劇場公開日 2016年9月24日

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ハドソン川の奇跡 : 映画評論・批評

2016年9月20日更新

2016年9月24日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー

機長は英雄か、犯罪者か? 老成してなお鋭さを増すイーストウッドの演出力

映画からしかモノを学ばないダメな自分は「BRAVE HEARTS 海猿」(12)を観て、旅客機が緊急着陸するさい、着水こそが被害を最小限に食い止める安全策だと思っていた(同作では数人しか犠牲者が出ない)。しかし原作では乗客500人のうち半数近くが亡くなる、最悪の事故として描かれていたことに驚かされる。現実のケースと照らし合わせても、飛行機の胴体着陸はいずれも多くの死傷者を出している。だからこそ、7年前のUSエアウェイズ便不時着水は「奇跡」だったのだ。

ミリオンダラー・ベイビー」(04)で史上最高齢でのアカデミー監督賞を受賞し、今やハリウッドにおいて「至高の作家」と呼ぶにふさわしいクリント・イーストウッド。前の「アメリカン・スナイパー」(14)から2年を待たずして発表された本作は、2009年、エアバスA320旅客機がニューヨークのハドソン川に不時着水し、155人の乗客全員が無事生還した航空機事故を題材としている。こう記すと美談めいたものを想像するだろうが、前例のない偉業をおこなったことから、調査委員は「事故は操縦者の過失によるものでは?」とサリー機長(トム・ハンクス)に疑惑の目を向け、展開を意外な方向へと傾ける。

機長は乗客の命を救ったのか、それとも危険にさらしたのかーー? 映画はこれらを争点とする調査委員の審問を軸に、事故当時の状況と、サリーの心的葛藤を克明にしていく。時系列ではなく、機長のフラッシュバックによって事故の記憶を呼び覚ます錯時的な構成をとり、普通に取り組めば2時間以上を要するであろう情報量のものを、96分とコンパクトにまとめている。また事故の模様と調査の過程を交互させ、物語は同時にサリーの熟練した操縦技術と、職務に対して強い責任感を持つ人物像を浮き彫りにする。

人間ドラマとしても相当量の力を放つが、「アメリカン・スナイパー」では銃弾の視点から標的に迫るカメラワークを見せるなど、娯楽を第一義とするイーストウッドの巨匠らしからぬサービス精神もたくましい。6KカメラをIMAX用にカスタマイズした新型HDカメラ「Alexa IMAX」を用いた、緊急着水の迫真に満ちた描写。加えて常時サリーを襲う、判断を誤りマンハッタンに突っ込む凄惨な幻像や、状況次第で英雄が犯罪者になりかねない、こうした機長を苛む要素をねちっこく捉え、観る者の心拍数を高める。実際の事故を扱っているので、結末は分かっているはずなのに、それでもみなぎる緊張感。御年86歳、その演出力は老成して枯れるどころか、ますます鋭さを増すばかりだ。

尾崎一男

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