羊の木 : 映画評論・批評

メニュー

羊の木

劇場公開日 2018年2月3日
2018年1月23日更新 2018年2月3日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー

“異物”を排除する風潮に、寓話のかたちで果敢な異議申し立てを試みている

吉田大八監督の映画には独特の透明感と余白がある。余白とは主人公の内面に巣食う得体の知れない感情が吹き溜まっている貯蔵庫のようなもので、それがささいなきっかけで暴発し、ドラマはいきなり極点を迎える見立てだ。山上たつひこ+いがらしみきおの原作のマンガを映画化した本作では、架空の港町・魚深に六人の転入者がやってくる。彼らは全て殺人犯で、国家の極秘プロジェクトにより市が身元引受人となり、十年間の定住を条件に、刑期を縮小されて仮釈放された元受刑者たちである。受刑者同士の接触は厳禁、住民には知らされてはならない。

こうした一見、ディストピア風SFじみた設定ながら、極めてリアルな手触りを感じさせるのは、受け入れ担当を命じられた市役所職員の月末一(錦戸亮)の奇妙に能天気で明るい存在感によるものだ。常に柔和な笑みを浮かべながら仕事を遂行する錦戸は善良なる凡庸さそのもので、映画に涼やかな風を吹き込んでいる。

一方で、北村一輝優香市川実日子水澤紳吾田中泯松田龍平らの受刑者たちは、ある者は挙動不審で、ある者はふてぶてしく、ある者はなにものかに怯え、ある者はニンフォマニアック(色情狂)のようであり、それぞれがどこか大いなる空虚、欠落を抱えこんでしまっている。主人公であるはずの錦戸は透明化し、むしろ狂言回しとなって、この六人の内に潜む狂気を静かに発酵させる役割を果たしていると言えようか。

画像1

小さな町の平穏な日常は、ある日、殴打による殺人事件が起こって一挙に不穏な空気に包まれる。誰が犯人なのか。六人のなかでもっとも影が薄い市川実日子は拾ってきた「羊の木」の絵が描かれた缶をアパートの入り口に掛けている。何度かインサートされるこの不気味な絵はどこか中世の宗教画を思わせるが、魚深の町でも禁忌の神を祀る“のろろ祭り”が行われ、酒乱の水澤紳吾が凶暴さを露わにするなど、それぞれの日常に亀裂が走る。この夜、白装束の男たちが魚深の町を練り歩くシーンは、この映画の中でもっとも禍々しい美しさをたたえており忘れがたい印象を残す。

映画は魚深に祀られている巨大神“のろろ”の伝説を忠実になぞるような意想外な結末を迎える。仄かな曙光を感じさせるラストは、移民問題をテーマにしたアキ・カウリスマキの「希望のかなた」と後味が似ている。「羊の木」も、“異物”を排除する風潮に、寓話のかたちで果敢な異議申し立てを試みているのだ。

高崎俊夫

関連コンテンツ

インタビュー

錦戸亮×吉田大八監督、現場で築き上げた信頼関係
インタビュー

目の前にいる人を疑うか、信じるか。人間が肌で感じる拒絶や許容を、繊細な心理描写で描き出した「羊の木」が、2月3日に公開される。6人の元殺人犯という強烈なキャラクターを相手に、“受け”の芝居を貫いた主演の錦戸亮と、そんな錦戸の感情の機微...インタビュー

関連ニュース

関連ニュース

フォトギャラリー

DVD・ブルーレイ

全開ガール ~ディレクターズカット~ Blu-ray BOX[Blu-ray/ブルーレイ] オルトロスの犬 DVD-BOX[DVD] 1リットルの涙 DVD-BOX[DVD] 流星の絆 Blu-ray BOX[Blu-ray/ブルーレイ]
全開ガール ~ディレクターズカット~ Blu-ray BOX[Blu-ray/ブルーレイ] オルトロスの犬 DVD-BOX[DVD] 1リットルの涙 DVD-BOX[DVD] 流星の絆 Blu-ray BOX[Blu-ray/ブルーレイ]
発売日:2012年1月18日 最安価格: ¥21,319 発売日:2010年1月27日 最安価格: ¥16,927 発売日:2006年4月26日 最安価格: ¥15,937 発売日:2015年7月22日 最安価格: ¥17,740
Powered by 価格.com

映画レビュー

平均評価
3.3 3.3 (全190件)
  • すべての映画レビュー
  • 映画レビューを書く
このページの先頭へ

最近チェックした履歴

映画の検索履歴

他の映画を探す

映画館の検索履歴

他の映画館を探す

特別企画

新作映画評論

  • レディ・バード レディ・バード “インディ映画の女王”の青春映画は、フレッシュでモダンな感覚がきらめく
  • ゲティ家の身代金 ゲティ家の身代金 巨匠リドリー・スコットが暴く、エイリアンよりも禍々しき大富豪の実像
  • 海を駆ける 海を駆ける 清々しい希望と、静かに迫る不吉で恐ろしい何か。深田監督の集大成的な作品
新作映画評論の一覧を見る
Jobnavi