劇場公開日 2016年4月16日

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グランドフィナーレ : 映画評論・批評

2016年4月5日更新

2016年4月16日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー

音楽と映像がドラマチックなアンサンブルを奏でる、贅沢な映画体験

主人公のフレッド(マイケル・ケイン)は、スイス・アルプスの高級リゾートホテルで余生を過ごす80歳の音楽家。彼を筆頭に、ホテルに集う人々には共通点がある。それは、栄光を極めた人間であることだ。フレッドの親友の映画監督ミック(ハーベイ・カイテル)しかり、ロボット映画で名声を築いたハリウッド・スターのジミー(ポール・ダノ)しかり。マラドーナそっくりのサッカー界のカリスマや、世界一の美女の称号を手に入れたミス・ユニバースも同じだ。

彼らは過去の栄光によって世間に記憶されていると同時に、その栄光に苦しめられてもいる。創作意欲はあっても黄金時代のような傑作が作れないミック。イメチェンに苦心するジミー。そして、不朽の名曲「シンプル・ソング」の作曲者として栄光を極めたフレッドは、「シンプル・ソング」の再演を封印することで、絶頂期の自分と自分が愛したものを永遠に凍結する道を選ぶ。

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パオロ・ソレンティーノ監督が題材に選んだのは、そんな彼らの「山の降り方」だ。山も人生も、登るより降りるほうが難しい。その事実に直面している登場人物たちは、人生の頂上でつかんだ栄光の重荷にあえぎながら、黄昏時にもう一度輝きを放てるような下山の方法を模索する。その途上で力尽きる者もいれば、飛び降りてしまう者もいる。果たしてフレッドはどんな方法を見出すのか?

舞台となったアルプスのホテルは、トーマス・マンが「魔の山」を書いた場所。劇中、このホテルを発ったフレッドは、マンの中編「ベニスに死す」の舞台ベネチアを訪れる。「魔の山」の映画化を熱望しながら「ベニスに死す」を映画化したのはルキノ・ビスコンティ監督だが、この映画はオペラ的な味わいにおいてもビスコンティとつながっているように感じられる。とりわけ、音楽と映像がドラマチックなアンサンブルを奏でるのは、終幕。一体化した音と映像がうねりとなり、フレッドの魂が解放に導かれていく過程を体感させる。贅沢な映画体験だ。

矢崎由紀子

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