ありがとう、トニ・エルドマン
劇場公開日 2017年6月24日
解説
正反対の性格の父娘が織り成す交流をユーモラスに描き、ドイツで大ヒットを記録したヒューマンドラマ。陽気で悪ふざけが大好きなドイツ人男性ヴィンフリートは、ルーマニアで暮らす娘イネスとの関係に悩んでいた。コンサルタント会社で働くイネスは、たまに会っても仕事の電話ばかりしていて、ろくに会話もできないのだ。そこでヴィンフリートは、ブカレストまでイネスに会いに行くことに。イネスはヴィンフリートの突然の訪問に戸惑いながらも何とか数日間一緒に過ごし、ヴィンフリートはドイツへ帰っていく。ところが、今度は「トニ・エルドマン」という別人のふりをしたヴィンフリートがイネスの前に現われて……。監督・脚本は「恋愛社会学のススメ」のマーレン・アーデ。第69回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞するなど、世界各地の映画祭で高く評価された。
2016年製作/162分/PG12/ドイツ・オーストリア合作
原題:Toni Erdmann
配給:ビターズ・エンド
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2017年12月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
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160分のヒューマンドラマと聞くと多少面食らってしまうところもあるが、本作を観ると、なるほど、あの父と娘が距離を縮めてじっくりと関係性を醸成していくにはそれだけの時間が必要だったのだと思い知らされる。とはいえ、これらのテーマや目的を熟させるのに、本作はなんと奇妙なアプローチを試みたことか。父が扮装するエルドマンは、見た目も言動も変だが、どこか人を惹きつけ、納得させるところがある。しかし、父親は決して聖人君主であるわけでなく、エルドマンに扮しなければ娘に直接本音をぶつけることができない小心者とも言えるのかも。そのいじらしさが何とも言えない共感を呼ぶ。やがてエルドマンというサナギは毛むくじゃらのオバケへと変貌。と同時に、娘の中にも、エルドマンの破壊力、いや人と人との触れ合いを尊ぶ心が受け継がれているのが見て取れる。この父があってこそ、この娘あり。そのささやかだが心に沁みるラストが素晴らしい。
2017年6月17日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
ルーマニアのブカレストで経営コンサルティング業に勤しむ娘を訪ねて故郷のドイツからやって来た父親は、娘が仕事上で多用するパフォーマンスとかアウトソーシングとかの新興用語の意味が分からない。しかし、そんな父がバレバレの変装と嘘を使ってまで娘に密着するのは、彼女が決して幸せではないことを知っているからだ。かつては社会主義独裁政権によって支配されていたルーマニアが、今やヨーロッパに於けるビジネスの中心地であることが意外だし、町の片隅にたむろする貧しい移民たち(もしくはロマ)との対比は、急激な変化に対応し切れてないヨーロッパの今を映し出しているかのよう。父が演じるトニ・エルドマンは、そんな歪んだ社会と、資本主義の激流に流されていく娘にそっと手を差し伸べる風変わりなエンジェル。その背中には深い哀切といっぱいのユーモアが漂っている。
2016年にBBCが、世界の批評家177人の選んだ21世紀の映画ベスト100──を発表した。
ふつうだと、このての公的セレクトは、わかりきったタイトルがならんで、おもしろくもなんともないが、この選定は、2000年以降という縛り、且つ、確固たるリテラシーを持ったせかいじゅうの批評家たちの選、なこともあって、ひじょうに興味深いものだった。
知ってのとおりMulholland Drive→花様年華→There Will Be Blood→千と千尋の神隠し→Boyhood・・・とつづいている。
そうだよな、と思うことと、そうなんだ、と思うこと──首肯と発見があり、ものすごく参考になる100選だった。
その選において、トニエルドマンは100位に引っかかっている。
そうだよな、と思ったし、そうなんだ、とも思った。
サンドラヒュラーという女優が出ている。
ヒュラーはHだがuにウムラウトが付いてくる。それでなくてもパッと見て彼女が英米の白人でなくヨーロッパの、とりわけドイツの顔だってことがわかる。とはいえドイツ顔というものがどういう顔なのか知ってるわけじゃないんだが、不思議なもんで、けっこうハッキリわかる。
きれいな人だが、美人と言ってしまうなら、そのモノサシは日本人の持ってるのとは違う。
なんと言うか、アジア人が感ずるところのあっちの人感──モンゴロイドとゲルマンの隔たりを痛感するに足る異質感を持っている。その異質感は好ましい。そして肉感的でない──にもかかわらず、ふしぎな艶っぽさを持っている女優、なのである。
映画は妙。変。
父娘間の葛藤を綴るコメディだが描写はリアルでもあり、コミカルでもある。
また、気まずさもある。そして気まずさは次第に大げさになる。
イネス(サンドラヒュラー)は会社業務と奇態な行動をとる父親との二重ストレスに悩まされている。
終局近く、会社のチームメンバーを招いてホームパーティーをやるのだが、直前にタイトなドレスを脱ぐのに難渋し、そのオブセッションで遂にプッツンと来る。
とっさに裸縛りのパーティーになり、それが、映画内のひとたちと、映画を見ているひとたち──を同時に不協和の渦中へ放り込む。
でも、違和はあるけれど、決して不条理ではない。笑えて泣ける話でもある。
なんで、裸になってしまうの──と思う一方で、その過剰が、快い飛躍を提供している。からだ。
ふつうの映画──という言い方も変だが、ふつうはこんな風に飛躍しない。たんじゅん比較が適切とは思わないが、日本映画だったらなおさらである。
すなわち、男性に性的アピールをする、というもくろみが無ければ、女優は脱がない──わけである。が、この映画は映画的ダイナミズムを提供したのであって、男性客にサービスしたわけじゃない。このクリエイティビティの絶対的格差──がわかるだろうか。
その、裸になってしまうホームパーティーは映画のクライマックスというわけ──ではないのだが、想定外の楽しい飛躍で、みょうになまめかしくもあり、記憶に残っている。
つまり裸にサービスをもくろんでおらず、父娘世代間葛藤をテーマにかかげながら、セクシーな魅力をも提供し得ていた──わけである。映画的ダイナミズムとはそういうもんじゃなかろうか。──なんてね。
BBCの100選に入っていて、そうだよな、と思い、且つそうなんだ、と勉強になった──次第である。
2019年5月3日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
映画で声出して笑うの久しぶり。
痛々しくて身につまされて、こりゃ泣けるな!と思ったところで笑わせられっぱなし。
不器用で噛み合わなくて良いセリフも言えない。一発逆転の劇的な事も起きない。現実はそんなもんだよね。笑うしかないよなあ。
娘役の仏頂面がすごい。あとアンカが良い子でたまらん。
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