劇場公開日 2014年12月20日

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マップ・トゥ・ザ・スターズ : インタビュー

2014年12月17日更新
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デビッド・クローネンバーグが描くハリウッドは「ファンタジーではない」

ハリウッドを舞台にした映画は少なくない。古くはビリー・ワイルダーの「サンセット大通り」からコーエン兄弟の「バートン・フィンク」、ロバート・アルトマンの「ザ・プレイヤー」、デビッド・リンチの「マルホランド・ドライブ」など。だが、デビッド・クローネンバーグの新作ほどシニカルで、残酷な作品があっただろうか。もはやこれはブラックユーモアなどという次元ではなく、病的で背筋が寒くなるような、人間的な感覚の麻痺した世界だ。「マップ・トゥ・ザ・スターズ」は、実際にハリウッドで運転手をしていた小説家ブルース・ワグナーの脚本をもとに、クローネンバーグらしい冷徹さでリアリスティックに映画化した。これまで何度も資金難で企画を断念したことのあるクローネンバーグが、ハリウッドに対する怨念を晴らした作品とも思われているが、本人にその胸の内を語ってもらった。(取材・文/佐藤久理子)

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子役スターを持つセレブのセラピストの父親(ジョン・キューザック)、そのクライアントで若くして死んだ母親に対する強迫観念に取り付かれた峠を過ぎた二世女優(ジュリアン・ムーア)、その女優のアシスタントになる、顔に火傷のあとのある若い女性(ミア・ワシコウスカ)、リムジンの運転手(ロバート・パティンソン)らの複雑な人間模様が織りなすドラマを描く。

「ここに描かれているのはあくまで脚本家であるブルースのハリウッドに対するビジョンだ。私自身はそれほどハリウッドに対して強迫観念を抱いていないし、とくに嫌っているわけでもない(笑)。ハリウッドについての映画を作りたいと思っていたわけでもなかった。でもブルースの脚本を読んで、とても悲惨で美しく、パワフルなストーリーで、ぜひ映画化したいと思った。この映画に描かれるハリウッドはファンタジーではない。ブルースはわたしに、すべてのセリフは彼が実際に耳にしたことのあるものだと語った。彼は多くの俳優やスタジオの連中を知っているからね。もちろん映画のなかではものごとが凝縮され、特殊な雰囲気のなかで描かれているわけだが、それはあくまでリアルなことなんだ」

たとえば映画には、ドラッグ中毒から立ち直った13歳の子役ベンジーが登場するが、監督はこんな秘話を明かしてくれた。「子役出身のジョン(・キューザック)はわたしに、『僕はベンジーだった』と語ってくれたよ。だからベンジーの気持ちがよくわかると。ジョンはハリウッドを病的なところと見なしていて、いまは自分の出身地のシカゴに住んでいる。ハリウッドが純粋な人々にとっていかに危険なところになり得るか。たとえばこの映画でロバート(・パティンソン)が演じている、ナイーブな運転手がその例だ。彼は後ろにスターを乗せていて、もし彼らとコンタクトを持てれば、彼もまたセレブになれるかもしれない。だから幻想を抱いてしまう。実際どこにいってもスターばかりのハリウッドでは、それは珍しいことではない」

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前作「コズモポリス」から続投したパティンソン、本作の演技でカンヌ映画祭の最優秀女優賞を受賞したほか、ゴールデングローブ賞にもノミネートされたムーアについてはこう語る。「ロバートは『コズモポリス』のときに、映画を自分が担うようなメインのキャラクターをいまは演じたくない、と語っていた。一緒に仕事をして素晴らしい俳優だと実感したから、今回の運転手役には彼がベストだと思った。とても繊細で美しい演技を見せてくれたよ。ジュリアンに関しては、この企画を思いついた8年前にすでに彼女にやって欲しくて打診していた。残念ながら当時は予算が集まらず時間が経ってしまったが、幸運なことにつねに興味を持っていてくれた。だから今回、彼女の年齢に合わせて多少書き換え、携帯電話やソーシャルネットワークなどの現代的な要素も付け加えた」

現在71歳。その揺るぎない姿勢で、まるで顕微鏡で人間を観察するかのように仔細に人間心理を描写し続ける巨匠は、そんな監督としてのあり方をこう語る。「私には、ものごとのダークサイドを見る傾向があるのはたしかだ。でもそれは、普段の生活では見ないような部分に映画のなかで光を当てたいという、欲求や好奇心に拠る。それは人間という存在をより深く探求することであり、それをドラマチックなシチュエーションのなかで実践するのは、この上なくエキサイティングだと思う」

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