劇場公開日 2017年1月7日

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人魚姫 : 映画評論・批評

2016年12月20日更新

2017年1月7日よりシネマート新宿ほかにてロードショー

「日本よ、これが映画だ」のコピーがふさわしい娯楽巨編。シンチー流「スプラッシュ」

われわれチャウ・シンチーを愛する者たちは、今が冬の時代であることを認めねばなるまい。少なくとも日本では「少林サッカー」「カンフー・ハッスル」で止まっている人が大半で、「ミラクル7号」や「西遊記 はじまりのはじまり」がいかに感涙の傑作かを力説しても、多くの人がスルーしてしまっているのが現状ではないか。

しかし香港が誇る“喜劇王”は凋落したわけでもなんでもない。むしろかつてない大成功を収めている。初めて監督業に徹した前作「西遊記 はじまりのはじまり」はその年の中国の興行ランキング1位になり、世界で2億1500万ドルを稼ぎ出した。そして最新作の「人魚姫」は中国の歴代興行記録を塗り替え、世界興収は5億5000万ドル超。ぶっちぎりのアジア映画史上最大のヒット作なのだ。

要するに日本の現状とは圧倒的な温度差がある。これ以上温度差が広がらないためにあえて大声を出すが、シンチーの新作「人魚姫」こそ「日本よ、これが映画だ」のコピーがふさわしい娯楽巨編なのである!

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美しい人魚と大富豪の恋物語。「西遊記」に続いて古風なモチーフを選んだようで、そのアレンジは相変わらず突拍子もない。自然保護区の海でひっそり暮らしていた人魚族はリゾート開発で海が埋め立てられると知る。彼らは開発推進の若き不動産王リウを暗殺するべく、一族で一番美しい娘シャンシャンを刺客として送り込む――。

随所にベタなドタバタやギャグをブッ込みながら、時折驚くほどロマンチストな顔を覗かせるのがシンチー映画の大原則。「ミラクル7号」がシンチー流の「E.T.」だったように、本作はシンチー流の「スプラッシュ」。童話的なラブファンタジーがやがて自然保護の警鐘メッセージにつながっていく展開を素直すぎると感じる人もいるだろうが、映画ってそもそも、正しいと信じられるテーマを堂々と大声で熱く叫ぶものではなかったか? シンチーは照れ屋でひねくれ者な作家性の反面、ここぞという時には一歩も引かない王道の映画監督でもあるのだ。

破天荒なラブコメという体裁を貫きながら、人間のダメさ加減を容赦なくえぐり、観客を安全地帯から引きずり出してなお大団円のフィナーレへと繋げてみせるシンチーは、おそらく「映画」が人の心を動かす力を真っ直ぐに信じている。最後にファンにとって嬉しいことに、ラム・ジーチョンティン・カイマンといったかつての常連たちが顔を出していることも付け加えておきたい。

村山章

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