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〇作品全体
登場人物それぞれが抱える過去や因果と、プロップの使い方が見事な作品だった。
例えばシン大尉。初登場シーンでモルヒネ中毒であることを見せて、痛みに鈍感な「戦争中毒者」の雰囲気を作り出す。味方に手りゅう弾を投げさせて煙幕を作るシーンでは、モルヒネというプロップによって痛みに鈍感になっているシン大尉が、自ら突撃していくことで異常さがさらに演出される。勇猛果敢ではあるがその無謀さの裏に潜む兄との関係性、そして過去。「異常」の霧が徐々に晴れて見えてくるシン大尉の人間味を「心の痛み」というキーワードに乗せて描き出しているのが見事だった。キム中尉が死亡し、涙するシーンはまさしくその「心の痛み」というキーワードを上手く使ったシーンだったと思う。モルヒネというプロップが持つ「痛みを消す」という意味合いを昇華させて物語に組み込んでいて、印象に残った。
北側の兵士と酒やタバコをやり取りするところは、特にプロップの使い方が見事だった。テギョンの写真を通じて作られ、そして見えてくるシンとテギョンの関係性や、サンオクが作った歌の歌詞を通じて共有される両軍兵士の停戦への想い、ラストシーンでシンとヒョン中隊長が分け合う酒とタバコの火。直接的な邂逅はほとんどなく、プロップのみで積み重なっていく因果関係がすごく人間的で、相対してセリフで伝えあうよりも心にスッと入ってくる演出だった。
登場人物が次々に斃れていき、いなくなっていくからこそ際立つプロップ演出。その場に残された「物」が伝えてくる独特な情感と、「物」によって時間差で露わになる因果関係に、ただただ息をのむ映画だった。
〇カメラワーク
・トラックバックのカットがめちゃくちゃカッコいい。戦争映画において大人数で接近した戦闘シーンをトラックバックで見せるのってハッタリがバレる危険性があるからあまり見ないんだけど、序盤の戦闘シーンでは容赦なくトラックバックしててびっくり。山岳地帯での戦闘ってどうしても空間が窮屈になる(それが魅力でもある)んだけど、そのトラックバックではスケール感がすごく出ていて新鮮に映った。
あとはキムが中隊長を撃ってしまった直後、シンがキムへ銃口を向けるカットのトラックバックが猛烈にかっこよかった。トラックバックカットまでの素早いカット割り、キムの頭部へ向けられた銃口を見せてゆっくりトラックバックしてシンが銃を向けている構図をフルショットで映す。意図的に作った乱れた秩序のカット割りから一気に映像的に見栄えする、整然とした構図になる快感があった。
・アクションカットのブレ演出とかスローモーション演出は2020年に見ると古さしかねえな、となった。当時見ていればなにも引っ掛かることはなかったのかもしれない。最近10年前以上の作品を見ているとき、映像の特殊効果が薄いほうが映画が作られた時代の「生っぽさ」を感じられていいなとなる。
戦争映画はそのスケールの大きさからどうしても映像的な迫力であったり悲惨な描写に目が行きがちだけど、一気に個人の感情へクローズアップできるプロップ演出も見どころの一つだ。
写真、ドッグタグ、手紙…そこにいないからこそ、そこに宿った想いが際立つ。強烈な非日常だからこそ強く意味を持つプロップたちをもっと意識して戦争映画に触れていきたい。