「理性と生理の葛藤。グローバルなテーマ作品」羊の木 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
理性と生理の葛藤。グローバルなテーマ作品
ほんと吉田大八監督は、いい素材を選ぶし、その料理法も独自性があって、日本映画に新しさを感じさせてくれる。
「桐島、部活やめるってよ」(2012)では、日本アカデミー賞の最優秀作品をはじめとする三冠を獲得。続く、「紙の月」(2014)では、宮沢りえに最優秀主演女優賞をもたらし、昨年は、三島由紀夫のSF小説を映画化した「美しい星」(2017)が話題になった。
そんな吉田監督の新作は「羊の木」。主演に錦戸亮を迎え、同名コミックを原作とする異色のミステリーである。
オジサン、オバサンには"山上たつひこ(原案・原作)と"いがらしみきお(作画)"と聞いて、"えっ?"と思ったりするはず。「がきデカ」(1974~80)と「ぼのぼの」(1986~)の2大ギャグ漫画作家による、シリアス作品だからだ。
過疎化がすすむ港町の市役所が選択したのは、受刑者の仮出所に協力し、住居と就労先を用意して、"市民"として受け入れる国家制度だった。
何も知らない市役所職員の月末(つきすえ=錦戸亮)は、男女6人の受け入れ担当となる。個人情報保護という理由でそれぞれの経歴も明かされぬまま、月末や町の住民は生活を始めるが、やがて6人全員が元殺人犯であることが判明する。
この作品のオモシロさは、"コミュニティに異物を受け入れられるか"という、理性と生理の葛藤である。グローバルに見ると、"移民・難民問題"だったり、ミクロ的には大相撲のような村社会における外国人力士の制度もそうだ。(日本の国籍を取得しないと親方になれない等…)
この知的なテーマが分からないとしたら、ある意味、日本人ボケしている。
また、6人の元殺人犯役のキャスティングかいい。松田龍平をはじめ、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、水澤紳吾と、"吉田大八作品"のもとに実力派が揃った。それぞれの役作りが特異で、一般市民を跳ね返すほどの空気感を漂わせている。
そんな中で一般市民の代表として月末(つきすえ)を演じる錦戸亮が一貫してニュートラルな演技を保ち、6人とのコントラストが楽しめる。また、最近になってようやく存在感を認められ始めた、木村文乃が月末の同級生役として輝きを放つ。
結末もストーリーも、原作とは異なる吉田大八監督のオリジナルアレンジというところに、また驚く。
(2018/2/3 /ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ)