ファーナス 訣別の朝 : 映画評論・批評
2014年9月24日更新
2014年9月27日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
アメリカに見捨てられた男たちの魂の叫び
映画に軽量級と重量級があるとしたら、タイトルの通り(「ファーナス」は金属の溶鉱炉のこと)これは間違いなく超重量級の作品である。ウッディ・ハレルソン演じる本作の「悪役」がドライブインシアターの上映中にデート相手や他の客とモメごとを起こす冒頭のシーンから、ただならぬ緊張感がスクリーン全体に漂い、その緊張感はラストシーンまで一瞬も途絶えることがない。ここで参照されているのは、70年代のアメリカ映画を代表するいくつかの作品だ。ペンシルバニアの田舎町、ケイシー・アフレック演じる主人公の弟が退役軍人といった設定や、そのものズバリの鹿狩りシーンから「ディア・ハンター」を思い起こす人も多いだろうし、物語の構造は「わらの犬」や「狼よさらば」に代表される典型的なビジランテ映画(復讐もの)である。序盤、主人公行きつけのバーのテレビではアメリカの変革を訴えるオバマの選挙運動が報じられているが、これは70年代からずっと変わらなかった/変われなかったアメリカについての映画なのだ。
長編第1作「クレイジー・ハート」でジェフ・ブリッジスにオスカー主演男優賞をもたらすなど、いきなり大きな成功を収めたスコット・クーパー監督は、2作目の本作までたっぷりと5年近くの時間を費やした。その最大の原因は、「ダークナイト・ライジング」の撮影が終わるまで丸1年クランクインを遅らせて、主演のクリスチャン・ベールのスケジュールが空くのを待ったからだという。作品ごとに自身の肉体と精神をとことん追い込むことで知られているベールは、そんな監督の期待に応えて、いつにも増して異様な集中力と強度で、感情を押し殺し続ける主人公を熱演している。
ここまで読んで「きっと男くさい映画なんだろうな」と思ったあなたは正しい。確かに本作は本年度屈指の男くさい映画である。一方で海外のサイトを見ると、多くの観客が橋の上での主人公と元恋人の切なすぎるシーンの素晴らしさに言及している。他でもない、自分もそのシーンでは主人公に感情移入してボロボロと泣いてしまった。これ以上なく男くさく、これ以上なくエモーショナル。骨の髄までズッシリと響く映画を観たい人には、全力でオススメします。
(宇野維正)