劇場公開日 2013年8月31日

悪いやつら : 映画評論・批評

2013年8月27日更新

2013年8月31日よりシネマート新宿ほかにてロードショー

チェ・ミンシクの酔っぱらい演技は余人の及ばぬ境地である

画像1

冒頭、韓国プサン港の税関の検査シーンで袖の下=わいろを受け取るときの、チェ・イクション(チェ・ミンシク)の演技が相変わらずわかりやすく饒舌、巧い。魚の餌とか何とか偽って、高麗人参を輸出する男を問い詰めながら、その男が実は上司の知り合いとわかり、これでお情けをとお金を渡そうとすると、いや、困ったな、それは……とか言う前にチェ・ミンシクはジャンパーをはだけて内ポケット=袖の下を示しているのである。この自然体、公務員の鑑? ではないか。

しかし、そんなチェ・ミンシクも検察が査察に入ったとき、誰かが責任をとらなくてはいけなくなり、扶養者の人数(!)で敗北、一人詰め腹を切らされることになる。このズルズルと進行する生活感覚、われわれのそれと遠くない。偶然に倉庫で手に入れたドラッグの処分をめぐって、釜山の暴力団と接触、そのボス、チェ・ヒョンベ(ハ・ジョンウ)が、遠い親戚縁者の一人とわかり急接近、なれなれしい饒舌と、築き上げた彼流の<黒革の手帖>=権力者との直通電話網を武器に、ここでもズルズルとのし上がっていく。それにしても、チェ・ミンシクの酔っぱらい演技は絶妙だ。「オールド・ボーイ」以来のズルズルした<酔演>は余人の及ばぬ境地である。

ハ・ジョンウの表情のクール、声のたたずまいには、「チェイサー」「哀しき獣」等とこれまで痺れてきたが、「悪いやつら」のラストはハ・ジョンウのこの声で締めくくられる。チェ・ミンシクハ・ジョンウの二人の一心同体から離反へのドラマの<次>を告げる<呼びかけ>。「ベルリン・ファイル」のラストを飾った、<次なる苛烈なドラマ>へ導く<声>のかっこよさとは性格が異なるが、あるシンプルな<呼びかけ>が映画として実に上手い。その言葉にストーリーを収斂させる<想い>。

同じく、プサンの裏社会を扱ったものに「友へ チング」があるが、またあれも観たくなった。確認したくなったのが、韓国における<ヒキガエル>の象徴と意味。

滝本誠

Amazonで今すぐ購入

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む
「悪いやつら」の作品トップへ