マギーさん目当てで鑑賞。マギーさんの演技は風格・品格があり、しっとりとして、目が離せない。その表情とたたずまい、ふるまいだけで、その場の情緒を理解させてくれる。絶品。いつまでも観ていたい。この映画のこの設定なら、一人芝居でもいいくらい。
けれども…。
ジーン(マギーさん)がトンデモ人物として紹介されるが、トンデモ的な素行は全部セリフで語られて、もっとホームの面々を振り回すエピソードがあるのかと思っていたら、意外にあっさりとケリがつく。
ジーンとライバル的なプリマドンナとの攻防も、マギーさんの表情では語られるけれど、特にエピソードもなく…・
「ホーム存続の危機!」とか言っているけれど、映画的にはあまり切迫感もない。ガンボンさん演じるガキ大将ぶりが際立つくらい。
エピソードとしては、どれも中途半端。
映画的には小品としてうまくまとまっているけれど、え?これで終わり?もう一波乱あるのかと思った。
戯曲の映画化なのね。だからなのだろうか。
とはいえ、さすが実力ある俳優陣を揃えている。
今までの生活にケリをつけてホームに入る、その心情。最高のパフォーマンスができてなくなったことへの、最高級のプロとしてのこだわり。恋に自由奔放だったころの面影、誠意を尽くしてくれた人への、今更ながらの思い。さすがマギーさんが余すところなく、表現してくれる。
そんなマギーさんの最高のパフォーマンスを見てしまうと、この映画に対しても、もっとジーンを描きこんでよという、鑑賞者としての欲が出てきて物足りない。
例えば、恋に奔放という設定もセリフで語られるだけ。老いた今でさえ、あれだけの品と艶が出せる方なんだから、ジーンが意図せずとも媚態を振りまき、ホームのいろいろな男性に求愛されて、男どもを翻弄させるシーンも観たかった。もしくは、恋の浮名を流した昔の風評を周りは知っているはずだから、警戒するさまとか。
それでもなお、一途な思いを捧げてきた元夫の、忘れようにも忘れられずに、表面的な反発と抑制された恋心の葛藤、それを押し隠してのジーンとのやりとりも観たかった。
そんな関係がベースとしてあって、繰り広げられるプログラムの成否。ガンボン氏演じるセドリックももっと絡んできて、4人の距離が近づいたり、反発したり、絡み合ってというやり取りを観たかった。老人のかたくなさと、いろいろな経験を経てきた知恵、この先の孤独と和解等を絡めて欲しかった。
だって、これだけの役者を揃えているんだから。マギーさんばかり褒め称えているが、レジーの思慮深さと誠実さ、シシーの人の好さと認知症具合、ウィルフのお茶目さ。いい役者ばかり。
映画com.に載っているホフマン監督の言葉。「実際の音楽家を多用したそうだ。演技未経験だから、演技せずともありのままを見せてくれればいい」と。周りの方々と、役者の演技度が乖離しないように調整したのかしら?
と、脚本・演出には不満が残るが、
眼福の映像、
クラシック音楽の2万円近いチケットで鑑賞するつもりはないけれど、心地の良い音楽。
こんな老人になりたいなあというモデルを提供してくれたのもうれしい。
なので、映画としては☆3つ。
そして、マギーさんをはじめとする俳優陣の最高のパフォーマンスに☆0.5アップ。
最後のエンディングも、私にはご褒美でした。
それなりにおいしいんだけど、素材を見るともっとおいしくなるはずだと思ってしまう、悩ましい映画です。