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本作を退屈に感じるかどうかは人それぞれですが、少なくとも環境映像として素晴らしく(笑、また物語の構成も、カメラアングルを通じての「対称性」が一貫して保たれていて、構造的にも美しいものになっています。ホラー要素となっているのは「改造」(=外側から自分が自分でなくなること)への恐怖です。しかし、本作は 「SF作品」として捉えた方が分かりやすいように思われます。
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【本作に繰り返し現れる対称性】
1) 対象を「上」から見下ろす視点と「下」から見上げる視点。主人公ニコルの海中遊泳シーンでも医療手術室での改造シーンでもそれが繰り返し見て取れます。
2) 開放的な海と閉塞的な手術室、それらが対照的であり対称的です。太陽光と手術室の照明、ヒトデと照明も(構造的に)対照的であり対称的。
2) 男の子供だけ、女性の大人だけという島の住人は、「男女」という対称性を示していますが、より深いレベルで重要と思われるのが、「雌雄」の対称性です。
3) 【小問】男女と雌雄とでどう違うのか? (生殖という視点では同じではないのか?)【小答】本作品テーマのメタファーである「ヒトデ」は、その生殖で、有性生殖と無性生殖の2つの手段を持ち合わせています。ヒトデの有性生殖はかなり特徴的で、多数の卵子と多数の精子による「対外受精」です、そして同時に「対外受卵」です。(←受精と受卵の対称性)
4)(続き)男女という言葉から一般にイメージされる有性生殖のイメージとは全く違っていて、雌雄という生物学的な捉え方が要ります。(←雌雄の対称性)島の男の子達と島の大人の女性達は、男女でなく「雌雄異性体」で、男の子達が精子、大人の女性達が卵子に相当する、という捉え方になってきます。
《まとめ》SF設定になっています。★
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【ピタゴラスの星型五芒星。ヒトデとステラ】
1) ヒトデだけでなく、主人公ニコルを導く看護師の名前が「ステラ」なので、「星」が暗喩されていることは明らかと言えるでしょう。
2) 星の象徴的意味を考えた時、幾つかのパターンがありますが、筆頭はピタゴラスの星型五芒星。その意味は、地水火風の四大元素+イデア(第5元素)。(←仏教での空に対応) つまり「完全」を意味します。(数5自体がピタゴラス教団の「聖数」です。)
3) タロットの場合だと、一般的には「希望」を意味しますが、より正確には地上の出来事の先行きへの「予兆」です。(←星に対応する大アルカナの意味)
4) 数論では「全ての自然数は5個以下の5角数で表される」(証明はフェルマー)。個人的には数論での5の性質が一番面白い。
《まとめ》星型が隠喩するのは完全性。本作での世界は自己完結しているという意味で完全です。★
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【結末が意味するものは?】
・ 海を「羊水」、船による脱出は「出産」に準(なぞら)えることができそうです。
・ 視点を変えるとそれは、完全な世界からの脱出です。
・ 看護師ステラがなぜ主人公ニコルを助けたのか? 母性的な愛情を感じたから、という捉え方もできますが、閉じた完全な世界に飽き飽きして、不完全であっても開かれた世界に憧れていたから、という捉え方もできそうです。(仏教だと、閉ざされた繰り返しの世界=ループからの脱出を「解脱」と表現しています。)
《まとめ》おそらくは完全な世界からの脱出です。★
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【本作エヴォリューションのその先は?】
・ 人間の遺伝子の分子進化をテーマにしたブライアン・サイクスの一連の著作、特に「アダムの呪い」@2004によると、男性の「Y染色体」の経年劣化が著しく、その存続は5-10万年のオーダーで危ぶまれている。(←男子だけ滅亡シナリオ)
・ 5-10万年というのは長いようであっても人類史700万年と比べるとかなり短い。50億年後に太陽が燃え尽きることや、2~3億年後にプレート移動の結果として全種に及ぶ大量絶滅が起き得ること等が科学的に予想できますが、それらに比べるとすぐ目の前。
・ そうなる場合、本作では男の子達のいない世界に入りますが、その場合、ヒトデの「無性生殖」というもう1つの選択肢で種の存続を図るということになりそうです。
《まとめ》Y染色体の著しい劣化は科学的事実ですが、エヴォリューションの世界は存続できそうです。★