ヴィジット : 映画評論・批評
2015年10月20日更新
2015年10月23日よりTOHOシネマズみゆき座ほかにてロードショー
無邪気な好奇心に満ちた眼差しで紡がれるシャマラン流の恐怖メルヘン
何らかの創作活動に携わるアーティストなら、誰もが我が身につきまとう“しがらみ”だの“レッテル”を全部振り払い、好きなことを自由に表現したい願望を抱いているに違いない。とはいえ世界的な名声を確立した映画監督が、過去のキャリアをいったんリセットするような選択をするのは容易でないが、M・ナイト・シャマランはそれをあっさりやってのけてみせた。そう、彼の最新作「ヴィジット」は、「エアベンダー」「アフター・アース」という近年のメジャー大作路線から一転、ホームタウンのペンシルベニアで私財を投じて完成させた“インディーズ映画”なのである。
15歳と13歳の姉弟が親元を離れ、初めて訪れた祖父母の田舎屋敷で見聞きする奇々怪々な出来事。まずシャマランが今さらP.O.V.映画を撮ったことに驚きつつも、映画監督志望の少女の目線による一人称映像がやけに生き生きとしていることに気づかされる。その子供ならではの好奇心に満ちた眼差しには、スタジオのプレッシャーから解き放たれ、童心にかえったかのように恐怖のメルヘンを紡ぐシャマランの無邪気さが反映されている。
そんな好奇心にじわじわと“脅え”が入り混じってくる子供の眼差しと相まって、シャマランお得意の閉所での空間演出が絶妙のスリルを生み出している点も見逃せない。真夜中に聞こえてくる不審な物音や祖父母の不可解な行動を確かめようとする姉弟が、おそるおそるドアを開けたり、窓の外を覗いたりするたびに、私たちの想像を超えた“何か”が映し出される。あからさまな「サイコ」へのオマージュも盛り込まれ、まさにやりたい放題。それでいて自己満足に陥らず、観客を楽しませることを忘れないプロフェッショナルな作品にきっちり仕上げていることも頼もしい。
というわけで今回のシャマランはハラハラ&ドキドキ満載なのだが、あまりにも強烈なサプライズゆえに“ゲラゲラ”を呼び起こす不条理ユーモアも冴えまくっていることも書き添えておきたい。これは以前のシャマラン作品の深刻なトーンとはかけ離れ、摩訶不思議な楽天性が息づき、観ているこちらまで無邪気になれる恐怖映画なのであった。
(高橋諭治)