劇場公開日 2015年4月11日

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マジック・イン・ムーンライト : 映画評論・批評

2015年3月31日更新

2015年4月11日より新宿ピカデリーほかにてロードショー

イリュージョンにも似た恋の本質を軽妙に描くスクリューボール・コメディ

女は、霊界との交信を売りにするアメリカ人の占い師。男は、女のイカサマを暴く目的で接近した英国人の魔術師。天敵の関係にある風変りな男女が喧嘩しながら恋に落ちていくストーリーラインは、1930~40年代にハリウッドでよく作られたスクリューボール・コメディを踏襲している。ウッディ・アレン監督作の中では、催眠術にかけられた天敵男女の恋を描いた「スコルピオンの恋まじない」にノリが近い作品だ。

映画を面白くしているのは、コリン・ファース扮する魔術師スタンリーのキャラのねじれっぷり。ステージに立つときはメイクとコスチュームで中国人奇術師のウェイ・リン・スーを装い、占い師のソフィ(エマ・ストーン)に接近するときはタップリンジャーという名の実業家を装う。別人格の鎧をまとい、自分の周囲にイリュージョンを作りあげて生きているスタンリーは、世の中もまやかしに満ちていると考えている懐疑主義者だ。そんな彼が、ソフィにスピリチュアル・パワーがあると信じ始めたとたん、よじれた縄がスルスルとほどけていくように素直な男に変貌する。その過程を、軽妙に演じるファースが実にチャーミングだ。

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やがてスタンリーの胸にはソフィへの恋心が芽生えていく。それは彼が何かを無条件で信じる経験をしたから。そこにアレンは恋愛の本質を見出している。そう、恋愛とは思い込みの産物。誰かを好きになる気持ちは、イリュージョンや降霊術を本物だと思い込む気持ちと変わりない。だからガードを下げて、マジシャンにだまされるように恋愛を楽しみなさいと、この映画のアレンは語りかけてくる。

スタンリーとソフィがドライブ・デートする場面に、同じく南仏を舞台にした「泥棒成金」のオマージュが感じたられたり、2人が天文台で雨宿りする場面が「マンハッタン」のプラネタリウムの雨宿りを思い起こさせたり。映画ファンの心をくすぐる遊びも楽しい。

矢崎由紀子

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