エヴァの告白 : 映画評論・批評
2014年2月10日更新
2014年2月14日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほかにてロードショー
結局は男の悲劇を描いていた、ジェームズ・グレイ初の女性映画
原題は「The Immigrant/移民」。新天地アメリカに夢を託してやってきた人が、その夢に裏切られ、現実との狭間でもがく姿をみつめてきた監督ジェームズ・グレイがまさに自身の核心に他ならないテーマを掲げた意欲作だ。
そんな一作はまた邦題に名を刻むエヴァというヒロインをめぐるメロドラマ、グレイ初の”女性映画“としても見逃せない。サイレント映画のスターそのままに、台詞なしでも物いう顔の持ち主と女優マリオン・コティヤールを絶賛するグレイが彼女を想定して書いたというヒロイン。コティヤールの眼差しの磁力を味方につけて映画は、降りかかる悲惨な定めを前になお、卑屈を寄せつけようとしない存在の、生への意志の気高さが無残な世界をしぶとく照らす一筋の光となっていく様を無駄口叩かずすくいとる。そのヒロインをめぐるふたりの男。従弟同士の確執がさらなる悲劇と結ばれる構図は長編デビュー作「リトルオデッサ」の兄弟以下、「裏切り者」「アンダーカヴァー」とグレイならではの物語を射抜いてみせる。そうしてその点に目をすえると初めてのヒロインの映画と思われた本作でも変わらず“男の映画”を撮りあげていく監督グレイの好ましい頑なさがじわじわと迫ってこずにはいないのだ。
コンビ4作目となるホアキン・フェニックスとの相性のよさもそうした頑固さ、ハリウッドの今や主流とあくまで距離をとる姿勢と無縁ではないだろう。ヒロインをどん底に落とすポン引きの一目ぼれの恋。1930~50年代のスターと通じるルックの成熟と、裏腹に垣間見える子供らしい痛みとでフェニックスがかたどるそんな男の純情は、新しさの神話などに見向きもしない監督との信頼に裏打ちされて、古典の美質をまんまと差し出していく。
(川口敦子)