題:Phantom Thread
配給:ビターズ・エンド、パルコ
劇場公開日:2018年5月26日

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(C)2017 Phantom Thread, LLC All Rights Reserved

映画レビュー

4.5 めくるめく

2018年7月19日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

この監督、この俳優。そして、「毒」というキーワード。この物語はどのような結末にたどり着くのだろうと、観る前から空恐ろしい気持ちでいっぱいだった。切り刻まれるのは男か女か、もしくはお互いか。どれほどに陰惨な修羅場が繰り広げられるのか…と、頭のすみに覚悟と緊張感を常備。けれども、まるで夢から醒めるように、すっと映画は結末を迎える。 どこまでも、甘く。なんというハッピーエンド、と思えたのは、彼らの振りまく毒にすっかりやられたせいだろうか…と、かえってぞくぞくした。
この映画のクライマックスは2つある。まずは、完璧なデザイナー、レイノルズが自ら否定し、破り、汚したドレスの復活。本人は自分がしたことを察する間もなく熱にうさなれ、かつて自分が贈ったドレスを纏った、若き母の幻影に出会う。そんな幻をあっさり打ち消すのは、田舎のウエイトレス上がりのアルマだが、レイノルズは成すすべもなく、一寸の隙もなく看病に徹する彼女を受け入れるよりほかない。夢と現実が入り交じったような暗い密室の外では、まばゆいほどの光の下で、新たなドレスが着々と形づくられていく。その指揮を執っているのは、彼でもなく、完全無敵の姉でもない。見えない糸であやつられているように、主人不在のまま整然と立ち働くお針子たちは、不思議な存在感を放っていた。
そして更なるクライマックスは、終盤の食卓。アルマは優雅な動きで(レイノルズが嫌悪する)バターを惜しげなく使った料理に毒を盛り、彼もまた、それを優雅に味わって見せる。フレームの中では、第一のように彼が苦しむ様子は描かれない。毒を盛る人・盛られる人が、まるで共犯者のように共鳴し合っている。実は毒は幻なのか、平然としているのが演技なのか。毒を盛る・盛られる様子が演技なのか。真実はフレームから押し出されているだけなのか。突き詰めようとすればするほど、物語の糸は絡まり合う。真実を求めるのではなく、自分にとっての真実を選び取れ、と迫られているように思えた。
第二のクライマックスの後、薄暗がりの中で、新たなドレスがつくられる。姉も、お針子たちも、もういない。そこにいるのは、レイノルズとアルマだけだ。華やかな諸々から隔絶されたような2人が、これまでになく満たされ、ほのかな光さえ発しているように見えた。
思いがけないラストに遭遇し、ふと、塚本晋也監督の「六月の蛇」を思い出した。仕事も人生も駆け出しだった当時は、その結末に戸惑うばかりだったのだが、なぜかこの映画に引かれたという職場の大先輩は満足そうだった。「最後に、倫子さんはしあわせになってよかったよねえ…。」予想もしないシンプルな感想に、衝撃を受けた記憶は今も鮮やかだ。久しぶりに「蛇」を観返してみたら、今の自分はどんな感想を持つだろう。そして、あの先輩も、の映画をどこかで観ていたらと願う。

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cma

4.0 デイ・ルイスの生き様は、映画職人としてのPTAの精神そのものなのだろうか

2018年5月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

幸せ

「役を生きる」とはこの俳優、ダニエル・デイ・ルイスのための言葉である。同じPTA作品の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の地の底から情熱をみなぎらせるような役柄とも違い、ここではナチュラルな仕草や声のトーン、目線の動かし方などを駆使しながら、柔らかな佇まいの中に強靭な何かを秘めた男を見事なまでに演じきる。この存在感に触れただけでもピリリと身が引き締まる思いがするではないか。

老舗ドレス工房の朝の風景、食事時の流儀。ひと縫いひと縫い。全ては仕事中にどれほど感性を研ぎ澄ませるかに傾注され、後のものは二の次。そこに入り込んだひとりの女性をめぐって男の価値観が徐々に揺らいでいく、その戸惑いの過程が実に滑らかに綴られる。そこでふと思った。もしやDDLの姿には、PTAの映画作りの姿勢が投影されているのではないか。特に家族を持つことで変わりゆく精神性について、この映画は深く深く掘り下げている気がした。

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牛津厚信

4.0 緻密で美しい、あるカップルのマウント合戦

2018年5月28日
PCから投稿

笑える

怖い

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共感した! 13件)
村山章

2.0 私の理解を超える主人公らの世界には…

2025年12月18日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

タイトル名だけを小耳に挟んでいた程度
だったが、キネマ旬報ベストテンにおいて
「スリー・ビルボード」
「ペンタゴン・ペーパーズ」
「シェイプ・オブ・ウォーター」
の話題作が1〜3位を占めた後の第4位
に選出された作品と知って初鑑賞した。

しかし、長く生きながらえながらも
質的に人生経験の乏しい小生には、
何とも難解で理解に苦しむ主人公らの
思索と生き様だった。

そもそもが、主人公は何を持ってこの女性に
惹かれたのかが良く分からない。
描かれる二人の出会いが初めてなのか、
そうではないのか、
初めてだとすると、
後で彼はデザイナーとして、
女性の身体的マイナス点は己のデザインで
処理すると豪語している位なので、
そんなモデル対象としての理由だったとも
思えない。
彼女の自然さや記憶力に魅力を感じたから
なのだろうか。
でもそれはデザイナーとしての直感とは
異なるようにも思うのだが。
また、彼女が前任の女性と同じように、
主人公への気の触ることをしながら、
彼のファッションハウスに居続けられたのは
何故可能だったのだろうか。

母の遺髪やら、
思い出の品を服の裏地に縫い込める等、
マザーコンプレックス的に過去に生きる男
が、事ある度にハッキリと意見する
これまでとは異なる女性に感化され、
結婚を機に様変わりをするかと思ったら
そうもいかず、
しかし、結局は再び穏やかな夫婦生活へ、
とは、なかなか共感までに辿り付くことの
難しい主人公だった。

一方、女性の方も、
毒キノコを食べた後の男の看病で
彼が強くなるとの理屈にも置いてきぼりで、
私の理解を超える二人の主人公の世界には
なかなか付いていくことの出来ない作品
となってしまった。

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