劇場公開日 2019年6月14日

ガラスの城の約束 : 映画評論・批評

2019年6月4日更新

2019年6月14日より新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほかにてロードショー

破天荒で酒浸りの父親。それでも彼の金言は心に刺さり、しばし忘れ難い印象を残す

人々が富と安定を目指して日々汗を流す現代社会にあって、ひたすら、遊牧民のようにその日暮らしを続ける家族がいる。定職を持たず、酒に溺れる父親と、絵を描くことに没頭しすぎて子育てに手が回らない母親。そんな生活から脱却し、気鋭のコラムニストとして自活する娘の視点で描く実録ストーリーは、しかし、我々が生きる上で二の次にしてきた大切なものを思い出させてくれる。

夜空に満天の星が煌めく原っぱで、酒浸りの父は娘に言う。「どれか好きな星をお前にプレゼントするよ」と。そして、母の不注意で火傷を負ってしまった娘に、「いつかこの傷はお前の武器になる」と勇気づける。数多ある欲望を超越する最大級の夢の実現と、誰にでもあるコンプレックスを個性に換えていこうとする逞しい意思。心の中にそれさえ携えていれば、人は何も恐れることはない。社会人としての常識をことごとく逸脱して生きる父親の金言の数々が、観る側の心にもいちいち刺さって、しばし忘れ難い印象を残す。ウッディ・ハレルソンがここでも破天荒な父親を奔放に演じて、愉快と言ったらない。

だからこそ、映画の基になった娘の自叙伝は、7年もの間ベストセラーリストに君臨し続けたのだと思う。この名著はハリウッドの貴重な人材2人を再び結びつけた。保護施設で暮らすティーンエイジャーたちの傷ついた心に分け入ろうとした「ショート・ターム」(12)の監督、デスティン・ダニエル・クレットンと、同作でケアマネージャーを演じたブリー・ラーソンだ。子供と家族の関係にフォーカスして来た彼らにとって、本作はその延長線上に位置する作品だろう。特に、ラーソンには社会から隔絶された親子の再生を描いたオスカー受賞作「ルーム」(15)がある。

キャプテン・マーベル」から「アベンジャーズ エンドゲーム」(19)ヘ、貴重な個性を総動員して繁栄を続けるスーパーヒーロー&ヒロインムービーに果敢に参画したブリー・ラーソンだが、一方で、子供と家族、さらに、個人と社会というテーマを、こうして掘り下げることも忘れていない。因みに、ラーソンは最新作「Just Mercy」(20)で3度クレットン監督とタッグを組み、司法の不正と戦う実在の人権弁護士、ブライアン・スティーブンソンのライフストーリーに挑む。彼女の動向からしばらく目が離せない。

清藤秀人

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