バルフィ!人生に唄えば : 映画評論・批評
2014年8月19日更新
2014年8月22日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿シネマカリテほかにてロードショー
聾唖でも自由なバルフィの「心の声」が、名作映画へのオマージュで彩られ魅力的!
風光明媚な街、ダージリンの1970年代。バルフィは生まれつきの聾唖者だが、とても陽気で街の人気者。ある日、避暑のためダージリンを訪れた美女シュルティと知り合い、恋に落ちる。しかし、彼女には婚約者がいて、バルフィは失恋する。
そんな折、バルフィの父が病気に倒れてしまう。バルフィは治療費を工面するため、父が働く家の娘ジルミルを誘拐し、警察に追いかけられることになる。強度の自閉症で長年施設に預けられていたジルミルは、心の優しいバルフィに惹かれていく……。
主人公2人が障害者のため台詞が少なく、その上、ダンスシーンもほぼない。しかし、主役2人の卓越した演技力と、随所に流れるタンゴ~ボサノヴァ調の歌が、2人の心の声を雄弁に物語っている。
バルフィを演じるランビール・カプールはボリウッド映画界で最も有名な映画ファミリー「カプール家」の第4世代。ダンスや演技には定評があり、次々とヒット作を生み出している。この映画ではチャップリンの「街の灯」、「キートンの警官騒動」といった無声映画、そのほか「雨に唄えば」や「菊次郎の夏」など名作映画へのオマージュに満ちたパントマイムを行い、サラブレッド俳優の面目躍如である。
ジルミルを演じるプリヤンカー・チョープラーは2000年のミスワールド出身で、現在、最も輝いているボリウッド女優。セクシーな美女役にとどまらず、汚れ役から1人12役など、これまでのボリウッド女優の枠を超えた役に積極的に挑んできた。
言葉が話せなくとも、表情と身体で心を伝えられ、自由なバルフィと、その自由を愛しながらも、世間体や両親のためにそれを選べなかったシルティ、そして、心は幼い少女のまま大人になったジルミル。この映画のテーマは「心の声を聞く」ということに尽きる。
最後に、ダージリンの町をまるでジャン=ピエール・ジュネ監督やウェス・アンダーソン監督の映画に出てくるようなドリーミーな場所として描いたアヌラーグ・バス監督の手腕にも触れておこう。
「バルフィ!人生に唄えば」は、「マダム・イン・ニューヨーク」と「めぐり逢わせのお弁当」でインド映画に対する食わず嫌いがなくなった人はもちろん、絶世の美女2人を見たい人、知られざるインド東北部の絶景を見たい人も必見だ。
(サラーム海上)