ワンダーストラック : 映画評論・批評
2018年4月3日更新
2018年4月6日より角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー
意外、だけど必然的な初コラボ作。映画本来の魅力を再認識させてくれる
映画の世界に意外な組み合わせは決して少なくない。それにしても、「ヒューゴの不思議な発明」の原作者、ブライアン・セルズニックと「キャロル」の監督、トッド・ヘインズのコラボレーションはさすがに想定外だった。冒険ファンタジーと性的マイノリティはテーマとして相容れない関係にあると考えたからだ。映画を観るまでは。
まず、セルズニックが映画化を視野に入れて初めて自作の脚色にも挑戦した本作「ワンダーストラック」の構成である。1977年のミネソタで母を事故で亡くした少年、ベンが、まだ見ぬ父を探してニューヨークへ向かう話と、それから遡ること50年前、ニュージャージーの母親のいない家庭で育った少女、ローズが、憧れの舞台女優に会うため、ハドソン川を渡って同じニューヨークへ旅立つ話が、やがて1つに束ねられて行く。異なる時代を異なる場所で過ごした少年と少女を結びつける必然性、それとリンクするニューヨークという町の成り立ちと特色、重要なアイテムとして登場するジオラマやからくり人形等は、「ヒューゴの不思議な発明」の父と息子の関係、舞台となるモンパルナス駅、時計台とからくり人形、等々と対になっていることに気づく。
一方、「ヒューゴの不思議な発明」と「キャロル」で衣装デザインを担当したオスカー・コレクター、サンディ・パウエルの紹介で監督を引き受けたヘインズは、この壮大で奇跡的な物語に“孤独”という普遍的な要素を注入することで、貫いてきたスタイルを踏襲している。共に安らぐ場所を奪われた人々が、時間の狭間をたゆたうように、見知らぬ町で家族を、友を探して流離う姿は、「エデンより彼方に」の居場所がない夫婦や、「キャロル」の引き離された恋人たちと見事に重なるのだ。
結果、物語と同様に必然的だったセルズニック×ヘインズの初コラボ作は、映像で物語るという映画本来の魅力を再認識させてもくれる。どちらも耳が聞こえない設定のベンとローズの2つの旅路は、彼らの特性に準じて、最低限の台詞と情景描写の積み重ねによって綴られていく。それが、薄々着地点を予測しつつも、観客の集中力を最後まで萎えさせない効果に繫がっていることも、付け加えておきたい。
(清藤秀人)