「プロフェッショナル魂を描いた凡作」ハドソン川の奇跡 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
プロフェッショナル魂を描いた凡作
2009年1月15日、ニューヨーク・ラガーディア空港を離陸したエアバス機は、バードストライクに見舞われ、両のエンジンが停止してしまう。
高度不足のため、空港に引き返すのは無理と判断した機長のサリー(トム・ハンクス)は、ハドソン川に不時着水することを決意。
その判断により全乗員乗客の命を救うことができた。
しかし、事故調査委員会は空港に引き返す、または近隣空港への緊急着陸が可能であったはずと判断する・・・
というハナシで、実話の映画化。
映画は、事故後の調査員会直前、サリーが事故の夢、それも緊急着陸失敗して惨事を招く悪夢をみるところから始まる。
そして、事故調査委員会への審問となだれ込み、事故時の様子がなかなか描かれない。
この出だしは、上手い。
航空機の事故を扱った映画(パニック映画)だと、事故前の乗員乗客の人生模様が延々と描かれ、退屈したところで事故発生!となるのだけれど、そうしなかったは正解。
中盤で描かれる事故の様子は短い(事故発生から着水まで208秒)ながらも、イーストウッドは的確に描いており、緊迫感がある。
しかしながら、いかにも脚本が弱い。
事故調査委員会が、全員の命を救ったにもかかわらずサリーの行為を敵視する理由がほとんど描かれず、ただの間抜けにしかみえない。
また、クライマックスの公聴会でも、糾弾する側の論理が弱いので、サリーおよび副操縦士(アーロン・エッカート)が窮地に追い込まれたように、まるで見えない。
さらに、公聴会で機長室内の録音音声を披歴するシーンは、音声を聞く側の様子が全く映し出されない。
このシーンは、たしかに、前代未聞の航空機事故に陥った操縦室においても、冷静沈着な行動をとったサリー機長と副操縦士を称えるところであるが、映画的には彼らの行動は中盤で描かれているので、繰り返し描く必要はなかったように思う。
まぁ、英雄行動のプロフェッショナル魂を的確に描いた映画ではあるが、脚本の凡庸さはイーストウッドをもってしても補いきれなかった、といえよう。