この作品では、八千草薫演じる主人公の市子と言う年配の女性が、そろそろ一人暮らしを続けるのは困難になってきた為に、老人ホームへ越す事を考える。
しかしその前に、疎開していた少女時代の思い出の町を訪ねて、人生を振り返ると言うお話だ。
市子の子供時代の1940年代、その頃は戦争の真っ只中、みんなが大貧乏の時代で、疎開生活では苦労をして育つ市子。
だが、そんな市子にも、決して辛い思い出ばかりではなく、淡い恋心を抱いていた少年との楽しい思い出の日々が有った。
そしてその少年は、後に有名な画家となり、市子と過ごした幼い思い出の日々の生活を作品として、その画家は残していた。
この画家、謙一郎を仲代達也が演じている。
八千草薫、仲代達也、共に我が国を今では代表する大御所俳優、その二人が演じる世界感には申し分がない。
けれども、市子が謙一郎と再会する迄の数日のエピソードも描かれているのだが、せっかちな私には、どうにもその過程が退屈で長すぎるように感じられたので、早く2人が再会出来れば良いのにと気になって、そこへ辿り着く迄の過程が間延びしていて、正直イライラが募ってしまった。
きっと作者は、その市子のゆっくりと流れる時間を丁寧に描き出す事で、市子の生きる世界と、息子進を風間トオルが演じているが、その息子の生きる生活との相違点を描いていたのだろう。
人生100年時代と言われる現在の日本。人々がどの様な晩年期を過ごすのかが問われる時代でもある。
これまでは、息子進との会話も多くはなかったようだけれども、この2人の間に流れる親子愛を通じて、今の日本が高齢化社会を迎える事で直面している家族の有り方を描いている本作。
静かな語りと、流れ出る清水のような市子の思い出の日々を振り返る語らいが、一つのこれからの日本の家族の有り方、親子の絆を表わす穏やかな作品だと思う。
私自身、今年母と死別したが、私は本作の進と市子の様な語らいの時を過ごす事が少なかった自己の現実生活を振り返り、やはり残念に思う。
そして最後に、本作のタイトルでも有る、「ゆずり葉」について語られる下りがある。
私は、正直前半は、歯切れが悪く、中々この作品の主人公に感情移入する事が出来ないでいたが、後半になると、すっかり市子の世界に浸る事になった。
この作品を通して今の日本の家族の有り方、そして晩年の暮らしをどの様に過ごすべきなのか?
日々時間に追われる生活で、自分の家族との有り方を考える時間が少ない世代の人達には、今一度これからの日々を考え直すには、良い機会を与えてくれる作品だったと思う。