スペインのとある町で仕立て屋を営む真面目で優秀な男。
しかし彼には人に知られてはならない秘密がある。
気に入った女性は食さずにはいられない。彼にはカリバリズムの嗜好があった。
ある日、同じアパートに住む女性が失踪し、その姉が妹を探しにやってくる。
男は女性に興味を持つが、どこかいつもと勝手が違う。男は何かを感じ始めていた。
今まで持ち得なかった女性への感情。それは"愛"なのか"欲"なのか。
タイトルとジャケット写真で興味を持って観てみました。
その時は、官能的なカリバリズムの映画なのかなと思っていましたが、
思ったよりも淡々と進んでいく愛の物語でした。
全体的に映像が美しく、世界観はちゃんとしている作品です。
特に女性を解体する作業場のシーンは、カリバリズムをテーマとした作品としては美を重視した作りになっています。
女性への扱いにある種の"愛"を感じさせます。
彼の場合はそれが食への愛だという点が、他の男と違っている部分です。
仕立て屋のシーンでは、主人公の普段の性格や人柄を表現しながらも、生地や仕立ての美しさも表現しています。
個人的に残念だったのは、カリバリズムという行為そのものはあまり重視されていない点です。
あくまで主人公の特異な部分という描き方で、"女性を愛せない男性"という意味合いを強めているだけです。
別にカリバリズムでなくても、心に深い傷や闇を抱えている男性という設定であれば成り立ってしまう作品です。
特に気になったのは、女性を手に入れる方法です。主人公、馬鹿過ぎます。
女性を引きずって道路に血痕べったり残しながら自分の車に運ぶとか、ターゲットの女性を見失うとか適当過ぎます。
これで何人もの女性を殺害してきたというのは、スペイン警察の不甲斐なさしか感じさせません。
また、調理についても疑問です。何で調理法が焼くだけなの?部位とか色々あるでしょ?しかも肉しか食わないし。
素材の味を~ってのは分かりますが、さすがに質素過ぎます。
家のキッチンの壁に様々な種類の調理用ナイフが掛かってますが、肉は作業場で食べるサイズに切り分けて自宅の冷蔵庫にも保管してあるのに、
何でキッチンにそんな沢山のナイフが必要なの?付け合わせとか無いじゃない。何に使うの?
カリバリズムの雰囲気を出したいのは分かりますが、適当過ぎです。
作品の雰囲気を重視して、主人公にハッキリとした殺害シーンを演じさせなかったのもつまらない。
カリバリズムというか、殺人そのものを希薄なものに描いて主人公の罪深さを軽減しています。
そして、途中に宗教的な要素を入れてそれを補っている(殺人的な表現ではなく、神を表現する事で罪深さを演出している)のですが、ちょっと弱い印象です。
ラストのマリア像には途中で描かれるマントが羽織られているのですが、それを見て涙する主人公というのもイマイチでした。
男性と作品の叙情的な要素を重視するあまり、タイトル負けした感があります。