「鹿肉を生で食べるとB型肝炎の危険性があるのでマネしないでね。」哭声 コクソン TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
鹿肉を生で食べるとB型肝炎の危険性があるのでマネしないでね。
のどかな郊外の町、谷城(コクソン)で突如多発する猟奇殺人を巡る韓国発スピチュアル・スリラー。
本国で大ヒットし、昨年日本でも公開されたアクション・ホラー『破墓 パミョ』がオカルト全肯定だったのに対し、祈祷や霊的存在に懐疑の気配が見え隠れするのが本作の特徴。写真やカメラを重要な小道具として扱いつつ、心霊ホラーにありがちな映像が一切登場しない点もユニーク。
ナ・ホンジン監督(脚本も兼任)の他作品は拝見していないが、本作では疑心暗鬼に陥る人間の弱さや愚かさをホラー仕立てで表現。
噂を根拠に他者への攻撃性を発露する筋立ては国内の世相を反映しているのだろうが、日本人の新参者を犯罪者と決め付け徒党を組んで私刑に奔るエピソードは、規模は違えど関東大震災で多発した朝鮮人虐殺と同じ構図。公開時の本国での反応が知りたくなる。
謎多きまま物語は幕を閉じ、釈然としない点も多々残るが、幻覚作用の強い毒キノコがすべての元凶と解釈すれば、日本人が悪魔的に変容して教会の助祭イサムを惑わす場面も含め辻褄が合わなくもない。ゾンビものみたいに噛まれても何ともないのにも納得。
谷城の民家や山あいの光景がかつての日本の原風景を思い出させ、あらためて両国の近さを実感させる。
スプラッター表現が過多なのは難だが、自分のようなオカルト懐疑派にはちょうど良い作品かも。
『破墓』よりは断然面白かったが、動物虐待していないかちょっと心配。…と、ここまでレビューして『ほえる犬は噛まない』(2000)を思い出してしまった。黒いワンコ、鍋にされたりしてないでしょうね?!
胡散臭い高額請求の祈祷師を演じたのは、ファン・ジョンミン。韓国映画を観る機会が少なかった自分には『国際市場で逢いましょう』(2014)と『ベテラン』(2015)のイメージが強かったが、昨年拝見した『ソウルの春』(2023)や本作も含め多彩な役をこなせる名優として再認識。
最後まで正体不明の日本人を客演した國村隼は、韓国の権威ある青龍賞で助演男優賞と人気スター賞をW受賞。多慶多慶。
でも、何で彼なの?と考えた時、苗字を音読みするとタイトルと同じコクソンと発音するから…なんて理由じゃないと思うが、オープニングとエンドロールでは漢字でなくアルファベット表記に。
単に国内での漢字離れが影響しているだけだろうけど、JUNだとなんだかアイドルみたい。
BS松竹東急にて拝見。